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120 ささやかなデモンストレーション

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 俊也の指示を果たし、アンリが部屋へ帰ると、

「ほらほら、ここがいいんだろ?
なんとか言ったら?
なんにも言わないつもり?
またお仕置きしちゃうよ」
 ふぁさ、ふぁさ……。
 ベッドに横たわった全裸の俊也が、アンにいたぶられていた。

 緊縛は解除していないようだ。俊也の体は硬直している。あれもでかいまま硬直している。

アンがどのようにいたぶっているのかといえば、足の裏を、彼女の脱いだおパンツでくすぐっている。
 
「アンさん、俊也さんが動かなかったら、つまんなくないですか?」
 アンリが物申す。あれではせっかくの絶技が望めない。

「う~ん、それはそうなんだけどさ、俊也さんの目を見てよ。
もっといじめてって、訴えてない?」

 アンリは俊也の目に注目。

涙目じゃん!

だがしかし! たしかにきらきらしてる。

理解不能……。


翌日の十時前、俊也たちはロビーに降りてきた。

アンが俊也に耳打ちする。俊也は軽くうなずき、ソファーに座る男に歩み寄った。

「はじめまして。アオガタです」
 
俊也は中年の男に右手を差し出す。男は苦笑して立ち上がり、握手に応える。以下の応答は英語だと思い込んでください。

「あなたの所属先や、お名前は聞きません。率直にお話しします。
今回は、このリストの品を買いつけに来ました」
 俊也はメモをその男に渡す。

「ほほう……。できれば、何に使うつもりなのか、お聞かせ下さい」
 男はメモを見て、鋭い目を俊也に向ける。

「もちろん王国の防衛です。
ぶっちゃけ、高位の魔導師の数は限られています。
そして、その魔導師たちが、大きな魔法を使ったらどうなるか、すでにご存じだと思います。
つまり、まとまった数で、城を攻められたら、防衛のために、周囲の環境を激変させることになります。
できれば、それは避けたい。
そこで非力な兵にも、ある程度の力を与えたい。
そういうことです」

「なるほど……。こちらの世界で、使用するつもりはない。そう判断してよろしいですか?」

「もちろんですよ。その程度の武器で、アメリカ社会に太刀打ちできるわけないでしょ? 
それに、こちらの世界で、我々が活動する拠点は、あくまで日本です。
日本でそんなもの使用できません」

 男は一つうなずいて聞いた。
「たしかに。どうして我々に?」
 
「大統領にお願いしたら、ことが大きくなりすぎます。
かといって、私が個人的に民間で仕入れたら疑うでしょ? 
公明正大かつ、こっそりと。
私たちを監視する筋にお願いしたら、最適だと判断しました。
できればお安くお譲りください」
 
男は最後のフレーズで、クククク、と笑いを漏らしてしまった。

「そんな取引、公的に計上できないこと、わかってて言ってますね? 
間違っていたらお許しください。早い話、ただで手に入れるため我々を選んだ?」

「その通りです」
 俊也は澄まして応える。

「いいでしょう。どこで引き渡せばいいですか?」

「軍事訓練施設で。木を隠すなら森といいますから。そのブツの『消費』が、不自然ではなくなります」
 
男はこらえきれず笑った。

「いろいろと心遣いいただき恐縮です。
参考のために聞かせていただけますか? 
私を含め、監視の者にどうして気づいたのか?」

「文字通り、『気』です。必要以上に、我々に注意を払っている人の。
ついでに、最新の電子機器も、役に立たなかったのは、仕方ないとあきらめて下さい。
我々は魔導師ですから。
その秘密を明かしてもいいですが、絶対真似はできません」

「あくまで参考のためにです。その秘密とは?」

「体温を検知されないように、シールドを張ります。
モニターには、部屋全体が青く映っていたはずです。
冬なら真っ赤になるはずです。
音や電子信号は、波で送られます。
その波を遮断すればいい」

「おっしゃるとおり、全然参考になりませんでした。明日の朝十時、お迎えにまいります。
このロビーでお待ちください」
 男は苦笑を浮かべてそう言った。

「アンリが個人的にお願いしたいそうなんですが、よろしいですか?」
 アンリが軽く会釈する。

「どのようなことでしょう?」
 男が聞く。

「せっかく軍の訓練施設にいくのだから、体験入隊したいと申しております。
アンリは魔法戦士、つまり、魔法も使える格闘主体の戦士です」

「いいでしょう。軍部の者も、興味があるでしょう。それでは」

「今日の予定は買い物程度です。別に付いてきてもいいですけど」

「部下の訓練になります。見つけたら肩を叩いてやって下さい」
 そう言って男は席を立った。

「アンリ、監視している人の肩をたたけって。訓練になるそうだから」

「わ~、変形のかくれんぼですね? 了解です」
 アンリは喜々として歩いていった。

「俊也さん、私たちを監視しているカメラ、どうしますか?」

「変形の宝探し。どうぞ」

「了解です」
 
アンリはいつもどおりの表情で歩いていった。

五分後に、変形のかくれんぼと宝探しは完了した。


 パン、パン、パン……。乾いた銃声が響く。当初は的に散らばっていた弾痕が、中心に集中し始めた。

双眼鏡で的を見ていた軍人がつぶやく。

「オーマイガー……。狙撃兵としても使えるんじゃね?(英語、以下同様)」
「相当訓練してますね?」
 多分将校だろう。アンリの軍事訓練を視察していた軍人二人が言った。

「アンリが一番得意なのは小刀です。銃は一日だけ練習したことがありました」
 俊也は事実を伝える。

「¥&%#$“?」
 アンリが俊也に何か伝えた。

「銃弾に魔法を付与してもいいか聞いてます。
あの的、ばらばらになってもいいですか?」

「どうぞ」
 
軍人が応える。

「やっちゃって」
 
俊也がアンリに指示する。アンリは杖代わりのスティックを取り出し、銃弾に魔法をかけた。

「爆裂弾丸!」
 
パン、パン。どか~ん……。

銃弾は人形型の的を貫通し、背後の土塁を崩してしまった。

「%&$#%!」
 
アンリがびっくりし、深く頭を下げた。

「あんなに威力があるとは思いませんでした。
土塁を壊しちゃってごめんなさい、だそうです」
 俊也が通訳する。

「気にしなくていいです。それに、もういいです」
 
軍人たちは、これ以上「訓練」を、見たくなかった。あの女性、ランボーよりはるかにタフで強い。

事実、格闘訓練では、ランボー並みの現役兵を秒殺してしまった。

信じられないスピードで懐に飛び込み、鳩尾にストレート一発。
兵士の分厚く頑丈な腹筋は、こんにゃく並みの防御力? という感じ。

聞けばパンチを放つ瞬間に、魔法を同時に放っているそうだ。

周囲が内臓破裂を心配した相手兵士は、アンリがすぐに治した。

心の傷までは治せなかっただろうが。 

「なんかごめんなさい。アンリ、つい張り切り過ぎたみたいです。
あの子、本当は、大人しくて優しい子ですから」
 俊也はアンリに代わり、深く頭を下げた。

軍人たちは思う。このまま武器を渡してよいものだろうか? 

大統領に改めて進言しよう。このモンスターたちに、絶対手を出してはなりません!


 軍の幹部は、尻尾が二本生えた黒猫の行動を見ていた。
軍が用意したコンテナの周囲を、黒猫が一周した。

中身はもちろん小銃、拳銃、そしてそれらの銃弾だ。コンテナの周囲が青白く光り始めた。

「転移!」
 
黒猫が何か唱えた。瞬間、コンテナは消えた。

「どうもお騒がせしました。カードさんによろしく(英語)」
 
黒猫はそう言って、アンリとアンを転移させた。そして自分も、あらかじめ作っていた魔法陣に入り、「転移」の呪文と同時に消えた。

軍幹部たちは、お互いの顔を見合わせ、ひきつった笑いを浮かべた。

「エイリアンが攻めてきたら、救援を頼むか?」
「ナイスアイデアだ。いい勝負をするかもしれない」
 乾いた笑いが起こった。
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