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68 ポナンの最期

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 逃亡者となったポナン達は、夜しか動けなくなっていた。それも街道をそれた、けもの道を移動するしかない。

野獣や魔物に何度も襲撃された。そして、幽霊たちは、律義に毎日襲ってくる。

幽霊は夜しか出ないと思いきや、野宿を始めたら昼夜別なく。

幽霊はアイスアロー、風刃、ブランチニードルなどの初級魔法で、ちまちま攻撃してくる。

大魔導師と高弟二人とはいえ、完全に防ぎきれない。

傷を負っては魔法で癒し、また傷を負って癒しの繰り返し。

負傷したら当然痛い。出血もする。失った血は、傷が癒えてもすべて戻るわけではない。

睡眠不足、食料不足、疲労困憊。

そして今日、頼りの馬も、どこかへ消えた。見張り役が、つい眠りに落ちたのだ。無理もない。見張りは二人で交替しながらだから。

「この馬鹿者が! 
馬を奪われてどうしろというのだ!」
 ポナンは、何度も見張り役を蹴とばした。

「いいかげんにしろ! 
一人だけグースカ眠りやがって。
あ~、やめた、やめた! 
俺は自首する。
クラウド、どうする?」

「やってられねえよ! 
殺したければ殺せ! 
すっぱり殺してくれた方がましだ!」
 足蹴にされた高弟が、立ち上がってポナンをにらみつけた。もう一人も殺気だってポナンを見る。

二人とも、もちろん素直に殺される気はない。杖を使って魔法陣を描き、アイスランサーを描きこんだ。

ポナンは魔法陣を描きかけ、やめた。こんな近距離で、しかも姿はお互い見えている。

魔法陣を完成させる前に、殺されてしまう。前に記したとおり、接近魔法戦で少々の実力差は関係ない。
発動の早さがすべてなのだ。

「ハハハ……。殺したければ殺せ!」
 ポナンは杖を捨て、大の字に横たわった。弟子の一人が、魔法を唱えようとした。

もう一人が止めた。

「どうせ幽霊にとり殺されるさ。殺す価値もない」
 二人にとって、敬愛すべき師はもういなくなった。彼らに残されたのは、師への憎しみだけだった。
油断なく下がり、街道を目指した。


 ポナンは気づいた。囲まれている。ポナンは笑ってしまった。
大魔導師と呼ばれたわしが、幽霊の初等魔法で串刺しか……。あの幽霊たちの初等魔法でも、普通の武器程度の威力はある。

こう囲まれてしまっては、手の出しようがない。


「だから忠告しました。出て行けと。
どうしますか? 
ここで死にますか? 館を襲撃しますか? 
大魔導師の実力を過信したかもしれません。
私が念入りに仕掛けたトラップが台無しです」

「お前、本当にフラワーか?」
 ポナンは目を閉じたまま聞く。

「本当のフラワーは、館で幸せに暮らしています。お腹に宿った子を慈しみながら。
なぜ何もしない私たちを、殺そうとしたのですか? 
やっぱり、あなたより実力が付いてしまった、私たちが妬ましい?」

「それもある。だが、これを見ろ」
 ポナンは、ぼろぼろになったズボンと下着をおろした。

子どもサイズのジュニアが、なぜだかビンビン立ちになっていた。

「笑えよ。これがわしの正体だ。
わしも妻をめとったことがある。
その妻との初夜だ。
思い切ってこれを見せた。
あの女なら、これを受け入れると思った。
その女、なんと言ったと思う?
『あら』だよ、『あら』
いっそ短小ヤローと、ののしられた方がましだ。
即座に離婚した。
こんな異名を広げてくれた。『ベビーポナン』
魔導師の割に筋骨がたくましいわしが、ベビーだ。
わしには魔法しかなかった。
わしは高度の魔法が使えて、しかもベビーじゃないやつらを殺した。
男も女も」

「そうだったんですか。でも同情はいたしません」
 フラワーは冷酷に言った。

「最後に聞かせてほしい。どうやってその姿を保てる?」

「これは異国の魔法です。私たちはみんな紙です。
詳しい原理は私にもよくわかりません。
原理などないのかもしれません。
あの方は強く思うだけで、魔法が発動できます。
このように」
 フラワーは魔法陣を描き、真中に手の平をあてた。

「アイスランス!」と唱えた。

式たちは、遅れず一斉に魔法を放つ。

哀れな大魔導師の供として、一斉に燃え尽きた。
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