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16 美少女BBAがやってきた
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朝陽にスマホで呼び出され、カナは慌てて飛んできた。
「はあ、はあ……。お兄ちゃん、無事だったのね。顔を見てほっとした」
玄関で迎えた俊也を見て、カナは脱力した。彼女のショートにまとめた黒髪は、軽く乱れていた。
丸い顔に一重まぶた。美人判定したら微妙だが、クラスで一番の人気者。カナも朝陽も、いわば庶民派アイドルというイメージ。カナは一人っ子だから、俊也・朝陽兄妹とは、まるで家族のように付き合ってきた。
「心配させてごめん。寒いだろ? まあ入って」
俊也は心から頭を下げた。リビングへ誘う。
「朝陽、インスタントでいいからコーヒー頼める?」
「ちょっと、カナちゃん、聞いてよ。
お兄ちゃん、私やカナちゃんに黙って、事実婚しちゃったんだって。
相手は美魔女だそうよ。四十八歳のBBA(ババアの略。若者のヘイト用語)。
どう思う?」
朝陽は兄の依頼を無視し、告げ口する。
「事実婚! 同棲ってこと?」
カナは柳眉を吊り上げて詰め寄る。
「まあ、そうなんだけど……。朝陽、余計なこと言わないでいいから、コーヒー頼む」
朝陽は全然ウソを言ってないから、俊也は強く出られない。もともと力関係は、はるかに妹優勢だったし。
「余計なことじゃないでしょうが!
実の妹と妹もどきよ!
私はカナちゃんしか、お兄ちゃんの嫁と認めない!」
「朝陽、落ち着いて。詳しい話を聞こう」
カナは自分の高ぶりを抑えながら言った。お兄ちゃんの嫁なんて意識したことはなかったが、無性に悔しい。
朝陽は兄をにらみつけ、キッチンへ向かった。カナちゃんはコートも着てなかった。温かい飲み物が欲しいだろう。
俊也とカナは、向かい合う形で、気まずくソファーに腰掛けた。
朝陽がドリップで淹れたコーヒーを運んで来た時、俊也はいきさつをかいつまんで話していた。
少し冷静になった朝陽は、黙ってコーヒーを配り、ドスンと兄の隣に腰掛ける。
全く信じられない話だが、状況は信じるしかないということを示している。俊也はどうしてルラと大人の階段を上ったのか、という部分にさしかかった。
朝陽が拒否した部分だ。朝陽が一番信じられなかった部分でもある。
お兄ちゃんが出会ったばかりの女性と、すぐエッチしちゃうような男ではないと信じていた。
お兄ちゃんはお調子者だが、面識が浅い女性に対しては慎重な人だった。
本人いわく。「頑張って話そうと思ったら、空回りしちゃう」。自意識過剰で、ついおどけてしまう。
それが自分でも分かっているから、若い女性を避けていると朝陽は分析していた。
朝陽は今日十一歳になったばかりだが、年齢にふさわしくない鋭い感性も持っていた。
「侍女のルマンダという人で、実験しようと思ったみたい。ルラ以外の人間でも、変身するのかってこと。
ルラは学究肌の女だから」
「ルマンダっていう人、若いの?」
朝陽は低い声で聞く。
「百歳近いらしい」
「百歳! マジBBAじゃん!」
朝陽は、またしてもヘイト発言。
「一応断っておくけど、高い魔力を持つ人間は、主に貴族階級なんだけど、平均年齢が三百歳ぐらいだって。
ルラはカナちゃんとほとんど変わらない感じ。
ルマンダは三十前後の見た目。
うらやましいことに、若い季節が信じられないほど長い」
なんですと! 朝陽もカナもびっくり。
若さのアドバンテージ消えた~……。
「で、お兄ちゃんはどうなるわけ?」
衝撃から立ち直ったカナが聞く。
「見当もつかない」
朝陽とカナはコクコクとうなずく。それはそうだろう……。
「で、ルマンダなんだけど……」
衝撃発言、つまり、俊也はルマンダとのセックスを切り出した。
蒼白になった二人は、「フケツ!」と言い残し、リビングを出ていった。
だよね~……。だが、妹たちに(俊也はカナも妹認定している)、嘘をつきたくなかった。いつかは引き合わせようと思っていたから。
『すまぬ。俺の性格が反映したと思う。さかった若い雌猫を見たら、手当たりしだい食べちゃうから』
俊也は猫又ナイトの言葉に、奇妙に納得してしまった。なるほどね~……。
据え膳食わぬは男の恥、そのイズムは野性に共通する。
この後、フォローできるだろうか? 俊也はあちらの世界に帰りたくなった。
朝陽の部屋。二人はべそをかきながら、朝陽のベッドに座っていた。
「カナちゃん、どう思う?」
朝陽が力なく振る。
「許せない! だけど、話してくれたのは誠実だと思う。お兄ちゃんらしい」
カナはマジでそう思った。異世界での出来事だ。黙っていれば、ばれるわけない。
悔しいが、私や朝陽ちゃんに責める権利もない。お兄ちゃん、もうすぐ十八になるし。
恋愛の自由を責める自分たちの方が理不尽なのだ。
朝陽のスマホにメールが入った。
『ごめん。それしか言えない。
父さんと母さんに顔を見せたら帰る。二度と帰らないから。
さようなら。
カナちゃんにも謝っておいて』
「どうしよう……。お兄ちゃん、二度と帰らないって!」
朝陽が泣き顔で叫ぶ。
「どうしてよ! 怒ったのかな?
……怒るのも当然だ。
私たちに、お兄ちゃんを縛る権利はない」
カナはうつむく。なぜだか涙がこぼれてきた。「妹」として、祝福するべきなのだ。
だけど、できない。カナは初めて気づいた。私は男性としてのお兄ちゃんが大好きなのだ。
二人はどよ~んとして、沈黙の海に沈んだ。
十分ほど経っただろうか。ドアがノックされた。二人は、はっとしてドアを見る。
「開けようか?」
朝陽はカナを見る。カナは力なくうなずく。まだ心の整理がついていない。できれば今、顔を合わせたくなかったのだが。
「ルラデス。アケテクダサイ」
たどたどしいが、澄んだ言葉が聞こえた。朝陽はびっくりしてドアを開けた。
「ゴメンナサイ。ミンナワタシガワルインデス」
金色に光る髪が、深く頭を下げていた。兄のセーターを着、ジーンズをはいていた。
上も下もぶかぶか。くるぶしと手首で、何度も無理やり折り返していた。
ちなにみ、ルラは裸で飛んできた。猫又ナイトが生物と非生物のミックスはないと、伝え忘れていたからだ。
「私たちこそ、ひどい態度とってごめんなさい。
どうか頭をあげて」
ルラはコケティッシュな服装ながら、どこか高貴なオーラを放っていた。
朝陽は会ったらイジメてやると思っていたが、とてもイジメられる雰囲気ではなかった。
ルラはゆっくり頭を上げた。
朝陽は一歩退き、カナは背を反らした。
朝陽とカナは思った。よくこんなとんでもない美少女、抱く気になれたものだ。
お兄ちゃん、案外大物かもしれない。あ、四十八歳だった。BBAなんて、無茶苦茶失言でした。
ルラは俊也の両親が帰ってくるまで、この家に残ることにした。大事な問題が発生するはずだという、俊也の言葉もあったし。
「やっぱり思ったとおりだ。小さな山でも、一発で吹き飛ばしたらひどいことになる。
予定のデモンストレーション、だめだよ」
俊也はくるんと椅子を向け、そう言った。机には奇妙な機械が置いてあった。俊也はカタカタと指を動かし、手のひらより小さい道具をカチカチさせていた。
開いた機械の画面には、山の図面と記号が映されていた。ルラは大いに好奇心が刺激されたが、作業の妨げにならないよう、質問を控えていた。
「やっぱりね。そうじゃないかとも思ったんだけど。
できるだけ派手にやりたいんだけど、無理があるよね?」
ルラは具体的なイメージを描けなかったが、大岩を破壊する程度の魔法は使ったことがある。
確かに岩の破片が飛び散り、ひどいことになった。どうせならと思って提案したが、大恥をかいてしまった。
「ちょっぴり抜けてるところが、かわいいよ」
俊也は苦笑気味に慰めた。ルラは思う。可愛いなんていうほめ言葉、いつ聞いただろう?
ルラはコツンと頭を叩いた。「美人」には美人なりの悩みがある。明らかに贅沢な悩みだが。
「で、その機械はなんなの?」
ルラは抑えていた質問をした。
「これはパーソナルコンピュータ。略してパソコン。持っていきたいんだけど、電源がね。
一々こっちへ充電しに帰るわけにいかないし。
使い道はいろいろ。
一種の魔法の機械と考えてもらっていい…、忘れてた。
プリン」
呼びかけに応え、プリンは「は~い!」と駆け寄った。俊也は指輪をプリンの口から取り出す。
「この指輪、カットと研磨し直す。
そのとき、分割した方がいいと思う。
でかすぎて目立つから売りにくいはずだ。
かまわない?」
「そんなことできるんだ? いいよ。ダイヤ、超硬いから加工しにくいの」
俊也は思う。これで向こうへ持って帰る物の資金は、調達できそうだ。朝陽とカナちゃんは、ルラと会わせたとたん、態度は軟化した。
カナちゃんは、伊東のおじさんにも頼んでくれると言っていた。俊也は自分の異世界転移の件だけは、話していいと許可を与えている。
部屋のドアがノックされた。どうぞ、と俊也が応えると、カナが紙袋を「どうぞ」と差し出した。ルラの着替え購入を頼んでいたのだ。
「ありがとう。指輪が売れたら、お礼はするから」
「いいよ、お礼なんて。
お父さんも商売だし、あんなでかいダイヤだもん。きっと断らない。
ルラさん、着方わかるかな?」
「着方教えてくれるって」
俊也は日本語がわからないルラに通訳。
「アリガトゴザイマス」
ルラは笑顔で丁寧に頭を下げた。これは到底かなわない。カナは再び敗北感に打ちしおれた。
ルラはセーターを脱いだ。俊也のTシャツを着ていた。でかくはないが、少し上向きの乳房の形がなんとなくわかる。
きれいな形だ…って、なんでお兄ちゃんがいるのよ!
「お兄ちゃん、出ていきなさいよ」
カナは俊也をにらむ。
「だって、ルラは日本語わからないし、今さらだろ?」
「そうなんだけど……。じゃあ、いいよ」
カナは、この二人は肉体的につながっていると改めて実感した。
俊也が遠く感じられた。失踪している時よりも。
「これ、ブラという下着。向こうの国にもあるの?」
「ないみたいだよ」
俊也はカナの質問に即答する。
「Tシャツ、脱いで」
俊也が通訳し、ルラはためらいなくTシャツを脱いだ。ぷるん。二つのおっぱいがこぼれ出た。
なんというか、気品あるおっぱい?
形といい、乳首や乳輪の色といい。
カナはルラの上半身ヌードに見とれた。容貌も相まって、完全なる芸術作品だ。
おっぱい丸出しでも、ルラと俊也は平生だった。
裸を見せることも日常化している。カナはそれも合わさって徹底的に打ちのめされた。
なんだか逆にすっきりした。
ルラの背後に回り、ブラをあてがった。前にかがみ、カップをトップに合わせるように指示。
そして、ホックを止める。俊也は通訳しながら、興味津々の目で過程を見守る。
カナはかすかに笑った。裸は慣れてるけど、ブラをつけるシーンは初めてなんだ?
まあ、向こうにはないらしいから当然か。
カナは必要ないと思ったが、一応おっぱいを両手で整形する。巨乳ではないが、たしかな重量感。うらやましい……。
「この下着、ホットテックというの。薄いけど温かいよ」
もう指導は必要ないだろう。カナは黒の下着を渡した。
ルラはその下着を身につけ、乱れた髪をかき上げた。
一瞬真っ白なうなじがのぞき、すぐ金色の髪が隠した。
なんの装飾もない薄い下着だが、ボディーラインをいっそうすっきり見せた。
はぁ~……と、ため息をつきながら、カナは黒のセーターを渡し、上半身完了。
そして真白の木綿パンツを渡す。ルラはジーンズを脱ぐ。カナはびっくり。
ノーパンだった。下は……、まあまあ生えそろっている。この世界で言えば、多分十七、八歳に相当するだろう。
下もやっぱり金色なんだ……。
お兄ちゃんの下着は貸せないよね。
カナはルラに厚めのタイツ、ストレッチジーンズをはかせ、着替え完了……って。
ジー……。俊也はジーンズのファスナーを上げてやった。
二人とも全然ためらいが感じられなかった。服越しだが、最重要ポイントに軽く触れたのに。
もう参っちゃったよ。お兄ちゃん、よかったねと心から祝福したい気分になった。
ルラが屈伸しながら何か言っている。
「とても動きやすいって。同じもの何着か欲しいそうだけど、もう俺の財布からから。
サイズのメモ、残しておいて」
「はいはい。前金、いくらくらい必要?
用意するよう連絡する」
カナはさっぱりした表情で聞く。
「ソーラーパネルセット、運べるかな?」
俊也は独り言のようにつぶやく。
「そうなんだ! それならたいていの物、運べるな。新しいパソコンも買おう!」
また独り言。そうか、猫又ナイトと相談してるんだ。カナは納得。
「悪いけど、出来るだけ多い方が。
透明度抜群で二十カラット以上あると思う。傷もなし」
「了解! また明日の夜に来る。
ルラさん、忙しいそうだけど、また来てね。
さようなら」
カナはそう言い残し、部屋を去った。
「はあ、はあ……。お兄ちゃん、無事だったのね。顔を見てほっとした」
玄関で迎えた俊也を見て、カナは脱力した。彼女のショートにまとめた黒髪は、軽く乱れていた。
丸い顔に一重まぶた。美人判定したら微妙だが、クラスで一番の人気者。カナも朝陽も、いわば庶民派アイドルというイメージ。カナは一人っ子だから、俊也・朝陽兄妹とは、まるで家族のように付き合ってきた。
「心配させてごめん。寒いだろ? まあ入って」
俊也は心から頭を下げた。リビングへ誘う。
「朝陽、インスタントでいいからコーヒー頼める?」
「ちょっと、カナちゃん、聞いてよ。
お兄ちゃん、私やカナちゃんに黙って、事実婚しちゃったんだって。
相手は美魔女だそうよ。四十八歳のBBA(ババアの略。若者のヘイト用語)。
どう思う?」
朝陽は兄の依頼を無視し、告げ口する。
「事実婚! 同棲ってこと?」
カナは柳眉を吊り上げて詰め寄る。
「まあ、そうなんだけど……。朝陽、余計なこと言わないでいいから、コーヒー頼む」
朝陽は全然ウソを言ってないから、俊也は強く出られない。もともと力関係は、はるかに妹優勢だったし。
「余計なことじゃないでしょうが!
実の妹と妹もどきよ!
私はカナちゃんしか、お兄ちゃんの嫁と認めない!」
「朝陽、落ち着いて。詳しい話を聞こう」
カナは自分の高ぶりを抑えながら言った。お兄ちゃんの嫁なんて意識したことはなかったが、無性に悔しい。
朝陽は兄をにらみつけ、キッチンへ向かった。カナちゃんはコートも着てなかった。温かい飲み物が欲しいだろう。
俊也とカナは、向かい合う形で、気まずくソファーに腰掛けた。
朝陽がドリップで淹れたコーヒーを運んで来た時、俊也はいきさつをかいつまんで話していた。
少し冷静になった朝陽は、黙ってコーヒーを配り、ドスンと兄の隣に腰掛ける。
全く信じられない話だが、状況は信じるしかないということを示している。俊也はどうしてルラと大人の階段を上ったのか、という部分にさしかかった。
朝陽が拒否した部分だ。朝陽が一番信じられなかった部分でもある。
お兄ちゃんが出会ったばかりの女性と、すぐエッチしちゃうような男ではないと信じていた。
お兄ちゃんはお調子者だが、面識が浅い女性に対しては慎重な人だった。
本人いわく。「頑張って話そうと思ったら、空回りしちゃう」。自意識過剰で、ついおどけてしまう。
それが自分でも分かっているから、若い女性を避けていると朝陽は分析していた。
朝陽は今日十一歳になったばかりだが、年齢にふさわしくない鋭い感性も持っていた。
「侍女のルマンダという人で、実験しようと思ったみたい。ルラ以外の人間でも、変身するのかってこと。
ルラは学究肌の女だから」
「ルマンダっていう人、若いの?」
朝陽は低い声で聞く。
「百歳近いらしい」
「百歳! マジBBAじゃん!」
朝陽は、またしてもヘイト発言。
「一応断っておくけど、高い魔力を持つ人間は、主に貴族階級なんだけど、平均年齢が三百歳ぐらいだって。
ルラはカナちゃんとほとんど変わらない感じ。
ルマンダは三十前後の見た目。
うらやましいことに、若い季節が信じられないほど長い」
なんですと! 朝陽もカナもびっくり。
若さのアドバンテージ消えた~……。
「で、お兄ちゃんはどうなるわけ?」
衝撃から立ち直ったカナが聞く。
「見当もつかない」
朝陽とカナはコクコクとうなずく。それはそうだろう……。
「で、ルマンダなんだけど……」
衝撃発言、つまり、俊也はルマンダとのセックスを切り出した。
蒼白になった二人は、「フケツ!」と言い残し、リビングを出ていった。
だよね~……。だが、妹たちに(俊也はカナも妹認定している)、嘘をつきたくなかった。いつかは引き合わせようと思っていたから。
『すまぬ。俺の性格が反映したと思う。さかった若い雌猫を見たら、手当たりしだい食べちゃうから』
俊也は猫又ナイトの言葉に、奇妙に納得してしまった。なるほどね~……。
据え膳食わぬは男の恥、そのイズムは野性に共通する。
この後、フォローできるだろうか? 俊也はあちらの世界に帰りたくなった。
朝陽の部屋。二人はべそをかきながら、朝陽のベッドに座っていた。
「カナちゃん、どう思う?」
朝陽が力なく振る。
「許せない! だけど、話してくれたのは誠実だと思う。お兄ちゃんらしい」
カナはマジでそう思った。異世界での出来事だ。黙っていれば、ばれるわけない。
悔しいが、私や朝陽ちゃんに責める権利もない。お兄ちゃん、もうすぐ十八になるし。
恋愛の自由を責める自分たちの方が理不尽なのだ。
朝陽のスマホにメールが入った。
『ごめん。それしか言えない。
父さんと母さんに顔を見せたら帰る。二度と帰らないから。
さようなら。
カナちゃんにも謝っておいて』
「どうしよう……。お兄ちゃん、二度と帰らないって!」
朝陽が泣き顔で叫ぶ。
「どうしてよ! 怒ったのかな?
……怒るのも当然だ。
私たちに、お兄ちゃんを縛る権利はない」
カナはうつむく。なぜだか涙がこぼれてきた。「妹」として、祝福するべきなのだ。
だけど、できない。カナは初めて気づいた。私は男性としてのお兄ちゃんが大好きなのだ。
二人はどよ~んとして、沈黙の海に沈んだ。
十分ほど経っただろうか。ドアがノックされた。二人は、はっとしてドアを見る。
「開けようか?」
朝陽はカナを見る。カナは力なくうなずく。まだ心の整理がついていない。できれば今、顔を合わせたくなかったのだが。
「ルラデス。アケテクダサイ」
たどたどしいが、澄んだ言葉が聞こえた。朝陽はびっくりしてドアを開けた。
「ゴメンナサイ。ミンナワタシガワルインデス」
金色に光る髪が、深く頭を下げていた。兄のセーターを着、ジーンズをはいていた。
上も下もぶかぶか。くるぶしと手首で、何度も無理やり折り返していた。
ちなにみ、ルラは裸で飛んできた。猫又ナイトが生物と非生物のミックスはないと、伝え忘れていたからだ。
「私たちこそ、ひどい態度とってごめんなさい。
どうか頭をあげて」
ルラはコケティッシュな服装ながら、どこか高貴なオーラを放っていた。
朝陽は会ったらイジメてやると思っていたが、とてもイジメられる雰囲気ではなかった。
ルラはゆっくり頭を上げた。
朝陽は一歩退き、カナは背を反らした。
朝陽とカナは思った。よくこんなとんでもない美少女、抱く気になれたものだ。
お兄ちゃん、案外大物かもしれない。あ、四十八歳だった。BBAなんて、無茶苦茶失言でした。
ルラは俊也の両親が帰ってくるまで、この家に残ることにした。大事な問題が発生するはずだという、俊也の言葉もあったし。
「やっぱり思ったとおりだ。小さな山でも、一発で吹き飛ばしたらひどいことになる。
予定のデモンストレーション、だめだよ」
俊也はくるんと椅子を向け、そう言った。机には奇妙な機械が置いてあった。俊也はカタカタと指を動かし、手のひらより小さい道具をカチカチさせていた。
開いた機械の画面には、山の図面と記号が映されていた。ルラは大いに好奇心が刺激されたが、作業の妨げにならないよう、質問を控えていた。
「やっぱりね。そうじゃないかとも思ったんだけど。
できるだけ派手にやりたいんだけど、無理があるよね?」
ルラは具体的なイメージを描けなかったが、大岩を破壊する程度の魔法は使ったことがある。
確かに岩の破片が飛び散り、ひどいことになった。どうせならと思って提案したが、大恥をかいてしまった。
「ちょっぴり抜けてるところが、かわいいよ」
俊也は苦笑気味に慰めた。ルラは思う。可愛いなんていうほめ言葉、いつ聞いただろう?
ルラはコツンと頭を叩いた。「美人」には美人なりの悩みがある。明らかに贅沢な悩みだが。
「で、その機械はなんなの?」
ルラは抑えていた質問をした。
「これはパーソナルコンピュータ。略してパソコン。持っていきたいんだけど、電源がね。
一々こっちへ充電しに帰るわけにいかないし。
使い道はいろいろ。
一種の魔法の機械と考えてもらっていい…、忘れてた。
プリン」
呼びかけに応え、プリンは「は~い!」と駆け寄った。俊也は指輪をプリンの口から取り出す。
「この指輪、カットと研磨し直す。
そのとき、分割した方がいいと思う。
でかすぎて目立つから売りにくいはずだ。
かまわない?」
「そんなことできるんだ? いいよ。ダイヤ、超硬いから加工しにくいの」
俊也は思う。これで向こうへ持って帰る物の資金は、調達できそうだ。朝陽とカナちゃんは、ルラと会わせたとたん、態度は軟化した。
カナちゃんは、伊東のおじさんにも頼んでくれると言っていた。俊也は自分の異世界転移の件だけは、話していいと許可を与えている。
部屋のドアがノックされた。どうぞ、と俊也が応えると、カナが紙袋を「どうぞ」と差し出した。ルラの着替え購入を頼んでいたのだ。
「ありがとう。指輪が売れたら、お礼はするから」
「いいよ、お礼なんて。
お父さんも商売だし、あんなでかいダイヤだもん。きっと断らない。
ルラさん、着方わかるかな?」
「着方教えてくれるって」
俊也は日本語がわからないルラに通訳。
「アリガトゴザイマス」
ルラは笑顔で丁寧に頭を下げた。これは到底かなわない。カナは再び敗北感に打ちしおれた。
ルラはセーターを脱いだ。俊也のTシャツを着ていた。でかくはないが、少し上向きの乳房の形がなんとなくわかる。
きれいな形だ…って、なんでお兄ちゃんがいるのよ!
「お兄ちゃん、出ていきなさいよ」
カナは俊也をにらむ。
「だって、ルラは日本語わからないし、今さらだろ?」
「そうなんだけど……。じゃあ、いいよ」
カナは、この二人は肉体的につながっていると改めて実感した。
俊也が遠く感じられた。失踪している時よりも。
「これ、ブラという下着。向こうの国にもあるの?」
「ないみたいだよ」
俊也はカナの質問に即答する。
「Tシャツ、脱いで」
俊也が通訳し、ルラはためらいなくTシャツを脱いだ。ぷるん。二つのおっぱいがこぼれ出た。
なんというか、気品あるおっぱい?
形といい、乳首や乳輪の色といい。
カナはルラの上半身ヌードに見とれた。容貌も相まって、完全なる芸術作品だ。
おっぱい丸出しでも、ルラと俊也は平生だった。
裸を見せることも日常化している。カナはそれも合わさって徹底的に打ちのめされた。
なんだか逆にすっきりした。
ルラの背後に回り、ブラをあてがった。前にかがみ、カップをトップに合わせるように指示。
そして、ホックを止める。俊也は通訳しながら、興味津々の目で過程を見守る。
カナはかすかに笑った。裸は慣れてるけど、ブラをつけるシーンは初めてなんだ?
まあ、向こうにはないらしいから当然か。
カナは必要ないと思ったが、一応おっぱいを両手で整形する。巨乳ではないが、たしかな重量感。うらやましい……。
「この下着、ホットテックというの。薄いけど温かいよ」
もう指導は必要ないだろう。カナは黒の下着を渡した。
ルラはその下着を身につけ、乱れた髪をかき上げた。
一瞬真っ白なうなじがのぞき、すぐ金色の髪が隠した。
なんの装飾もない薄い下着だが、ボディーラインをいっそうすっきり見せた。
はぁ~……と、ため息をつきながら、カナは黒のセーターを渡し、上半身完了。
そして真白の木綿パンツを渡す。ルラはジーンズを脱ぐ。カナはびっくり。
ノーパンだった。下は……、まあまあ生えそろっている。この世界で言えば、多分十七、八歳に相当するだろう。
下もやっぱり金色なんだ……。
お兄ちゃんの下着は貸せないよね。
カナはルラに厚めのタイツ、ストレッチジーンズをはかせ、着替え完了……って。
ジー……。俊也はジーンズのファスナーを上げてやった。
二人とも全然ためらいが感じられなかった。服越しだが、最重要ポイントに軽く触れたのに。
もう参っちゃったよ。お兄ちゃん、よかったねと心から祝福したい気分になった。
ルラが屈伸しながら何か言っている。
「とても動きやすいって。同じもの何着か欲しいそうだけど、もう俺の財布からから。
サイズのメモ、残しておいて」
「はいはい。前金、いくらくらい必要?
用意するよう連絡する」
カナはさっぱりした表情で聞く。
「ソーラーパネルセット、運べるかな?」
俊也は独り言のようにつぶやく。
「そうなんだ! それならたいていの物、運べるな。新しいパソコンも買おう!」
また独り言。そうか、猫又ナイトと相談してるんだ。カナは納得。
「悪いけど、出来るだけ多い方が。
透明度抜群で二十カラット以上あると思う。傷もなし」
「了解! また明日の夜に来る。
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さようなら」
カナはそう言い残し、部屋を去った。
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これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
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ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
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「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
【R18】僕の異世界転性記!【挿絵付】
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ふと気がつくと見知らぬ場所で倒れていた少年。記憶の一切が無く、自分の名前すら思い出せない少年の本能は告げていた。ここは自分の居るべき世界ではない、異世界であると。
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特殊スキル:異世界転性
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誰もがうらやむ異世界性活が幕を開ける!
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