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9 バカだ! 俺はバカだ!

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 ルラはベッドで横になり、そ~っとナイトを抱きしめた。

どうしよう……。この猫とあの人、誰にも渡したくない。


 だが、ルマンダの言っていることが現実になったら、事は自分だけの問題で済まない。


 魔導戦士や魔法戦士と、対等以上に戦える貴族は、二百に満たないだろう。近衛兵が味方するとしても五百弱。

領内に残っている貴族の私兵は、危急に間に合わない。そして、王都の兵力と対等に戦える戦士数は、比べるべくもない。

クーデター計画に加わらない中立が、どう動くか未知数だが、信用しきれない。

国が雇用する王都の戦士数は、正確には知らないが、数千人いそうだ。彼らは専門職だから戦い方を知っている。

つまり、全然勝負にならない。

この世界の住人でもない俊也に頼る気にもなれないし。

やはりルマンダの忠告に従うべきだろうか? 大魔導師クラスの仲間が、十人でもいれば、十分勝算はある。

貴族出身の中でも、特別な域に達した方は、プロの戦士と比べても全然問題にならないほど強い。
ある程度以上魔力が高い者ならば、俊也と十回ずつくらいセックスすれば、大魔導師の域に届きそうだ。
もちろん、女性限定になるけど。思い当たる女性と言えば…、

エレンに相談してみよう。ルラはそう決めた。



 夕食を終え、食後のお茶を一口すすり。さあ……、どうしよう? ルラは胸のドキドキが収まらない。

なぜなら、彼女の「するべきこと」は、決まっているからだ。

つまり、俊也とのエッチ。

貴族社会で生まれ、育った彼女は、男女の営みのなんたるかを、すでに学んでいる。ルマンダという、格好の師にも恵まれた。

ルマンダ曰く。『最初は、氷結魔法で固まった鱒状態でいい』らしい。
下手に上手だと…矛盾する表現だと思うが、純潔を疑われかねない。

なにせ、中級以上の治癒魔法を心得ていれば、処女膜の再生なんて超簡単。
実際、放蕩(ほうとう)の限りを尽くした貴族令嬢が、処女を装って嫁ぐことなど、ざらにみられることらしい。
 
また、妻を迎える上流貴族のたしなみとして、成人(男子は精通、女子は初潮が訪れたら、成人とみなされる)を迎えたら、ベテランの侍女により、懇切丁寧な閨房術(けいぼうじゅつ)の手ほどきを受ける。

したがって、妻を迎える上流貴族男子に、DT君はまずありえない。新妻はベッドの上で固まっていれば、新郎がなんとかしてくれる、らしい。
 
俊也の場合は…、微妙。DT君でないことは確かだが、ベテランでもなさそう。

でもでも……、ルマンダによれば、『亡き夫より相当よかった』らしい。『冷凍鱒』でも大丈夫だろうか?

 
はっ……。ルラは気づいた。寝てるし……。猫になって。

私がこんなに悩んでいるのに! ルラは対面のイスで丸くなったナイトを抱き上げる。

ふふふ……。やっぱりかわいいんですけど! 

ツン。ルラはナイトに鼻ツンした。

ぼふん、どすん。

全裸の俊也が、床に落ちた。ルラの腕力では、俊也の体重が支えきれないから、当然の結果だ。

「ご、ごめんなさい!」

「く~~~……。今度から気をつけて」
 俊也は打ち付けたお尻を、なでながら言う。起き上がれない。

「ヒール!」
 ルラは慌てて治癒魔法を飛ばす。ルラが一番得意なのは攻撃魔法だが、そこは天才的魔導士。あらゆる魔法を、彼女は使いこなすことができる。

とっさに指を使って魔法陣を描いたから、十分な効果は発揮できなかったが、打ち身ぐらいは回復可能だ。

 だけど……、うふ…、かわいい……。俊也のパオーンは、縮こまっていた。

あれなら怖くない! ど~んとかかってらっしゃい!
 

はっ……、そういえば……。下着を見られたときは……。ルマンダがお口くちゅくちゅしていた時も……。

ルラはとたんに自信をなくした。結構なパオーン具合だった。痛くないだろうか? あんなのが…ここに入ったら。

そっと股間を押さえるルラだった。



 なんとなく気まずい沈黙が、二人の間に生まれた。

「あの~……」

「ひゃい…、はい?」
 緊張のあまり、ルラは噛んでしまった。

「俺、服を着た方がいい?」

「あっ……。ルマンダがお風呂を用意してくれてます。
先に入りますか? それとも……」
 ルラはうつむいてそう言った。丁寧語になってしまったのはご愛敬。実は、ルマンダにけしかけられているのだ。

『混浴あるのみ!』。

ルラ、困っちゃう!

「にゃんにゃん!」
 ぼふん……。俊也は猫又ナイトに変身。

「清浄!」
 ナイトは、バカかお前、と内心思いながら、俊也の意思に従う。ルラと自分に清浄魔法をかけた。

 ツン、ぼふん……。ルラはナイトの足を下に向ける形で、鼻ツンを施す。

再び全裸の俊也登場。ルラはちょっぴり残念だった。「混浴」が実現したら、もう少し緊張もほどけただろう。

「お風呂に入らなくても、大丈夫だよ。おいで」
 俊也は両腕を広げた。

「はい……」
 ルラはためらいがちに、俊也の腕の中へ。俊也はやさしくルラをハグ。

『ルラは混浴してもいいと、思っていたぞ。まあ、今夜は流れに任せればいい』
 
ナイトの言葉が、俊也の頭に流れた。

「バカだ! 俺はバカだ! 
なんというチャンスを!」
 俊也は頭を抱え、座り込んだ。

「どうしたの?」
 ルラはびっくりして聞いた。私をハグして、後悔したの?

「こ・ん・よ・く! 何度夢見たことか!」
 正直者は、きわめて正直に答えた。実際にそんな夢を見たことはなかったが、気分的にだ!

「いいよ。いっしょに入ろう」
 ルラは素直にそう誘えた。一瞬だが、俊也の腕に包まれたのは、たいそう心地よかった。
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