改訂 勇者二世嫁探しの旅

nekomata-nyan

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165 ケーンがケーンであるために

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 ユリはレミとメイ以外の嫁に、召集をかけた。

「皆に集まってもろうたんは、ほかでもない。
ウチらの旦那様、白い灰になっとる。
もちろん、妊婦以外へのお勤めは、手抜きしよらんみたいやけど。
一週間、ミーちゃんにケーンの生活追ってもろうた」
 ユリがミーちゃんレポートのコピーを配り、問題提起する。

「安心なことは安心なんだけど……」
 正妻キキョウが、言葉足らずにつなぐ。全く非の打ちどころがない模範的夫。
 どんな女が見ても、そう思うだろう。だが、ミーちゃんメモの初日に記されていた「生きがい」という言葉にひっかかる。

 嫁や子供を見守ることに「生きがい」を感じてくれている。それははっきりわかり、うれしいのだが、なんか違う気がする。
 ケーン様が、どこにもないのだ。
 
 他の嫁たちの感想も同様だった。自己主張の権化だったころに比べたら、まさに「白い灰」だ。

「キキョウさんとユリさん、心当たりないですか?
ケーンさんが打ち込める何か。
たしかに今は、理想的なマイホームパパ。
妊婦嫁を含め、濃厚接触の時間も超充実しました。
だけど、それはケーンさんじゃない気がする」
 テレサが遠慮がちに言う。

「ユリちゃん、なんかある?」
 キキョウがユリをうかがう。

「全然思い当たらん」
 ユリはそう言って大きなため息をつく。

「近場の惑星探索なんてどう?」
 ジャンヌのヒカリちゃんが提案する。

「それ、ケーンが乗ってきそうや!
宇宙は男のロマン!」

「エルファードの空母を使ったら安全です!
中型の探査機も積んでるし、戦闘機もアンドロイドたちが、おもちゃにして遊んでます。
宇宙空間で、戦闘機同士のドッグファイト訓練!
絶対乗ってきます。
ユリさん、勧めてください!」
 サーシャが身を乗り出す。マイホームパパケーンに、物足りないものを感じていたのは、すべての嫁に共通する思いだった。

「みんな、おねだりしょ。
この世界や、地球にない素材で、アクセサリーがほしい」
 さすが苦労人のユリ。嫁のためならなんだってやる。ケーンのツボを誰よりも心得ていた。


 エルファード宇宙空母二番艦。ケーンは『トマト』と名付けた。

「宇宙空母、トマト、出撃せよ!」
 ケーンは艦長席で命じた。

「目標、ヒカリ星系第八惑星。トマト、出撃!」
 サーシャは、二番艦電脳に命じた。

「了解。目標、ヒカリ星系第八惑星。二番艦トマト出撃。離艦後巡航速度を保ちます」
 電脳が応える。トマトは、音も加速Gもなく、月面基地ドックを離れた。

 艦長席で、錨のエンブレム輝く海軍帽、黒のコート、白の付け髭を装着したケーンの頭の中には、あるBGMが流れていた。

 チャンチャカチャンチャン、チャチャチャン、チャラリッタチャチャチャン……。

♬さらば、アンジェラ、旅立つ船は、宇宙空母、ト・マ・ト♪


「ねえねえ、ケーン様! 
さっそくドッグファイト、やりましょうよ!」
 ケンイチが作ったアンドロイド百九号機。つまり、最新モデルがおねだり。ケンイチはしゃれで、モリ・ミゾレと名付けた。
宇宙空母艦載の戦闘機操縦に特化した、プログラミングが施されている。

 エルファードの電脳たちも、ノリノリで協力した。サーシャの洗脳は、電脳たちにも超有効だった。

今ではエルファード星人より、よほど人間臭い。

「やってみるか~~!」
 ケーンは、軍帽とコートを脱ぎ捨てる。気分はオキタ艦長からコダイクンへ。

「ケーンさん、付け髭、とり忘れてますよ」
 ジャンヌが楽しそうに忠告した。前のケーンさんだ。やっぱりこっちの方が好き!

 ちなみに、鉱物探索に付き合っているのは、ジャンヌとサーシャだけ。
 子育て嫁、妊婦嫁、冒険者修行中嫁と見守り嫁は、今回不参加だ。
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