151 / 170
151 転移実験
しおりを挟む
宇宙空母の見学会が終わり、対エルファード戦に参加する嫁以外は、ライラックに帰った。
現在艦隊旗艦の一番艦は、どんどんアンジェラから遠ざかっている。
『現在本艦は、惑星アンジェラから、8千万キロ離れました。エルファード艦隊主砲が、有効射程を越える距離です』
一番艦主電脳が報告する。
「了解! 引き続き巡航速度を保て」
サーシャが命じる。
「じゃ、ジャンヌ。頼む」
ケーンが隣のシートのジャンヌに依頼。
「ラジャ! 二番艦コントロール室に、転移!」
ジャンヌが転移魔法発動。
魔法陣の中にいた、アンドロイド五体が消えた。
「うまく転移できているといいんですが……。
私の能力、ミレーユ様に届いているとは思えない」
ジャンヌが自信なさそうに言う。
「大丈夫だって! ヒカリちゃんが保証してくれてる。それに、ヒカリちゃんが、気合入れて作った転移魔法陣だ」
ケーンがにっこり笑って言う。8千万キロは、かつてミレーユが、宇宙空間で転移魔法を実現させた距離だ。
全くの一発勝負で、よくやったものだと思う。
「ほな、一旦帰ろか?」
ユリの言葉に、ケーンはうなずく。
「一番艦、月面基地に帰還」
『了解。月面基地に帰還します』
サーシャの命令に、主電脳は応えた。
「帰ったら、宙船(そらぶね)にも乗ってみよう」
ケーンが提案する。
宙船とは、かつてケンイチパーティーが使った宇宙船だ。創造神が、夜の女王のために用意していた。
本来の目的は、創造神がアンジェラを「リセット」する場合、夜の女王と眷属が、月に一時避難するための船。
創造神は、自らの守役を、他の者に任せる気はなかった。
したがって、外宇宙を飛べるほどの機能は持っていない。
ただ、やたら図体がでかい宇宙空母と比べたら、男のロマンをそそりまくるデザインだ。
大気中の航空力学に則り、スマートでかっこよくデザインされている。
「それにしてもこの船、とんでもない代物やな。
ケーンのテント並みに快適やで」
ユリが感想を述べた。
地上並みの重力制御。空調設備。自給自足可能な自動生産ライン。
そしてなにより、この巨艦を動かしている推進力。
最高速は亜光速と言われても、ぴんとこないが、とんでもないスピードだとわかる。
ワープ航法、というのはもっとわからないが、それは案外抵抗なく受け入れられる。
エルファード艦の主電脳でさえ、原理がわからない「時空魔法」が、まかり通っている世界だから。
エルファード星人の、科学技術力は、想像もつかないほど発展している。
逆にそれが災いし、エルファード星やその星の人々は、生きる活力を失っている。
つまり、かの星の人々は、電脳たちによって、生かされているのだ。
出発前、ケーンたちは、コールドスリープ状態の捕虜を起こし、面会した。
ケーンの印象は、まるで彼が作ったフィギャーに、会話能力を与えたという感じ。
感情や意思が、ほとんど感じられなかった。彼の要求はただ一つ。
「早く寝かせてくれ」
ケーンはその言葉を聞き、なんともやるせない気持ちになった。
したがって、この戦いは、エルファードの電脳と、ケーンたちの戦いなのだ。
実際、この巨大空母で、起きていたのは、十人のエルファード星人だったという。
なにせ外宇宙を隔てた星から飛んでくるのだ。彼らの科学技術力をもってしても、気が遠くなるほどの年月がかかる。
そのため、交代で休眠し、時をやり過ごしている。そんな生活をしていたら、あんな感情欠落症になるのも、仕方ないかと思う。
ケーンは心から思う。母ちゃん、よく頑張ってきた!
ケーンたちは、月面基地に帰還。通信が遅れて届く距離になってわかってはいたが、アンドロイドたちは、無事転移されていた。
後は対ロボットの戦闘訓練と、作戦を効率的に遂行するため、手順を練り上げていく。それだけだ。
エルファード艦隊と、まともに対艦戦闘を行ったら勝ち目はない。だが、敵艦の内懐へ飛び込めたら、逆に負ける要素が見当たらない。
エルファード側は、対策を講じないのかという疑問があるだろう。
それはないと、断言できる。なぜなら、彼らは先遣部隊が、ケンイチたちに負けたことを知らないから。通信手段がないのだ。
また、それならなぜ、エルファードは、アンジェラに向かってくるのか、という疑問があるだろう。
偵察艦隊は、一定の距離で、通信・記録衛星を置いておく。主電脳が言うことには、惑星アンジェラを含む、有望な星系を発見したという記録は、すでにつかんでいるはずだとのこと。
三隻もの宇宙空母が行方不明になった。大規模な捜索が行われるのは必定。
その中継衛星まで、捜索の手が伸びるは最短で八年。夜の女王が、ケーンに与えた五年という期間は、余裕を持って迎撃準備が行える時間だった。
現在艦隊旗艦の一番艦は、どんどんアンジェラから遠ざかっている。
『現在本艦は、惑星アンジェラから、8千万キロ離れました。エルファード艦隊主砲が、有効射程を越える距離です』
一番艦主電脳が報告する。
「了解! 引き続き巡航速度を保て」
サーシャが命じる。
「じゃ、ジャンヌ。頼む」
ケーンが隣のシートのジャンヌに依頼。
「ラジャ! 二番艦コントロール室に、転移!」
ジャンヌが転移魔法発動。
魔法陣の中にいた、アンドロイド五体が消えた。
「うまく転移できているといいんですが……。
私の能力、ミレーユ様に届いているとは思えない」
ジャンヌが自信なさそうに言う。
「大丈夫だって! ヒカリちゃんが保証してくれてる。それに、ヒカリちゃんが、気合入れて作った転移魔法陣だ」
ケーンがにっこり笑って言う。8千万キロは、かつてミレーユが、宇宙空間で転移魔法を実現させた距離だ。
全くの一発勝負で、よくやったものだと思う。
「ほな、一旦帰ろか?」
ユリの言葉に、ケーンはうなずく。
「一番艦、月面基地に帰還」
『了解。月面基地に帰還します』
サーシャの命令に、主電脳は応えた。
「帰ったら、宙船(そらぶね)にも乗ってみよう」
ケーンが提案する。
宙船とは、かつてケンイチパーティーが使った宇宙船だ。創造神が、夜の女王のために用意していた。
本来の目的は、創造神がアンジェラを「リセット」する場合、夜の女王と眷属が、月に一時避難するための船。
創造神は、自らの守役を、他の者に任せる気はなかった。
したがって、外宇宙を飛べるほどの機能は持っていない。
ただ、やたら図体がでかい宇宙空母と比べたら、男のロマンをそそりまくるデザインだ。
大気中の航空力学に則り、スマートでかっこよくデザインされている。
「それにしてもこの船、とんでもない代物やな。
ケーンのテント並みに快適やで」
ユリが感想を述べた。
地上並みの重力制御。空調設備。自給自足可能な自動生産ライン。
そしてなにより、この巨艦を動かしている推進力。
最高速は亜光速と言われても、ぴんとこないが、とんでもないスピードだとわかる。
ワープ航法、というのはもっとわからないが、それは案外抵抗なく受け入れられる。
エルファード艦の主電脳でさえ、原理がわからない「時空魔法」が、まかり通っている世界だから。
エルファード星人の、科学技術力は、想像もつかないほど発展している。
逆にそれが災いし、エルファード星やその星の人々は、生きる活力を失っている。
つまり、かの星の人々は、電脳たちによって、生かされているのだ。
出発前、ケーンたちは、コールドスリープ状態の捕虜を起こし、面会した。
ケーンの印象は、まるで彼が作ったフィギャーに、会話能力を与えたという感じ。
感情や意思が、ほとんど感じられなかった。彼の要求はただ一つ。
「早く寝かせてくれ」
ケーンはその言葉を聞き、なんともやるせない気持ちになった。
したがって、この戦いは、エルファードの電脳と、ケーンたちの戦いなのだ。
実際、この巨大空母で、起きていたのは、十人のエルファード星人だったという。
なにせ外宇宙を隔てた星から飛んでくるのだ。彼らの科学技術力をもってしても、気が遠くなるほどの年月がかかる。
そのため、交代で休眠し、時をやり過ごしている。そんな生活をしていたら、あんな感情欠落症になるのも、仕方ないかと思う。
ケーンは心から思う。母ちゃん、よく頑張ってきた!
ケーンたちは、月面基地に帰還。通信が遅れて届く距離になってわかってはいたが、アンドロイドたちは、無事転移されていた。
後は対ロボットの戦闘訓練と、作戦を効率的に遂行するため、手順を練り上げていく。それだけだ。
エルファード艦隊と、まともに対艦戦闘を行ったら勝ち目はない。だが、敵艦の内懐へ飛び込めたら、逆に負ける要素が見当たらない。
エルファード側は、対策を講じないのかという疑問があるだろう。
それはないと、断言できる。なぜなら、彼らは先遣部隊が、ケンイチたちに負けたことを知らないから。通信手段がないのだ。
また、それならなぜ、エルファードは、アンジェラに向かってくるのか、という疑問があるだろう。
偵察艦隊は、一定の距離で、通信・記録衛星を置いておく。主電脳が言うことには、惑星アンジェラを含む、有望な星系を発見したという記録は、すでにつかんでいるはずだとのこと。
三隻もの宇宙空母が行方不明になった。大規模な捜索が行われるのは必定。
その中継衛星まで、捜索の手が伸びるは最短で八年。夜の女王が、ケーンに与えた五年という期間は、余裕を持って迎撃準備が行える時間だった。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件
後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。
転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。
それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。
これから零はどうなってしまうのか........。
お気に入り・感想等よろしくお願いします!!
クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える
ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─
これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。
おじさんが異世界転移してしまった。
月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。
俺、貞操逆転世界へイケメン転生
やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。
勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。
――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。
――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。
これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。
########
この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる