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149 エルフをどうするか

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その夜、夜空城。

ケーンと嫁一同が、女王謁見の間に呼ばれていた。

「ケーン、すばらしい嫁を選びました。
よく頑張ったわね」
 夜の女王は、満面の笑みで言う。

「頑張った、っていうか……。
攻略したという実感が全然ないんだ。
なんとなく出会って、嫁になってくれた感じ?」
 どの嫁も、すべて成り行き。「ナンパ成功!」と、実感を持ったことがない。
強いて言えば、レミやミーちゃんは、ナンパだったと、言えなくもないだろうが。ジャスミンは、彼女の孤独と悲しさが放っておけなかった。

「結果オーライでいいのよ。
ケーン、今まであなたに話したことがなかった。
それというのも、自由に嫁を選んでほしかったから。
この惑星は、エルファード星人に狙われている。
この星で迎え撃ったら、どうあがいても無事では済まない。
彼らを撃退する方法は一つ。
この星から離れた宇宙空間で、彼らの宇宙船に乗り込むこと。
あなたが生まれる前、父ちゃんと三人の嫁が、先遣部隊を捕虜にした。宇宙空母も三隻鹵獲した。
ケーンは知らないだろうけど、私や眷属、それに今の父ちゃんや嫁は、長く夜空城を離れられない。
その理由をみんなに説明する」
 夜の女王はそう前置きし、一同を転移させた。


「これは……」
 ケーンは言葉を失った。青白い光を放つ、巨大なエネルギー体。
キキョウとサーシャ以外の嫁も、茫然自失。その正体はわからないが、人知では計り切れない、何者かだということだけはわかる。


「これは休眠期の創造神。
夜の王宮の使命、この世界のバランサーだと、ケーンは理解していたでしょ?」
 女王の言葉に、ケーンはうなずく。

「もちろん、それも重大な仕事なんだけど、より重大な使命を、私と眷属たちは持ってるの。
この創造神を守り、いよいよとなったら、創造神を起こし、世界をリセットする」

「リセット?」
 ケーンは恐る恐る聞く。

「その通りよ。完全に破壊し、作り直すの。
そのために私と眷属は、永遠に生きなければならない。
それを可能にしているのは、この創造神から絶えず供給される生体エネルギー。
職務を果たすだけではなく、物理的に長く離れられない。
多分一か月ぐらいが、限界じゃないかな?
父ちゃんや嫁たちは、そんな私の宿命を、一緒に背負ってくれた」
 
ふ~~~っと、ケーンと嫁たちは大きく息をついだ。

「全部わかったよ。
俺と嫁たちに任せてくれ。
それと、父ちゃんの作ったオートマタ…アンドロイドに」
 ケーンは力強く宣言した。嫁たちもうなずく。

「全部任せた!
あなたとあなたの嫁たちに!
鹵獲した宇宙船に案内する。
月の裏側に基地を作ってあるの」
 そう言って、女王は転移魔法で月面基地に一同を転移させた。


月面基地、宇宙船内。

ケーンと嫁たちは、作戦会議を開いていた。

「なんというか、SFの世界がここにある、ちゅう感じやな?」
 押し黙る一同をほぐすため、ユリが軽口をたたく。

「作戦参加メンバーをどうするか、だよな。
これから宇宙空間での慣らしと、敵船への転移、制圧訓練。
それを中心にするべきだと思う」
 討伐隊隊長として、ケーンが意見を述べる。

「ケンイチ様の話では、艦内での戦闘は楽勝だったそうです。
艦内で護衛するロボットは、大きな火力を持っていません。
やたら頑丈だそうですが、ケーン様や総子さん、メイサさんと私の能力なら、問題なく制圧できるだろう、とのことです」
 すべてを聞かされていた、キキョウが説明する。

「制圧が完了したら、私が敵船の電脳を懐柔します。
ある程度自信がつきました。
少なくとも、抵抗はさせないようにできると断言できます」
 同じく事情を知っているサーシャが言葉をつぐ。彼女は電脳たちと、いわば「お友達」感覚になっている。
 うそをつかないし裏切らない。サーシャにとって、電脳たちは安心して付き合える存在だった。
 だからサーシャも、電脳たちに本音をさらせた。

 どろどろとした人間(魔族?)関係。様々な愚痴。そして、一点生まれた、ピュアな恋心。
 電脳たちは、一種の衝撃をもって、サーシャの話を聞いた。サーシャは合理の存在だ。そんな彼女に、存在する不合理そのものの感情。
 彼らの元主人だった、エルファード星人が、とっくに失ってしまったものだ。

「ということだそうだから、作戦に必要なメンバーは絞れる。
俺、キキョウ、総子、メイサ。それにサーシャ。
転移魔法要員としてジャンヌにテレサ。
ヒカリちゃんは無理だろ?」
 ケーンの言葉に、ジャンヌに憑依したヒカリちゃんは、残念顔でうなずく。
 実はヒカリちゃんも知らなかったのだ。異星人にこのアンジェラが狙われていたこと。

魔族との争いどころではないが、ヒカリちゃんは、長くこの星を離れるわけにいかない。

「ユリには絶対ついてきてほしいけど、他のみんなはどうする?」
 ケーンが、ノーマル嫁たちに振る。

「家族は離れて暮らすもんじゃないよ。
訓練期間を終えた後、帰るまで最低二年はかかるんだろ?
私はついて行く」
 嫁の中では最年長、に見えるジャスミンが、笑顔で宣言。

「もちろんついて行きます!」
 レミが続けて宣言。「私も」「私も」と、メイとミーちゃんが続ける。

「メイサ様、私を置いていく、なんて言わないですよね?」
 エルフのエミリーが、情けない顔で言う。彼女だけは、ケーンのお手付きでない。

「ケーン、どないかしたり。
お約束のエルフ攻略、終わってないで」
 ユリがケーンに、わけあり顔で言う。

「エミリー、俺の嫁になる?」

「仕方ないです。嫁になります」
 クールに答えるエミリーだった。彼女は悲しいことに、性的な意欲が枯渇していた。
 ある意味、ケーンにとって最大の強敵だ。


別室にて、新たな作戦会議。議題はもちろん、エミリーをどう攻略するか。
参加者はケーンとユリ、それにエミリーを誰よりもよく知っているメイサの三名。

「ケーンにとって、未知の戦いになるで。
エッチに全く関心がない女を、どういてこますか」
 ユリが苦笑気味に言う。彼女は男を毛嫌いしていたが、百合属性ながらも、エッチ自体は大好きだった。前提が全く違う。

「あの子は多分、怖いんだと思う。
家族を持つこと」
 メイサは悲しそうな表情を浮かべて言った。

「メイサは家族じゃない?
エミリーにとって」
 ケーンは少し意外な思いで言う。エルフは人間関係に淡白だと聞くが、エミリーはメイサを慕っているように見える。まるで姉か母親のように。

「それはどうだろう?
私は命の恩人だし、頼るしかない主人?
だって、私がケーンの嫁になること、全く抵抗なく受け入れた。
肉親なら、もっと心の揺れ?
それがある気がする。
愛情に近い感情を、持っているのは、確かだと思うから」
 ケーンとユリは、なるほど、とうなずく。

「かなりいびつだな。
主従関係にしか安定を見いだせない」
 ケーンの言葉に、ユリは目を見張る。ケーンは超鈍感お坊ちゃまだと思っていたのだが、鋭い分析だ。

「ケーン、なんとかしたり、言うたけど、なんとかなりそうか?」
 ユリは少し不安になった。彼女や他の嫁の経験上、ケーンに抱かれたら、みんなころりとやられていた。

「わかんない。
少なくとも、エッチで心をつかむのは、無理な気がする」
 ケーンのその分析にも、うなずくしかないユリとメイサだった。

「とりあえず、エミリーといっしょにおるか?
物理的にもうちょっと近づかな、話にならん」
 ユリの提案に、首肯するケーンとメイサだった。
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