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124 女冒険者を救出する
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キャメル連峰のふもと。
ジャンヌの魔法で転移した一行は、拠点となるテントを張る。
ちなみに、元聖神女だったジャンヌはもちろん、テレサもベテラン聖神女なみの格を得ている。
ヒカリちゃんの依り代になることは、それほど強大な影響を、二人にもたらしていた。
「キキョウ、二人で偵察しよう。
他のみんなは休憩してて」
ケーンは早速キキョウに振る。
キキョウを選んだのは、ケーンと同程度の、遠視能力をキキョウは持っているから。
「はい! ホワイトさん、お願いします」
「承知いたしました」
ホワイトは、ペガサスモードに。夫のブラックも変身。
ケーンとキキョウは、二頭のペガサスに乗り、なだらかに連なる、キャメル連峰上空へ飛び立った。
ケーンとキキョウは、上空から偵察。ぽつぽつと魔物は見かけるが、ドラゴンの姿は見当たらない。
『ケーン様、ドラゴンがいたらすぐわかると思っていたのですが……』
キキョウは、念話でケーンに話しかける。
『隠蔽魔法、使ってるんじゃない?
じゃじゃ~ん!
マリョクタンチレーダー!』
ケーンはアイテム庫から、魔道具を取り出す。スイッチオン。
父ちゃんが開発したその魔道具は、タブレット端末ほどの大きさで、画面には探査範囲を示す円の中に、点で魔力反応が映し出される。
半径五キロ程度の探査が可能だ。
『人族の反応がある。
なんか魔物に囲まれてるみたい。
行ってみよう』
画面の端の方に、人族固有の魔力を示す青の点、そして、その点と重なるように、赤の点。赤色は魔物の魔力反応を示す。
指で拡大表示させたら、四人の人族と、数十体の魔物が戦っていると推定できた。
人族の点が、三つ消えた!
まずい!
『超ピンチみたいだ! 十五時の方向。
急ごう』
ケーンは、ブラックを促した。
『御意!』
ブラックは、最高速度でケーンの指示に従った。
現場上空へ到着。
冒険者とおぼしき人族が、ブラックウルフの群れと戦闘している。
人族は体つきからして女性。他の人族は……、狼たちのエサとなっている模様。
ああなったら、蘇生魔法でも無理だ。
あの女、腕は立つようだが、ああ囲まれては……。
キキョウが、五メートルほど上空から、飛び降りた。今のケーンでは、あの高さとスピードで、飛び降りるのは無理。
ブラックも心得ている。スピードを緩め、二メートルほど上空に接近。
抜刀したケーンは、キキョウに数秒遅れて戦闘に加わった。
ブラックウルフは、単独でCランク相当。群れならBランク、数によればAランク相当と跳ね上がる。
だが、キキョウとケーンの敵ではなかった。
キキョウは、右手で狼をなで斬り、左手でクナイを投げる。彼女が普段使いしているマサムネ改は、最高の切れ味を持つ。
残像がよぎった瞬間、泣き別れした狼の首と胴体が、遅れて血しぶきをあげる。
残像がばらまくクナイも、正確に狼の首に刺さっている。
我が嫁ながら怖い……。ケーンは、孤軍奮闘する女冒険者の後ろ盾となる位置に移動し、それなりに活躍した。
「助けてくれてありがとう」
女冒険者は、虚脱から我に返り、治癒魔法を施すケーンにそう言った。
地球年齢で、三十歳前後だろうか。そろそろ中堅に位置する感じだ。
「それはいいんだけど……。仲間は、みんなダメみたい」
ケーンは、なるべく穏やかな言い方を選んだ。
肉食動物は、まず柔らかい内臓を選ぶ。あそこまで損壊がひどければ、いくら光の女神の寵愛を受ける、聖神女でも助けられない。
だからジャンヌを呼ばなかった。
「あんなに多くのブラックウルフと、遭遇するとは思わなかった。
普通多くても十頭程度でしょ?」
女冒険者は、深く憤って言った。
普通ならその通りだ。そして、十頭程度なら、彼女のパーティは、生き残っただろう。
餌を分配しきれないほどの数が、群れを成していた。
つまり、強い魔物が狩場を独占し、仕方なくいくつかの群れが合流した。
そう推定できる。
「だね……。
心当たりはある。
多分、近くにドラゴンがいるんだ。
ドラゴンが、狼たちの獲物を奪って、追い払った。
そういうことだと思うよ」
「ドラゴン! そういえば……」
女冒険者は青ざめた。
「俺もライラックのギルドで聞いた。
キャメル連峰の方へ、ドラゴンが飛んで行ったと」
「私の責任だ……。
若いあいつら、殺したのは私だ!
そうだよね……。
ドラゴンみたいな強力な魔物が現れたら、普段の生態と違ってくる。
冒険者の常識だよね……。
ギルドで、噂は耳にしたんだ!
完全に私の判断ミス!」
女冒険者は頭を抱え、号泣した。
ケーンは慰めの言葉もなかった。
女冒険者の言葉通り。
多分パーティリーダーであろう、この女の判断ミスだ。
「拠点の町まで送ろうか?」
ケーンは、せめてもの思いやりを示した。
「弔ってやらなくちゃ……」
女冒険者は、涙でくしゃくしゃになった顔のまま、立ち上がった。
「手伝うよ。キキョウ、先に帰って」
ケーンは背後に控えるキキョウに言った。キキョウは青ざめていた。
そして、こくりとうなずいた。
きっとフラッシュバックしている。
キキョウはトリプルSクラスに挑戦し、父親と弟、仲間を失った。
ケーンと人化したブラックは、女冒険者を手伝い、死体を一か所に集めた。
「ブラック、頼む」
ケーンの現在の魔力では、死体を焼ききれない。
「心得ました。灼熱!」
ブラックが魔法を放つ。
女冒険者の表情が、一瞬驚愕の表情に変わり、すぐ疲れ切った顔にもどった。
そういえばこの二人と、あの女の人、どこから現れたのだろう?
必死に防戦していた女冒険者は、ケーンとキキョウが参戦したいきさつを知らなかった。
あの女はすごかった。すごいとしか、言いようがなかった。何者だろう?
「お女中、ブラックウルフの換金部位、集めておきました」
ブラックは、でっかい麻袋を指し示す。さすがにマジックバッグは使えない。
「そんなものいらない!」
女冒険者は、やるせない憤りを言葉でぶつけた。
「リーダーだろ?
最後まで、責任は取るべきだ。
遺留品を集めてたよな?
部位も換金して、仲間の家族に渡してやれよ」
ケーンの言葉に、はっとした女冒険者は、力なくうなずいた。
ジャンヌの魔法で転移した一行は、拠点となるテントを張る。
ちなみに、元聖神女だったジャンヌはもちろん、テレサもベテラン聖神女なみの格を得ている。
ヒカリちゃんの依り代になることは、それほど強大な影響を、二人にもたらしていた。
「キキョウ、二人で偵察しよう。
他のみんなは休憩してて」
ケーンは早速キキョウに振る。
キキョウを選んだのは、ケーンと同程度の、遠視能力をキキョウは持っているから。
「はい! ホワイトさん、お願いします」
「承知いたしました」
ホワイトは、ペガサスモードに。夫のブラックも変身。
ケーンとキキョウは、二頭のペガサスに乗り、なだらかに連なる、キャメル連峰上空へ飛び立った。
ケーンとキキョウは、上空から偵察。ぽつぽつと魔物は見かけるが、ドラゴンの姿は見当たらない。
『ケーン様、ドラゴンがいたらすぐわかると思っていたのですが……』
キキョウは、念話でケーンに話しかける。
『隠蔽魔法、使ってるんじゃない?
じゃじゃ~ん!
マリョクタンチレーダー!』
ケーンはアイテム庫から、魔道具を取り出す。スイッチオン。
父ちゃんが開発したその魔道具は、タブレット端末ほどの大きさで、画面には探査範囲を示す円の中に、点で魔力反応が映し出される。
半径五キロ程度の探査が可能だ。
『人族の反応がある。
なんか魔物に囲まれてるみたい。
行ってみよう』
画面の端の方に、人族固有の魔力を示す青の点、そして、その点と重なるように、赤の点。赤色は魔物の魔力反応を示す。
指で拡大表示させたら、四人の人族と、数十体の魔物が戦っていると推定できた。
人族の点が、三つ消えた!
まずい!
『超ピンチみたいだ! 十五時の方向。
急ごう』
ケーンは、ブラックを促した。
『御意!』
ブラックは、最高速度でケーンの指示に従った。
現場上空へ到着。
冒険者とおぼしき人族が、ブラックウルフの群れと戦闘している。
人族は体つきからして女性。他の人族は……、狼たちのエサとなっている模様。
ああなったら、蘇生魔法でも無理だ。
あの女、腕は立つようだが、ああ囲まれては……。
キキョウが、五メートルほど上空から、飛び降りた。今のケーンでは、あの高さとスピードで、飛び降りるのは無理。
ブラックも心得ている。スピードを緩め、二メートルほど上空に接近。
抜刀したケーンは、キキョウに数秒遅れて戦闘に加わった。
ブラックウルフは、単独でCランク相当。群れならBランク、数によればAランク相当と跳ね上がる。
だが、キキョウとケーンの敵ではなかった。
キキョウは、右手で狼をなで斬り、左手でクナイを投げる。彼女が普段使いしているマサムネ改は、最高の切れ味を持つ。
残像がよぎった瞬間、泣き別れした狼の首と胴体が、遅れて血しぶきをあげる。
残像がばらまくクナイも、正確に狼の首に刺さっている。
我が嫁ながら怖い……。ケーンは、孤軍奮闘する女冒険者の後ろ盾となる位置に移動し、それなりに活躍した。
「助けてくれてありがとう」
女冒険者は、虚脱から我に返り、治癒魔法を施すケーンにそう言った。
地球年齢で、三十歳前後だろうか。そろそろ中堅に位置する感じだ。
「それはいいんだけど……。仲間は、みんなダメみたい」
ケーンは、なるべく穏やかな言い方を選んだ。
肉食動物は、まず柔らかい内臓を選ぶ。あそこまで損壊がひどければ、いくら光の女神の寵愛を受ける、聖神女でも助けられない。
だからジャンヌを呼ばなかった。
「あんなに多くのブラックウルフと、遭遇するとは思わなかった。
普通多くても十頭程度でしょ?」
女冒険者は、深く憤って言った。
普通ならその通りだ。そして、十頭程度なら、彼女のパーティは、生き残っただろう。
餌を分配しきれないほどの数が、群れを成していた。
つまり、強い魔物が狩場を独占し、仕方なくいくつかの群れが合流した。
そう推定できる。
「だね……。
心当たりはある。
多分、近くにドラゴンがいるんだ。
ドラゴンが、狼たちの獲物を奪って、追い払った。
そういうことだと思うよ」
「ドラゴン! そういえば……」
女冒険者は青ざめた。
「俺もライラックのギルドで聞いた。
キャメル連峰の方へ、ドラゴンが飛んで行ったと」
「私の責任だ……。
若いあいつら、殺したのは私だ!
そうだよね……。
ドラゴンみたいな強力な魔物が現れたら、普段の生態と違ってくる。
冒険者の常識だよね……。
ギルドで、噂は耳にしたんだ!
完全に私の判断ミス!」
女冒険者は頭を抱え、号泣した。
ケーンは慰めの言葉もなかった。
女冒険者の言葉通り。
多分パーティリーダーであろう、この女の判断ミスだ。
「拠点の町まで送ろうか?」
ケーンは、せめてもの思いやりを示した。
「弔ってやらなくちゃ……」
女冒険者は、涙でくしゃくしゃになった顔のまま、立ち上がった。
「手伝うよ。キキョウ、先に帰って」
ケーンは背後に控えるキキョウに言った。キキョウは青ざめていた。
そして、こくりとうなずいた。
きっとフラッシュバックしている。
キキョウはトリプルSクラスに挑戦し、父親と弟、仲間を失った。
ケーンと人化したブラックは、女冒険者を手伝い、死体を一か所に集めた。
「ブラック、頼む」
ケーンの現在の魔力では、死体を焼ききれない。
「心得ました。灼熱!」
ブラックが魔法を放つ。
女冒険者の表情が、一瞬驚愕の表情に変わり、すぐ疲れ切った顔にもどった。
そういえばこの二人と、あの女の人、どこから現れたのだろう?
必死に防戦していた女冒険者は、ケーンとキキョウが参戦したいきさつを知らなかった。
あの女はすごかった。すごいとしか、言いようがなかった。何者だろう?
「お女中、ブラックウルフの換金部位、集めておきました」
ブラックは、でっかい麻袋を指し示す。さすがにマジックバッグは使えない。
「そんなものいらない!」
女冒険者は、やるせない憤りを言葉でぶつけた。
「リーダーだろ?
最後まで、責任は取るべきだ。
遺留品を集めてたよな?
部位も換金して、仲間の家族に渡してやれよ」
ケーンの言葉に、はっとした女冒険者は、力なくうなずいた。
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