改訂 勇者二世嫁探しの旅

nekomata-nyan

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75 湧者兄妹

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 クオークへ帰り、広場にテントを張り終えたケーンは気づいた。

ムサシが絡まれてる? 

なんと向こう見ずな。相手は畏れ多くも勇者様ですよ!
ヒカリちゃんが選んだ、超ベテランの。
キキョウの方が、明らかに活躍してたけど、常人とはかけ離れた剣豪なんだから。
ケーンは絡んでいる二人のために歩み寄った。


「ムサシ殿、是非ともわれら兄妹をパーティに!」

「だからダメだと言ってるだろ! 
百年早い!」

「ムサシ様、お願い!」

「うん、かわいそうだけど、ダメだからね」

 なるほど、そういうことか。
ケーンは納得。あの二人、命知らずの大バカではなかった。

だが、あの兄妹らしき二人から、神気臭さがかすかに感じられる。

「ムサシ、どうした?」
 ケーンは、好奇心に負けてムサシに声をかけた。

「ああ、昨日補給部隊から連絡があって、救援に出かけたんだが……」
 ムサシは困惑顔で事情を語る。


 昨日の昼のこと。

クオークには、テリーヌ帝国軍の他、各国の応援部隊、ギルドからの応援部隊が続々と集結していた。
クオークの人口は急激に膨らみ、備蓄を食いつぶしたら、当然物資は不足してしまう。

普通の転移魔法には量的に限界がある。「普通」というのは、聖神女の転移魔法が例外という意味で。

ご存じの事情で、現在聖神女は空位となっている。

聖神女があがめられる、大きな理由は規格外の転移魔法にある。

物資なら時空魔法付与の容器使用で無限大、人間なら百人程度、一度に魔王領以外の任意の場所に転移できる。

一度行った場所以外に転移できるのは、あまねくこの世界を見通す光の女神と、聖神女だけが使える能力だ。

その戦略的価値は、とてつもなく大きい。

聖神女不在の今は、皇都や各地から物資が陸路で頻繁に運ばれてくる。

護衛にはそれなりの力を持った者が付いているが、あくまでそれなりだ。第一線で戦う兵に比べたら数段見劣りする。

糧道を分断するのは戦いの王道。補給ラインの要所要所には、主戦級の部隊が駐屯し、魔王軍の襲撃に備えるという対策は取られている。

昨日の襲撃は、クオークに近い地点だったわけだ。


「魔王軍め、飛竜を飼いならせたか! これは厄介だ」
 知らせを受け、馬を走らせたムサシは上空を見上げ、剣を抜く。

「これじゃ俺、戦いようがないぜ」
 ライアンは悔しそうに眉をひそめる。

「魔王軍の秘密兵器。そういうことだろうな。
だけど数はしれてる」
 リンダはサンダースピアの詠唱を始める。

メアリーは素早く詠唱を終え、サンダースピアを放った。

ムサシも剣に雷属性の魔力をまとわせ、剣先から電撃を放つ。

風属性を持つ飛竜に、遠距離から攻撃するには、雷属性の魔法が最適だ。

メアリーの魔法は、一撃で飛竜に大ダメージを与え、その飛竜はあきらかに動きがおかしくなった。

ムサシとリンダの魔法も、無視できないダメージを与えたようだ。

奇襲攻撃を受けた三匹の飛竜は、低空飛行に移り、五名ずつの魔王兵をおろした。

その三匹を守るように他の飛竜が取り囲み、戦闘地域から離れていく。

ムサシたちは魔法で追撃しようとしたが、魔防バリアにはじかれた。

「どういうことだ?」
 脳筋のライアンには、あっさり退却した意図が見えなかった。魔王兵の最大の強さは、死を恐れないことにある。

「魔王兵は強い! 
戦闘は俺たちに任せて身と荷を守れ!」
 ムサシはそう叫んで、馬を駆った。リンダも後に続く。

「兵より虎の子の飛竜が大切だということです。
これだから魔王兵は怖い。
ライアン、ぐずぐずしないで魔王兵を蹴散らしなさい!」
 メアリーは発破をかけた。敵味方が入り混じった乱戦で、うかつに魔法は使えない。

「おう!」
 ライアンは長剣と戦斧を構え、突撃して行った。


十分後、ムサシは最後の魔王兵にとどめを刺した。積み荷にかなりの被害が出ているようだが、最小限でとどまったと考えるべきだろう。

メアリーは負傷した警護の兵の間を駆け回り、治癒魔法を施している。だが、その数はしれているようだ。


「勇者ムサシ殿! 我々兄妹を仲間に加えて下さい!」

「お願いします!」
 ムサシは馬車を操る民間人に混じった、兄妹になつかれてしまった。

 
「なるほどね……」
話を聞き、ケーンは納得した。

「君たちね、勇者のパーティが、どうして人数絞ってるかわかる?
勇者パーティは、いわば槍の先なんだ。
レベルがそろっていなければ、足し算にならないんだよ。
君たちは見るからに引き算。
魔王軍との戦いでは、下手したら割り算になっちゃう」
 ケーンは偉そうに腕を組んで言う。

兄妹は思う。あんたには言われたくない! 兄妹にはケーンの勇者オーラが見えない。

「おまえこそ、どうしてここにいる? 割り算にしか見えないぞ!」
 兄の方がケーンに詰め寄る。その兄、なかなかの体格だった。顔もケーンよりはるかにいい。

「バカ。殺されるぞ」
 筋肉バカライアンが苦笑して制止する。バカにバカと言われたらそこで終わっている。

「ムサシ様、兄があいつに勝ったら、パーティに入れてもらえますか?」
 妹はムサシに迫る。

「うん、そうね。やってみたら?」
 ムサシの四角い顔は思わず崩れる。だって、この子可愛いんだもん!

「兄者! その軟弱そうな坊や、やっつけちゃってください!」 
 妹は両手を握りしめ、ガッツポーズを兄に向ける。

兄者はDランクの冒険者。あんなヤローに負けるわけがない。

「勝負だ!」
 妹の檄を受け、兄はすらっと長剣を抜く。

ヒュン、と光がよぎった。

「私でも、ケーンさんにとって、まだ引き算なの」
 パチン。総子は刀を納める。兄の長剣は、付け根で切り落とされていた。

「ケーン、あの兄妹、下級神の加護を受けています。
あの感じ、たしか、ノーキョーだったかしら?」
 テレサのヒカリちゃんが、ケーンの耳元でささやく。

なるほど、あの神気くささはそれか。ケーンは納得。

ちなみに、この世界には、光の女神を頂点とする多くの神々が存在する。日本の八百万の神とまではいかないが。

大地の神、水の神、火の神、風の神、月の神。五大上級神が光の女神に続く。

固有名詞を有する神は、実体化できるがいずれも下級神だ。

「よくいる勘違いユーシャってわけだ? 
ノーキョー? 
なかなか罪なことをする」
 ケーンは憐みの目で、呆然とたたずむ兄を見る。

ちなみに、ケーンの言う「ユーシャ」には「湧者」という字があてられる。勇者にあこがれ、湧いて出てきて身を滅ぼす有象無象パターン。

これはとことん痛い目にあわせた方がいい。

「カモン! 捨てゴロといこうぜ!」
 ケーンは人差し指をクイッ、クイッとやった。年金世代以上には、懐かしいカンフー映画のポーズだ。

「アチョウー、アチャチャチャチャ……」
数秒後、兄のハンサム顔が、見るも無残に変形したことは言うまでもない。

「ドーン、シンク。フィール」
 ケーンは一度言ってみたかったセリフを言った。年金世代以上には、懐かしいカンフー映画のセリフだ。

テレサのヒカリちゃんは、苦笑して兄に治癒魔法を施してやった。

ノーキョーに言っておかなければ。むやみに若者を、たきつけるんじゃありません。

光の女神の記憶によれば、ノーキョーは酒が入ると、信徒にやたら調子のいいことを言う悪癖があった。

あの兄妹は、きっとノーキョーの加護を受け、その気になってしまったのだ。

それなりの力はありそうだが、魔王軍と戦えるレベルには程遠い。
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