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74 ヒカリちゃん初陣

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 城砦都市クオーク。

戦いの前線から、続々と負傷者が運び込まれている。

「これはひどいですね。
痛いの、痛いの、飛んでけ~。
ミルさん、傷に洗浄・消毒魔法を」
 ジャンヌの中のヒカリちゃんは、魔法で負傷兵の痛みを和らげ、看護の女神官に指示を送る。

そして次の患者の傷を確認。また痛み止めを施し、洗浄と消毒が終わったさっきの患者に、治癒魔法を施す。

痛覚への干渉と治癒効果は、魔法の習熟度に大きく関係する。そして魔力も大きく消費する。

そのため、ヒカリちゃんは、この流れ作業を選んだ。

「ジャンヌちゃん、少しは休んだら? 大丈夫なの?」
 ミルは心配になってそう声をかけた。

とても人間わざとは思えない。

体、光ってるし……。

彼女はジャンヌが聖神女であることを知らないし、もちろん、ジャンヌの体に光の女神が降臨していることも知らない。

「大丈夫、大丈夫。
だって、人族が痛がってるんだもん。
痛いの、痛いの、飛んでけ~」
 ジャンヌのヒカリちゃんは、さも楽しそうに治療を続ける。

彼女は自らが加護する人族に、直接貢献できることがうれしくてしかたがないのだ。

ジャンヌの魔法習熟にも役立つし、一挙両得……、って。

あら……。

ジャンヌはふら~っと倒れ、意識を失った。

「ジャンヌちゃん! 
だから言ったでしょ! 
リフレッシュ!」
 ミルは慌ててジャンヌに回復魔法をかけた。

「テヘ……。
調子に乗って、ジャンヌに無茶をさせてしまいました。
少し休ませて下さい」
 ヒカリちゃんは反省し、テレサに魂を飛ばした。さすがにキャパを越えたのだ。

ヒカリちゃんは元気いっぱいでも、ジャンヌは生身の体なのだ。魔力が無尽蔵でも、治癒系の魔法は、攻撃系や補助系魔法より、体力を消費する。


『おじゃましま~す! 
さすが我が夫。
魔王軍を押し返してますね。
光の槍、五十本まとめて!
えい!』
 最前線で戦うテレサの体に降臨するや否や、ヒカリちゃんは攻撃魔法を放つ。

「ヒカリちゃん、加減ちゅうもん、ちっとは学習した方がええで」
 テレサと並び、弓で応戦するユリは苦笑して言う。

テレサの体が光り始めたので、ユリは降臨に気づいたのだ。

魔王軍は、もちろん対魔法のバリアを張っていた。

ヒカリちゃんの魔法は、たやすくバリアを抜き、混戦の中、正確に五十体の魔王軍兵を倒した。

ヒカリちゃんの魔法で、戦局は一挙に動いた。

魔王軍は算を乱し、撤退を始めた。

ブラックに乗り、聖槍アダムを振り回していたケーンは、手を休める。

「よ~し、深追いはするな……。
おい、行くなって! 
ムサシ、止めろ!」
 狂戦士と化したライアンは、魔王軍を追撃する。

ライアンと馬を並べ戦っていたムサシは、大きくため息をつく。

「メアリー、リンダ、いつもの、頼む」

「魔防バリア解除!」
「ショック!」
 メアリーとリンダは、いつもの対応をする。

いつものように、狂戦士ライアンは、スタン効果がある電撃魔法で、意識を刈られる。

ムサシは愛馬から降り、馬から落ちたライアンを担ぎあげ、彼の馬の背に乗せる。

「ケーン、見事な戦いぶりだ」
 ムサシは馬上のケーンに言う。

ムサシの目から見たら、ケーンの動きは遅い。だが、一つ一つの技は、ほれぼれするほど鋭い。

ホワイトに乗るキキョウは……、ノーコメントで。

模擬戦やらなくてよかった。きっと勇者をやめたくなっただろう。

信じられないほど急にパワーアップしたテレサについても、ノーコメントで。
なんかユリがかわいく思えてくる。

被召喚者か、その子孫だと思われる総子は、これからだろうが。

そしてこの一言。

ケーン、爆発しろ!


「ムサシ、さすが勇者だ。じゃあ」
 ケーンはブラックを歩ませ、ヒカリちゃんのテレサを拾い上げる。

「ケーン、お疲れ様」
 背後からケーンに抱かれ、ヒカリちゃんはご機嫌。 

「ジャンヌは?」
「ちょっと無理させちゃった。今休憩してる」

「まあ、いいんだけどね。みんな、帰ろう」
 ケーンはユリを拾い上げたキキョウに言う。

「了解!」
 ケーンと共に戦えるキキョウもご機嫌だった。

ブラックとホワイトの息子、シルバーに乗る総子は思う。だれもかれもが化け物だ。ケーンさんとお嫁さん達。それに勇者パーティ。 
うん、修行あるのみ!
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