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71 魔王軍が侵攻してくる!

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 ムサシたちは、リンデン枢機卿を訪ねた。教会や各国首脳は、勇者に面会を求められたら、最優先で会う義務がある。

「で、ご用件はなんでしょうか?」
 枢機卿は、どことなく不安げな顔で聞く。

「はあ?」
 ムサシは意外に思う。あんたの方に用があるんじゃないの?

「いや、なんのご用かと……」
 枢機卿は不審そうな目でムサシを見る。

「だから……」

「女神様のお告げです」
 ムサシを遮り、メアリーが言う。彼女は直感していた。

なにか後ろ暗いことがあるのではないか。

勇者の務めは、単に魔王と戦うことだけではない。各国の首脳や教会の、監察官的な役割を持っている。

たとえば、女神が疑惑を抱いた段階で、今回のように夢枕に立ったことが過去にあった。
その時も、「会え」と指示をもらっただけだった。

「どのようなお告げだったのでしょう?」
 枢機卿は目を泳がせて言う。

「『リンデン枢機卿に面会しなさい』。それだけです。
普通はもう少し詳しく指示なさるのですが、異例ですね。
それはわたくしどもに、余計な先入観を持たせないケースです。
ご存じのように、勇者パーティは政治と教会から独立した存在です。
著しい腐敗や不正があった場合、わたくしどもは、警察権を有します」

「私に何か問題があると言うのですか!」
 枢機卿は怒りをあらわにした。

「ないのですか?」
 メアリーは、枢機卿の目を見据えて言う。

「あるはずがありません!」
 枢機卿は目をそらして言う。

「神託を受けたわたくしの目は、女神様の目です。
しっかり目を見て答えなさい!」
 メアリーは、毅然として言う。

「話にならん!」
 枢機卿は激昂して席を立った。

「あれは怪しいどころじゃないね?」
 リンダが言う。

「しばらく教会に居座ろう」
 ムサシは一つうなずき、そう応えた。


 リンデン枢機卿は、執務室に帰り、デスクについた。

そして頭を抱える。

女神様に疑われている。

彼は疑われる理由を、正確に知っているわけではない。だが、心当たりは大ありだった。

ジャニス、やはり先の聖神女様の急死に、関係があるのでは? 

ジャニスとは、彼が養女の名目で身近に置いた女だ。実質は愛人。

光の神殿で務める男女は、いくつかの資格が必要だ。その最低限の資格は、身元がはっきりしていること。

彼がジャニスを引き受けたとき、その「はっきりした身元」はあった。

彼が長年かわいがった元司祭の娘。その司祭が急死し、身寄りを亡くしたジャニスを彼は引き取り、そしていつのころからか、愛人として耽溺した。

ジャニスに乞われるがまま、光の神殿に女神官として押し込み、先の聖神女の身近に置いた。

先の聖神女急逝後、ジャニスは神殿を辞し、枢機卿の元へ帰った。

ジャニスいわく。
『私の注意が足りなかったのです。もっと聖神女様の体調に気を配っていたら』
彼女が気落ちするのも、もっともなこと。

枢機卿は彼女を慰め、友人の貴族の別荘に、保養のためジャニスを送り出した。

ところがその道中、ジャニスは忽然と消えた。

もちろん枢機卿は人を雇って行方を捜したが、その消息はいまだ不明。

脳溢血でほとんど即死。先の聖神女の死因に、枢機卿が疑いを持ち始めたのはそれからだった。

たとえば、就寝中急激に血圧をあげる魔法を使えば、証拠を残すことなく自然死を装うことは可能だ。

血液を凝固させ、血栓を作ることも魔法でできる。

もちろん、聖神女が油断していたらの話だが、ぐっすり眠っていたら、そばに仕える者なら、いくらでも隙は見つけられる。

そして枢機卿は、さらに疑い始めた。

ジャニスは本当に、あの司祭の娘だったのだろうか? 

枢機卿は、ジャニスが幼いころからジャニスを知っていた。だが、しょっちゅうジャニスに会っていたわけではない。

もちろん、成長したジャニスは、幼いころのジャニスが成長した姿だと、なんの疑いも持たなかった。

しかし、何者かが周到に仕組んだ結果だとしたら? 

枢機卿は恐ろしくなり、思考を放棄した。

そしてデスクの引出しから、ナイフを取り出した。

光の女神様、申し訳ありません……。

私の責任…かもしれません。

枢機卿は自ら頸動脈をかき切った。


 ムサシは、リンデン枢機卿自刃の知らせを受けた。そして皇帝に面会し、こう進言した。

「魔王軍が侵攻してきます! 急いで防戦の準備を!」
 ムサシは神殿幹部から聞いていた。現聖神女が失踪していることを。
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