暗い水の中を壊して逃げていく

Me-ya

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第1章 昨日までの日常、モノトーンのふたり

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俺はノックもせずに、勢いよくそのドアを開けた。

部屋の中では治朗がベッドの上で、惠を組み敷いていた。

俺はそんなふたりに大股で近付いていく。

「…見て分からない?……今、取り込み中なんだけど……」

治朗はいきなり部屋に入ってきた俺に驚くでもなく、にやにや笑いながら俺の方に顔を向ける。

惠の服を脱がす手は止めずに。

「…惠といいところなんだ…邪魔しないでくれる?……それとも………何、嫉妬?」

「…ふざけるな!…あんな奴らをよこして俺を襲わせるなんて…どういうつもりだ!!」

「……あ~、あれね……どう?ドキドキした?」

(……やっぱり!!)

ニヤニヤと笑いながら言われて、カッとした。

(…こいつ…っ!!)

拳を振り上げ、勢いよく振り下ろす。

だが。

俺の拳は治朗の頬にヒットする前に、治朗の掌に受け止められた。

そして、身体をくるりと反転させられる。

…さっきまで治朗を見下ろしていたのに、今はベッドの上、治朗に見下ろされていた。

(……いつの間に………)

「懲りないね…君も…」

呆れたような声を出した治朗は俺の襟首を押さえつけ、見下ろすと、ベッドの横にいつの間にか呆然とした様子で突っ立っている惠の名前を呼ぶ。

「………惠」

どこを見ているのか、服のボタンを外したまま、ボーッと突っ立っていた惠は、治朗に名前を呼ばれた瞬間、肩を跳ね上げる。

「…少し出ていろ。おれは樹生を躾なおすから」

治朗に言われるまま部屋を素直に出ていく惠。

-気のせいだろうか。

いつもは無表情な惠が。

治朗から部屋を出ていくように言われた時、一瞬、ホッとしたように見えたのは。

「……えらく慌てて出て行ったじゃないか」

俺の言葉に珍しく治朗が顔色を変える。

-図星か。

「…怖がられてんじゃないか?」

治朗が右手を高く上げるのが見えたが、俺の口は止まらない。

「…もしかしてさっきも合意じゃなく無理矢…」

…最後まで言う事はできなかった。

パンッ!!

治朗の右手が振り下ろされ、激しい衝撃が左頬を襲う。

頭が右にぶれて一瞬、頭の中が真っ白になったが、僕の口は止まらない。

「無理矢理…」

パンッ!!

右頬にも同じような衝撃がきて、顔が激しく左にぶれた。

「…無理矢理ヤろ…」

パンッ!!

「…ヤろうと…」

パンッ!!

「…して…」

「黙れ!!」

ゴッ!!

今度は怒鳴り声と共に拳で手加減なく左頬を殴られ、意識が飛んだ。

-いつもの治朗らしくない態度。

(治朗は惠とデキてるわけじゃないのか……)

-だから相思相愛のカップルを見ると、仲を裂くような真似をするのだろうか………。

(なんだ…結局、俺と彰がうらやましいんだ………)
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