学生時代

Me-ya

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5.恋と、嘘と、現実と

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その事がどれ程、僕を喜ばせるかなんて治夫は気付きもしないんだろう。

「………わかった」

諦めたのか、溜め息を吐いてそう言うと、寧音は僕を睨んだ後その場を立ち去った。

「…治夫」

寧音に悪いと思いつつも、嬉しいと思う気持ちを抑えきれない。

そんな自分に、嫌悪してしまう。

「…大丈夫だよ。心配しなくても、後でフォローしとくから」

にっこり笑う治夫に心が痛む。

…違うんだ。

心配をしている訳じゃないんだ。

嬉しいんだ。

寧音より僕を優先してくれた事が…。

そして、そんな自分に嫌悪もしていて…。

「じゃ、取り敢えず俺、売店へ行ってくるから」

………あ、いけね。

僕も売店…。

……ど、どうしよう…。

今更、やっぱり弁当を持ってきていませんでしたなんて言えないよな…。

でも、そうしないと食事…。

うだうだと僕が考えている内に、治夫は売店へ行く為に教室を出ようとしている。

「…あ、あの~…」

教室を出ようとしている治夫の姿を見て慌てて声をかけたものの…。

「ん?」

「………」

何て言えばいいのか…。

「………」

「………」

…時間だけが過ぎていく…。

「………」

「………」

……………。

…ええいっ! 

いいや、言っちゃえ!!

「…あ、あ~…ご、ごめん。僕も売店へ…」

開き直り、口を開いた僕の口から出てきた声は…僕の意思に反してビクビクとしていて、細かった。

僕の言葉に“はあ?”というような顔をした治夫。

…当然ですよね…。

それでも。

「…一緒に行こうか」

そう言ってくれた。

「…あのさ、そんなに気を使わなくていいから」

そうも言われたけど。

「俺も寧音と居たいと思えば、きちんとそう言うし。だいたい俺が隼人と昼を食べたいと思って誘ったんだからさ…まあ…隼人が嫌だってんなら…」

「そんな事、ない!!」

慌てて治夫の言葉を遮る。

そんな事、ない!!

治夫に誘われて、嫌だなんてことは絶対、ない!!

誘ってもらって嬉しかったし!!

「…じゃ、これからは俺達の間に遠慮はなしという事でいい?」

「…うん」

僕に対してにっこりと優しく笑う治夫に、思わずドギマギしてしまう。

治夫には僕との記憶がないからか、以前の治夫じゃないみたいで…。

どんな態度をとればいいのか…。

以前はどんな態度をとっていたのか、思い出せない。

僕が治夫を好きだと自覚した時にはもう、治夫は僕に関する記憶をなくしていたから。

売店でパンを買い、教室へ戻り治夫と一緒にくだらない話をしながら食べる。

こうしていると、以前と変わらない気がする。

治夫が僕の記憶をなくしているなんて、嘘みたいだ。

だけど………。

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