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二章
29花より団子
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古くから代々アルファの王が治めてきた〈セイシン〉に双子の王太子が誕生した春、国に激震が走った。多くの者はこれに反対し、王の一族である『タスキ』の一族の取り潰しを目論む輩も現れるほど宮廷は乱れる事となった。その後五年のうちに王が病に倒れると、双子の王がセイシンの頂に立つ事になる。
しかしそれはもう少し先の話。
今、ヒヨクとトキの二人は王宮のとある庭の景色を堪能していた。一昨日お互いの気持ちを確かめ合った二人は丸一日愛し合い、そして番になった。昨日は二人とも起き上がってこれないほど体力を消耗しており、今日になってやっと寝台から這い出てきたところだ。
「ヒオもまさか同じ事を考えていたとはな」
双子の王子の公表。それは長いセイシンの歴史の中で見ても珍しい、或いは双子忌避の因習へと繋がった王たち以来の事かも知れない。
「まぁ、俺が公表しようと思えたのは、トキの助言があっての事だがな」
「双子で王か。俺もさすがにそこまでは考えてなかったよ。でも、いいと思う」
「我らはこれから証明してゆかねばならぬ。オメガも双子も忌避すべきものではないとな」
繋いでいた手をぎゅっと力強く握りしめられる。
ヒヨクが気付いていなかっただけで実はずっと互いに相思相愛だったのだと思うと二人の距離の近さはどうにも面映ゆい。少しでも慣れようと梅の木を見上げながらトキの肩に頭を凭れさせると、トキがびくりと肩を持ち上げて照れ笑いをするので気持ちはお互い同じのようだ。
「う……何かまた腰が重くなってきたかも……」
「情け無いのう。木こりの体力とはそんなものか?」
「そうじゃなくて! また、したくなってきたって事」
指を交互に絡めるようなつなぎ方に変わるとヒヨクの胸ははちきれんばかりに高鳴る。
「よ、夜なら良いぞ……」
「今してぇ~……」
これ以上体をくっつけているとお互いその気になってしまうので距離を取った。それでもトキは発情期の匂いを感じ続けているのであまり意味は無いらしい。難儀な事だがヒヨクに興奮しているトキを見るとどうしてか得意な気分になるのでヒヨクはもっと自分に夢中になって欲しいと思う。
「お主の父母にも何か報いねばな。お主を王宮に留まらせる事を許してくれたのであろう? 慣例に従うなら獬の邑にもだな。どんなものが喜ばれるだろうか?」
「ん、まぁ、それはさ、ゆっくり考えようぜ。家なら大丈夫だよ。妹が二人もいるし、ヒヨクとヒオが頑張れば頑張るほど妹たちも生きやすくなる」
「そうか」
「だから今はそれよりも」
トキは不自然に言葉を切って、ヒヨクの体を横抱きにして軽々と抱え上げた。
「な、なんだ、ヒヨク!」
「花より団子、梅よりヒヨク!!」
トキはご機嫌でヒヨクを抱えたまま殿舎の中に入っていってしまう。そのまま一昨日散々睦み合った寝台の上に下ろされて、いやらしく口付けをされる。実は黙っていたが、ヒヨクもまた『鶯よりトキ』の気分だった。
トキの求めに懸命に応えて唇を合わせ、舌を重ね、視線を絡める。
「……はぁ、匂いが強くなってきた」
「そう、なのか? あっ」
トン、と肩を押されるとヒヨクの体は簡単に寝台の上に倒れていってしまう。真上から見下ろされて、その先を期待して、ヒヨクはトキに向かって手を伸ばす。
あたたかくてトキの大きな手が、さまようヒヨクの手を包んだ。
しかしそれはもう少し先の話。
今、ヒヨクとトキの二人は王宮のとある庭の景色を堪能していた。一昨日お互いの気持ちを確かめ合った二人は丸一日愛し合い、そして番になった。昨日は二人とも起き上がってこれないほど体力を消耗しており、今日になってやっと寝台から這い出てきたところだ。
「ヒオもまさか同じ事を考えていたとはな」
双子の王子の公表。それは長いセイシンの歴史の中で見ても珍しい、或いは双子忌避の因習へと繋がった王たち以来の事かも知れない。
「まぁ、俺が公表しようと思えたのは、トキの助言があっての事だがな」
「双子で王か。俺もさすがにそこまでは考えてなかったよ。でも、いいと思う」
「我らはこれから証明してゆかねばならぬ。オメガも双子も忌避すべきものではないとな」
繋いでいた手をぎゅっと力強く握りしめられる。
ヒヨクが気付いていなかっただけで実はずっと互いに相思相愛だったのだと思うと二人の距離の近さはどうにも面映ゆい。少しでも慣れようと梅の木を見上げながらトキの肩に頭を凭れさせると、トキがびくりと肩を持ち上げて照れ笑いをするので気持ちはお互い同じのようだ。
「う……何かまた腰が重くなってきたかも……」
「情け無いのう。木こりの体力とはそんなものか?」
「そうじゃなくて! また、したくなってきたって事」
指を交互に絡めるようなつなぎ方に変わるとヒヨクの胸ははちきれんばかりに高鳴る。
「よ、夜なら良いぞ……」
「今してぇ~……」
これ以上体をくっつけているとお互いその気になってしまうので距離を取った。それでもトキは発情期の匂いを感じ続けているのであまり意味は無いらしい。難儀な事だがヒヨクに興奮しているトキを見るとどうしてか得意な気分になるのでヒヨクはもっと自分に夢中になって欲しいと思う。
「お主の父母にも何か報いねばな。お主を王宮に留まらせる事を許してくれたのであろう? 慣例に従うなら獬の邑にもだな。どんなものが喜ばれるだろうか?」
「ん、まぁ、それはさ、ゆっくり考えようぜ。家なら大丈夫だよ。妹が二人もいるし、ヒヨクとヒオが頑張れば頑張るほど妹たちも生きやすくなる」
「そうか」
「だから今はそれよりも」
トキは不自然に言葉を切って、ヒヨクの体を横抱きにして軽々と抱え上げた。
「な、なんだ、ヒヨク!」
「花より団子、梅よりヒヨク!!」
トキはご機嫌でヒヨクを抱えたまま殿舎の中に入っていってしまう。そのまま一昨日散々睦み合った寝台の上に下ろされて、いやらしく口付けをされる。実は黙っていたが、ヒヨクもまた『鶯よりトキ』の気分だった。
トキの求めに懸命に応えて唇を合わせ、舌を重ね、視線を絡める。
「……はぁ、匂いが強くなってきた」
「そう、なのか? あっ」
トン、と肩を押されるとヒヨクの体は簡単に寝台の上に倒れていってしまう。真上から見下ろされて、その先を期待して、ヒヨクはトキに向かって手を伸ばす。
あたたかくてトキの大きな手が、さまようヒヨクの手を包んだ。
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