29 / 29
二章
29花より団子
しおりを挟む
古くから代々アルファの王が治めてきた〈セイシン〉に双子の王太子が誕生した春、国に激震が走った。多くの者はこれに反対し、王の一族である『タスキ』の一族の取り潰しを目論む輩も現れるほど宮廷は乱れる事となった。その後五年のうちに王が病に倒れると、双子の王がセイシンの頂に立つ事になる。
しかしそれはもう少し先の話。
今、ヒヨクとトキの二人は王宮のとある庭の景色を堪能していた。一昨日お互いの気持ちを確かめ合った二人は丸一日愛し合い、そして番になった。昨日は二人とも起き上がってこれないほど体力を消耗しており、今日になってやっと寝台から這い出てきたところだ。
「ヒオもまさか同じ事を考えていたとはな」
双子の王子の公表。それは長いセイシンの歴史の中で見ても珍しい、或いは双子忌避の因習へと繋がった王たち以来の事かも知れない。
「まぁ、俺が公表しようと思えたのは、トキの助言があっての事だがな」
「双子で王か。俺もさすがにそこまでは考えてなかったよ。でも、いいと思う」
「我らはこれから証明してゆかねばならぬ。オメガも双子も忌避すべきものではないとな」
繋いでいた手をぎゅっと力強く握りしめられる。
ヒヨクが気付いていなかっただけで実はずっと互いに相思相愛だったのだと思うと二人の距離の近さはどうにも面映ゆい。少しでも慣れようと梅の木を見上げながらトキの肩に頭を凭れさせると、トキがびくりと肩を持ち上げて照れ笑いをするので気持ちはお互い同じのようだ。
「う……何かまた腰が重くなってきたかも……」
「情け無いのう。木こりの体力とはそんなものか?」
「そうじゃなくて! また、したくなってきたって事」
指を交互に絡めるようなつなぎ方に変わるとヒヨクの胸ははちきれんばかりに高鳴る。
「よ、夜なら良いぞ……」
「今してぇ~……」
これ以上体をくっつけているとお互いその気になってしまうので距離を取った。それでもトキは発情期の匂いを感じ続けているのであまり意味は無いらしい。難儀な事だがヒヨクに興奮しているトキを見るとどうしてか得意な気分になるのでヒヨクはもっと自分に夢中になって欲しいと思う。
「お主の父母にも何か報いねばな。お主を王宮に留まらせる事を許してくれたのであろう? 慣例に従うなら獬の邑にもだな。どんなものが喜ばれるだろうか?」
「ん、まぁ、それはさ、ゆっくり考えようぜ。家なら大丈夫だよ。妹が二人もいるし、ヒヨクとヒオが頑張れば頑張るほど妹たちも生きやすくなる」
「そうか」
「だから今はそれよりも」
トキは不自然に言葉を切って、ヒヨクの体を横抱きにして軽々と抱え上げた。
「な、なんだ、ヒヨク!」
「花より団子、梅よりヒヨク!!」
トキはご機嫌でヒヨクを抱えたまま殿舎の中に入っていってしまう。そのまま一昨日散々睦み合った寝台の上に下ろされて、いやらしく口付けをされる。実は黙っていたが、ヒヨクもまた『鶯よりトキ』の気分だった。
トキの求めに懸命に応えて唇を合わせ、舌を重ね、視線を絡める。
「……はぁ、匂いが強くなってきた」
「そう、なのか? あっ」
トン、と肩を押されるとヒヨクの体は簡単に寝台の上に倒れていってしまう。真上から見下ろされて、その先を期待して、ヒヨクはトキに向かって手を伸ばす。
あたたかくてトキの大きな手が、さまようヒヨクの手を包んだ。
しかしそれはもう少し先の話。
今、ヒヨクとトキの二人は王宮のとある庭の景色を堪能していた。一昨日お互いの気持ちを確かめ合った二人は丸一日愛し合い、そして番になった。昨日は二人とも起き上がってこれないほど体力を消耗しており、今日になってやっと寝台から這い出てきたところだ。
「ヒオもまさか同じ事を考えていたとはな」
双子の王子の公表。それは長いセイシンの歴史の中で見ても珍しい、或いは双子忌避の因習へと繋がった王たち以来の事かも知れない。
「まぁ、俺が公表しようと思えたのは、トキの助言があっての事だがな」
「双子で王か。俺もさすがにそこまでは考えてなかったよ。でも、いいと思う」
「我らはこれから証明してゆかねばならぬ。オメガも双子も忌避すべきものではないとな」
繋いでいた手をぎゅっと力強く握りしめられる。
ヒヨクが気付いていなかっただけで実はずっと互いに相思相愛だったのだと思うと二人の距離の近さはどうにも面映ゆい。少しでも慣れようと梅の木を見上げながらトキの肩に頭を凭れさせると、トキがびくりと肩を持ち上げて照れ笑いをするので気持ちはお互い同じのようだ。
「う……何かまた腰が重くなってきたかも……」
「情け無いのう。木こりの体力とはそんなものか?」
「そうじゃなくて! また、したくなってきたって事」
指を交互に絡めるようなつなぎ方に変わるとヒヨクの胸ははちきれんばかりに高鳴る。
「よ、夜なら良いぞ……」
「今してぇ~……」
これ以上体をくっつけているとお互いその気になってしまうので距離を取った。それでもトキは発情期の匂いを感じ続けているのであまり意味は無いらしい。難儀な事だがヒヨクに興奮しているトキを見るとどうしてか得意な気分になるのでヒヨクはもっと自分に夢中になって欲しいと思う。
「お主の父母にも何か報いねばな。お主を王宮に留まらせる事を許してくれたのであろう? 慣例に従うなら獬の邑にもだな。どんなものが喜ばれるだろうか?」
「ん、まぁ、それはさ、ゆっくり考えようぜ。家なら大丈夫だよ。妹が二人もいるし、ヒヨクとヒオが頑張れば頑張るほど妹たちも生きやすくなる」
「そうか」
「だから今はそれよりも」
トキは不自然に言葉を切って、ヒヨクの体を横抱きにして軽々と抱え上げた。
「な、なんだ、ヒヨク!」
「花より団子、梅よりヒヨク!!」
トキはご機嫌でヒヨクを抱えたまま殿舎の中に入っていってしまう。そのまま一昨日散々睦み合った寝台の上に下ろされて、いやらしく口付けをされる。実は黙っていたが、ヒヨクもまた『鶯よりトキ』の気分だった。
トキの求めに懸命に応えて唇を合わせ、舌を重ね、視線を絡める。
「……はぁ、匂いが強くなってきた」
「そう、なのか? あっ」
トン、と肩を押されるとヒヨクの体は簡単に寝台の上に倒れていってしまう。真上から見下ろされて、その先を期待して、ヒヨクはトキに向かって手を伸ばす。
あたたかくてトキの大きな手が、さまようヒヨクの手を包んだ。
0
お気に入りに追加
35
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
優しい恋に酔いながら
すずかけあおい
BL
一途な攻め×浅はかでいたい受けです。
「誰でもいいから抱かれてみたい」
達哉の言葉に、藤亜は怒って――。
〔攻め〕藤亜(とうあ)20歳
〔受け〕達哉(たつや)20歳
藤の花言葉:「優しさ」「歓迎」「決して離れない」「恋に酔う」「忠実な」

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》
市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。
男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。
(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる