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一章
7第二の試験
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トキは同じ顔の人間にそれぞれ一度ずつ救ってもらったという計算で合っているだろうか。トキの中では候補戦に参加出来るようにしてくれた赤髪の青年と、塀から落ちて尻もちをついた青年は別人という事になっている。
――俺と俺の『兄弟』について二度と詮索するな。
つまり、そういう事だ。あれはあの青年に兄弟が居るという告白に他ならない。そして詮索してはいけない理由にも心当たりがあった。
「トーサとトーウは元気してるかなぁ……」
「故郷に残してきた家族かい?」
トキの肩に手を置いて、シカがにっこり笑って「おはよう」と挨拶をしてくる。出会って三日目の浅い関係だがこの男の登場にはもう驚かなくなってしまった。
「妹だよ」
「妹さんが二人も居るんだねぇ!」
「ああ、双子のな」
空気に音というものが存在するとしたら、今まさにトキは空気の奏でる『カチン』という音を聞いただろう。トキを中心に周囲の世界が凍ったように動かなくなる。にこにこ顔のシカが呆気に取られ、瞬きも忘れてトキを凝視する。
「……お、驚いたなぁ。君って冗談を言うんだねぇ」
これが世間の双子に対する普通の反応だ。いやシカの反応はまだ軽い方だろう。人によってはこの瞬間からトキを存在しない人間かのように無視し始める。セイシンにある双子忌避の因習は人々の考えに強く染みついてしまっている。
「家族の事で冗談なんて言う訳ねぇだろ」
肩から重さが消えていく。シカは親し気に載せていた手を退かし、当惑した様子でトキから一歩距離を取った。
「本気かい?」
「くどいな。俺の妹は双子だよ。嘘じゃねぇ。普通の赤ん坊より小さく生まれてきたのを俺はこの目で見てる。産婆に助かんねぇかもって言われて俺と親父は馬鹿みたいに泣いて、でも助かって。十二歳になった」
すっかり面食らってしまって何も言えなくなったシカの顔は少し可笑しくて吹き出すと、シカは困ったように眉を下げた。
「どちらか片方を一年早く生まれた事にしようって、誰も提案しなかったのかい?」
シカの言った事は世の中の双子を持つ親が取る苦肉の策だ。そうやって偏見から我が子を守ろうとして、いつか嘘が知られてしまうのではないかと怯えて暮らしている。ヒキツ家はそうなるくらいなら初めから堂々としていようと話し合って決めた。
「産婆に取り上げてもらってるしな。小さい邑だし隠し通すなんて無理だろ。妹たちに黙ったまま過ごして、何かのはずみで知っちまったりしたらそれこそ可哀想だろ?」
「……そうか。君はそんな風に考えるんだね」
シカは驚きはしたものの最後まで妹たちの事やトキと両親の決断を悪く言う事はなかった。その代わり、その日一日はシカの軽口は鳴りを潜める事になった。ずっと考え事に耽っており、話しかけても上の空。双子である事を受け入れて生きている人間がこの世に居る事によっぽど衝撃を受けたのかも知れない。だとしたら、少し悪い事をしたような気分にもなったが、そういう後ろめたい気持ちを持たないためにも妹が双子である事を隠さないと決めたのだから、彼に謝罪はしなかった。
「『義』の試験を開始する。名を呼ばれた者は演武台の中央へ出ろ」
そろそろおなじみになってきた紫の官服を着た官僚の淡々とした声が響く。
四方の開けたこの場所は、王の御前で選りすぐりの武人たちがその技を競う御前試合を行うための舞台。演武台を挟んで西と東に高い壁が築かれ、南には東西の壁と壁に架かる屋根付きの橋のような建物がある。両端から東西の建物の中に入れるようになっており、パッと見た目は宙に浮かぶ櫓のようでもある。
これがもし本当の御前試合なら南の橋に席が設けられて王が試合を観戦するのだが、今日は無人だ。そして無人の観戦席に見下ろされながら、同じ服装をさせられた一人の女と一人の男が演武台に立たされていた。互いに困惑した顔で見つめ合う。
「用意、始め!」
男女の困惑など知った事ではない審判が開始を告げた。グワァァンと盛大に銅鑼が鳴らされたところで男女は見つめ合うばかりで微動だにしない。無論、二人は恋人ではなく恋敵だ。
番候補戦、二日目。『義』の試験の内容は、王子の番の座を争う候補者同士で武芸を競えというものだった。
前日の試験が終わった後、翌日はこれに着替えて宿舎の前で待っているようにといって全員にある物が渡された。布の包みの中に入っていたものは、一着の袍と袴。飾り気のない真っ白な衣は武芸を嗜む者が修行の時に身に付ける修行着そのものだった。
包みを開けた時点で概ね体力的な試験が行われるだろう事はみんな予想しただろう。例えば滝行とか、百の石段十往復とか、宿舎の清掃とか。誰も戦わせられるとは思わなかったに違いない。
「い、いきますね」
男の方が不慣れな戦闘態勢を取り、「やー」というどこか気の抜ける掛け声と共に走り出す。女は直前まで必死に逃げ出さないよう耐えていたが男の拳が振り上げられると悲鳴を上げてその場にしゃがみ込んでしまった。「ありゃ駄目そうだ」誰かの野次る声がする。
「止め!」
試合の制止がかかると蹲って動かなくなってしまった女が兵士に脇を抱えられて演武台を降ろされていった。男の方はと言えば女の悲鳴に気圧されたのかこちらも完全に戦意を喪失しており、腰を抜かしてしまう。すぐに兵士が男を軽々と抱えて演武台を降りていった。
「ひでぇ……」
候補者たちから遠巻きにされているトキだが、この時ばかりは彼の呟きに皆が心の中で同意した。
演武台を下ろされた後も男女はすっかり怯え切って青い顔をしたままでいる。これがオメガだ。大半のオメガは小柄且つ華奢で、攻撃的な性質を嫌う傾向にある。戦闘なんてもっての他で、武器なんて持たせられたら中にはそれだけで失神してしまう者さえいるだろう。
『義』とは。昨日の二の舞にならないようトキは事前に訊いておいた。相手は言わずもがなシカだ。
――四訓の『義』とは、簡単に言えば『人道』かな。人様に恥じるような事はするな、道理に悖るな。道徳的であれ、みたいな事だよ。
だったら、この戦い自体が『義に悖る』って言うんじゃねぇのかよ。
怯えるオメガを舞台に上げて戦わせるなんて酷い方法を糾弾する事こそが、この場合トキの思う『義』だ。
「まぁそう急くな」
拳を握りしめ、今にも官僚に向かって面罵しようとしたトキを止める者があった。憤懣やるかたない様子のトキは肩に手を置かれて制止をかける誰かを振り返り仰天する。
「び……っ」
(びっくりした、びっくりした……!!!)
喉まで出かかった悲鳴を飲み込んだ自分を褒めたい。
トキを止めた何某はその顔に文字通り驚くほど派手な仮面をつけていた。木彫りの面に着色を施しており、真っ赤な顔面に黒で模様が描かれている。火の大邑に伝わる伝統芸能で使うお面だが、今この場でその仮面を使うのはふざけているとしか思えない。
まだドキドキする胸を押さえて仮面を凝視する。
「お前が、髭は似合わぬと申したからだ」
言い訳じみたその声には聞き覚えがある。ふ、と男から香ってくる甘いような芳香が、仮面の下の素顔を思い出させた。
「あんた、何でそんな格好で」
「黙って見ていろ」
頭の後ろを掴まれて強引に演武台の方を向かせられる。
「あ……」
よりによって母さんの番かよ。
演武台に上がった母は腰をくねらせたり思わせぶりに頬に手を添えてみたりと審判をしている官僚に秋波を送る。動きがわざとらしいせいで妖艶というより阿呆っぽく見えるので心からやめてほしい。あの人の息子である事は絶対に悟られてはならないと固く心に決める。
母の反対に立ったのは南部の少女だ。濃紺の長髪をきっちりと結い上げて、あどけなさの残る顔で闘志を燃やしている。あの気の強さならオメガだろうと戦いに臆するような事はないのかも知れない。
呼吸を整えて、少女は両手を広げて構えを取る。その姿は堂に入っていた。
「開始!」
銅鑼が鳴るのとほとんど同時に動いたのは母の方だった。袍を翻して素早くその場に屈みこむと、両手を地面について「参りました」と宣言。
肩透かしを食らった少女は構えを解くまでに一瞬の間があった。しかしすぐに気を取り直すと母に向かって手を差し伸べる。
「ケイさんにそのようなお姿は似合いません。どうか顔を上げて下さい」
ケイというのは母の名だ。どういう訳かこのほんの数日の間に少女と交流を図っていたようで、少女から母に向ける眼差しには親しみが込められていた。
まばらな拍手が起こる。女同士の友情に数名の兵士が感動していた。今のはそんなに良い場面だっただろうか。単に片方が土下座しただけだと思うのだが。
何にせよ、これでトキの心配事は一つ減る事となった。オメガを相手に戦って勝利するだけで良いのなら、分はトキにある。
トキが演武台に呼ばれると、相手はトキの体格の良さに圧倒されてしまい舞台に上がる事さえせずに辞退してしまった。
これで候補者は八人にまで絞られた。残りは明日へと持ち越しかと思いきや、トキと南部の少女が名を呼ばれて演武台に上がるよう促された。
「まだやんのかよ」
負けん気だけは人一倍強いが、少女は候補者たちの中でも小柄な方だ。少女の目の高さはトキの胸の位置にあり、体重は半分もあるかどうか怪しいほど。
「豹の邑のミ族が長子、ミスイ。あなたには絶対に負けないわ!」
名乗りを上げて、少女ミスイは濃紺の瞳で勝ち気にトキを見据える。
こんなにも目の敵にされる覚えはないが、初日に彼女が忠告した理由はトキも少しずつ実感し始めていた。
石板を敷き詰めた演武台の中央、自分よりも体格でずっと勝る大男を相手に威勢よく吠えるミスイを見る兵士の視線は誰一人彼女への敬意を感じない。馬鹿にしているか、或いは関心が無いか、そうでなければいやらしい目線をくれて鼻の下を伸ばす愚か者か。いずれにせよまともに試合を観戦する気のある者は一人と見当たらない。
これは何もミスイに限った話ではなかった。オメガ同士が恐れおののきながら柔弱な拳を交える様に誰も価値を見出していないのだ。それが世間のオメガに対する評価。弱いオメガはアルファやベータに傅き恭順せねばならない、というのが共通の認識なのだ。
トキは迷った。ここでミスイの身を案じて勝負を辞すればミスイに怪我を負わせずに済む。舞台に上がるまではそれが最善だと思っていたが、いざミスイと対峙してみると、トキに引き下がられて「大男に気の毒に思われた」と恥を搔くのはミスイの方になると肌で感じた。
ミスイが辞退する事は絶対に無いという確信がある。彼女は候補者たちの中でも珍しく候補戦に意気込んでおり、そのやる気だけはトキに引けを取らない。この勝負は取っ組み合いの末にどちらかが「参った」と言うまで終わらないだろう。
アルファとオメガ。それぞれ生まれつき得意な事が違うというだけの話だ。だというのに何故、アルファの土俵でオメガが戦わされなければならないのか。どちらにとっても理不尽な試合は意味が無いと感じた。
棄権しよう。トキがそう決心した時だった。
「もう良い。二人とも義の士である事はこの場に居るだれもが認めよう。かたや倍はあろうかという大男を相手に勇ましく、かたやその勇士に応えるべく懊悩した。明日の『礼』の試験を受けるのに十分に値する。だがそれでは納得のいかぬ者もおるだろう。故、俺が相手となる」
誰もが呆気に取られる中、唯一動いていたのは仮面の男もとい赤髪の青年で、今しがた仰々しい口調でトキとミスイを認めるよう衆人に向けて弁を振るったのもまた赤髪の青年だった。そして、仮面をつけたままの青年は周囲からの視線を一身に浴びながら演武台の中央、トキとミスイと三つ巴になる形で並び、「来い」と言って構えを取った。
急展開に思考が追いつかない。誰と誰が戦うって?
「何だ、来ないのか? 俺に負けたからと言ってお主ら二人の合否が変わる事はない。安心せよ」
「……胸を、お借りします」
初めてあのミスイが気圧されているところを見た。武の心得がある者にしか分からぬ何かがあるのかミスイは全身を緊張させて青年と対峙する。
「そなたも構えるくらいの事はしろ」
不意に力を抜いた気安い雰囲気の声が飛んできて、仮面の下で赤髪の青年が笑っている顔が浮かぶ。実際に笑っていたかどうかは分からない。これはトキの単なる願望だ。
構えと言われても幼少から握って来たのは木を伐り倒すための斧だけで、拳は妹たちをいじめる近所の悪ガキたちを懲らしめるためだけに握った。獬には狩りを生業にしている者も居るがトキは弓のゆの字も知らなければ、武における作法というものも分からない。ひとまず見様見真似で青年と同じ姿勢を取ってみると、仮面の顔が「良し」というように首肯した。
「はあっ!!」
ミスイが気炎を揚げて青年に飛びかかる。青年はトキに向かって腕を突き出し手首から先をクイッと曲げてみせる。かかってこいと煽っているようだ。
(ええい、なるようになれ!!)
勝手が分からないなりに右手で拳を作って青年の横から殴りにかかる。トキとミスイ、二人が同時に青年へ襲いかかったが、トキの拳が青年に触れるその刹那ぐるんと視界が反転し、何が起きたのかを理解する間もなく地面に背中から叩きつけられていた。
「い゛っ!?」
「っ……!」
見ればミスイも声にならない悲鳴を上げて地面で丸まっている。何と青年は二人を相手に取って同時にその場に転ばせてあっという間に倒してしまったらしい。あまりに呆気ない終わりに、ここまでの自分の葛藤は何だったのかという気になる。悔しいと思う暇さえなかった。
「ふむ。なかなかの拳であった。素人なりによくやったぞ獬の青年」
仮面の青年はトキが殴りかかった右腕を押さえ、まるで武の師匠に弟子が一発叩きこんだかのように褒め称えた。背中の痛みに耐えつつトキはどうにか膝をついて体を起こす。青年の右腕には震えが来ており、左手で強く握りしめても胸の前でカタカタと小さく振動していた。
俺の拳、当たってないよな……?
自分の右腕には何の感触も残っていない。痛いのは地面で打った背中だけだ。自分の体が空中で回転して落ちるまでの間、何が起きていたのか一切分からなかったトキにははっきりと自分の攻撃が当たったとも外したとも言い難く、ただ茫然と赤と黒の派手な仮面を見るしかない。仮面の奥に見える瞳と目が合うと、す、とさり気なく逸らされてしまう。
「なあ――」
「次の者、演武台へ」
官僚が告げるのに合わせて仮面の男が身を翻すと、彼に何を言いたかったのか分からなくなってしまった。
トキから目を逸らして去ろうとする彼に何かを言ってやらなくてはならない衝動に駆られたが、王宮の官僚に兵士が揃った公衆の前で身分も立場も分からぬ――少なくともトキよりは格上の――相手に迂闊な発言は控えるべきだという理性が働いた。ここでのトキの行動は全て『オメガの行動』とみなされる。トキが自分のバースを偽ってここに居る事の代償であり、トキの行動でオメガの評価が下がるような事にはしたくなかった。
ミスイの小さく呻くような声が聞こえて我に返る。自分のせいではないとはいえ、少女にいつまでも這いつくばらせている絵面はあまり良いとは言えない。トキがミスイの傍に寄って手を差し出すと、ミスイは一瞬ひどく傷ついたような顔をした後トキの手を掴んで立ち上がった。
「……あなた、あの方が全く恐ろしくなかったのね」
「え? 今何か言ったか?」
「……。いいえ、何も」
「そうか……?」
それ以上食い下がれるような空気でもなく大人しく演武台を降りる。
その後も『義』の試験は続き、最終的に四人にまで候補者が絞られた。最後の一人は棄権などの都合で枠が余ってしまったため、これまでの成績を鑑みてシカが目星をつけていた金髪の気弱な子が選ばれていた。
最初は三十人以上がいた候補者たちは初日に十五人まで減らされて、二日目である今日は四人にまで減った。そして明日の朝には更に半分以下にまで減る可能性を思うとその容赦の無さに言葉も出ない。最後は一人にまで絞られるという事がいよいよ現実味を帯びてきてぐっと緊張が高まる。
「それじゃあ母さん帰るわね」
「気を付けろよ。向こうはもう雪すごいだろうし」
「何年木の大邑に住んでると思ってるのよ。それよりもあなたの方が心配だわ」
「俺は男だし平気。それより、父さんとも仲直りしろよな」
「別に喧嘩はしてないのよー?」
『義』の試験で落とされた者たちも今夜一晩までは宿泊して構わないという事になっていたようだが、せっかちな母はもう王宮の外に宿を取ったという。都には母方の親戚が住んでおり、今回の候補戦の間で随分世話になったそうだ。そもそも母がこの候補戦に参加するきっかけは母の実家がある『狼』の邑の人間から候補戦の話を聞いたからだった。獬と狼は共同で綿花の畑を世話しているので交流がある。思いついたら即実行の母は狼の邑長に話をつけて、嫁入りする時に身に付けた晴れ着を持って都に上ってきた。上手くいけば獬と狼で少しずつ返礼品を分け合う算段だったようだ。
「先に帰ってあなたの吉報を待ってるわね」
「おう、待ってろよ。絶対俺が選ばれてやるから」
「やだもう! 男前に育ったんだから!」
バシバシと全力でトキの背中を叩いて母は宿舎を後にした。ひりひりする背中を擦りながら宿舎に入り自分の部屋に戻ろうとすると、階段を上がってすぐの廊下に南部の少女ミスイが関所の門番のように立っていた。
視線が合うと、ミスイはトキの方へと歩いてくる。
「単刀直入に聞くわ。あなた、バースを偽ってないわよね?」
――俺と俺の『兄弟』について二度と詮索するな。
つまり、そういう事だ。あれはあの青年に兄弟が居るという告白に他ならない。そして詮索してはいけない理由にも心当たりがあった。
「トーサとトーウは元気してるかなぁ……」
「故郷に残してきた家族かい?」
トキの肩に手を置いて、シカがにっこり笑って「おはよう」と挨拶をしてくる。出会って三日目の浅い関係だがこの男の登場にはもう驚かなくなってしまった。
「妹だよ」
「妹さんが二人も居るんだねぇ!」
「ああ、双子のな」
空気に音というものが存在するとしたら、今まさにトキは空気の奏でる『カチン』という音を聞いただろう。トキを中心に周囲の世界が凍ったように動かなくなる。にこにこ顔のシカが呆気に取られ、瞬きも忘れてトキを凝視する。
「……お、驚いたなぁ。君って冗談を言うんだねぇ」
これが世間の双子に対する普通の反応だ。いやシカの反応はまだ軽い方だろう。人によってはこの瞬間からトキを存在しない人間かのように無視し始める。セイシンにある双子忌避の因習は人々の考えに強く染みついてしまっている。
「家族の事で冗談なんて言う訳ねぇだろ」
肩から重さが消えていく。シカは親し気に載せていた手を退かし、当惑した様子でトキから一歩距離を取った。
「本気かい?」
「くどいな。俺の妹は双子だよ。嘘じゃねぇ。普通の赤ん坊より小さく生まれてきたのを俺はこの目で見てる。産婆に助かんねぇかもって言われて俺と親父は馬鹿みたいに泣いて、でも助かって。十二歳になった」
すっかり面食らってしまって何も言えなくなったシカの顔は少し可笑しくて吹き出すと、シカは困ったように眉を下げた。
「どちらか片方を一年早く生まれた事にしようって、誰も提案しなかったのかい?」
シカの言った事は世の中の双子を持つ親が取る苦肉の策だ。そうやって偏見から我が子を守ろうとして、いつか嘘が知られてしまうのではないかと怯えて暮らしている。ヒキツ家はそうなるくらいなら初めから堂々としていようと話し合って決めた。
「産婆に取り上げてもらってるしな。小さい邑だし隠し通すなんて無理だろ。妹たちに黙ったまま過ごして、何かのはずみで知っちまったりしたらそれこそ可哀想だろ?」
「……そうか。君はそんな風に考えるんだね」
シカは驚きはしたものの最後まで妹たちの事やトキと両親の決断を悪く言う事はなかった。その代わり、その日一日はシカの軽口は鳴りを潜める事になった。ずっと考え事に耽っており、話しかけても上の空。双子である事を受け入れて生きている人間がこの世に居る事によっぽど衝撃を受けたのかも知れない。だとしたら、少し悪い事をしたような気分にもなったが、そういう後ろめたい気持ちを持たないためにも妹が双子である事を隠さないと決めたのだから、彼に謝罪はしなかった。
「『義』の試験を開始する。名を呼ばれた者は演武台の中央へ出ろ」
そろそろおなじみになってきた紫の官服を着た官僚の淡々とした声が響く。
四方の開けたこの場所は、王の御前で選りすぐりの武人たちがその技を競う御前試合を行うための舞台。演武台を挟んで西と東に高い壁が築かれ、南には東西の壁と壁に架かる屋根付きの橋のような建物がある。両端から東西の建物の中に入れるようになっており、パッと見た目は宙に浮かぶ櫓のようでもある。
これがもし本当の御前試合なら南の橋に席が設けられて王が試合を観戦するのだが、今日は無人だ。そして無人の観戦席に見下ろされながら、同じ服装をさせられた一人の女と一人の男が演武台に立たされていた。互いに困惑した顔で見つめ合う。
「用意、始め!」
男女の困惑など知った事ではない審判が開始を告げた。グワァァンと盛大に銅鑼が鳴らされたところで男女は見つめ合うばかりで微動だにしない。無論、二人は恋人ではなく恋敵だ。
番候補戦、二日目。『義』の試験の内容は、王子の番の座を争う候補者同士で武芸を競えというものだった。
前日の試験が終わった後、翌日はこれに着替えて宿舎の前で待っているようにといって全員にある物が渡された。布の包みの中に入っていたものは、一着の袍と袴。飾り気のない真っ白な衣は武芸を嗜む者が修行の時に身に付ける修行着そのものだった。
包みを開けた時点で概ね体力的な試験が行われるだろう事はみんな予想しただろう。例えば滝行とか、百の石段十往復とか、宿舎の清掃とか。誰も戦わせられるとは思わなかったに違いない。
「い、いきますね」
男の方が不慣れな戦闘態勢を取り、「やー」というどこか気の抜ける掛け声と共に走り出す。女は直前まで必死に逃げ出さないよう耐えていたが男の拳が振り上げられると悲鳴を上げてその場にしゃがみ込んでしまった。「ありゃ駄目そうだ」誰かの野次る声がする。
「止め!」
試合の制止がかかると蹲って動かなくなってしまった女が兵士に脇を抱えられて演武台を降ろされていった。男の方はと言えば女の悲鳴に気圧されたのかこちらも完全に戦意を喪失しており、腰を抜かしてしまう。すぐに兵士が男を軽々と抱えて演武台を降りていった。
「ひでぇ……」
候補者たちから遠巻きにされているトキだが、この時ばかりは彼の呟きに皆が心の中で同意した。
演武台を下ろされた後も男女はすっかり怯え切って青い顔をしたままでいる。これがオメガだ。大半のオメガは小柄且つ華奢で、攻撃的な性質を嫌う傾向にある。戦闘なんてもっての他で、武器なんて持たせられたら中にはそれだけで失神してしまう者さえいるだろう。
『義』とは。昨日の二の舞にならないようトキは事前に訊いておいた。相手は言わずもがなシカだ。
――四訓の『義』とは、簡単に言えば『人道』かな。人様に恥じるような事はするな、道理に悖るな。道徳的であれ、みたいな事だよ。
だったら、この戦い自体が『義に悖る』って言うんじゃねぇのかよ。
怯えるオメガを舞台に上げて戦わせるなんて酷い方法を糾弾する事こそが、この場合トキの思う『義』だ。
「まぁそう急くな」
拳を握りしめ、今にも官僚に向かって面罵しようとしたトキを止める者があった。憤懣やるかたない様子のトキは肩に手を置かれて制止をかける誰かを振り返り仰天する。
「び……っ」
(びっくりした、びっくりした……!!!)
喉まで出かかった悲鳴を飲み込んだ自分を褒めたい。
トキを止めた何某はその顔に文字通り驚くほど派手な仮面をつけていた。木彫りの面に着色を施しており、真っ赤な顔面に黒で模様が描かれている。火の大邑に伝わる伝統芸能で使うお面だが、今この場でその仮面を使うのはふざけているとしか思えない。
まだドキドキする胸を押さえて仮面を凝視する。
「お前が、髭は似合わぬと申したからだ」
言い訳じみたその声には聞き覚えがある。ふ、と男から香ってくる甘いような芳香が、仮面の下の素顔を思い出させた。
「あんた、何でそんな格好で」
「黙って見ていろ」
頭の後ろを掴まれて強引に演武台の方を向かせられる。
「あ……」
よりによって母さんの番かよ。
演武台に上がった母は腰をくねらせたり思わせぶりに頬に手を添えてみたりと審判をしている官僚に秋波を送る。動きがわざとらしいせいで妖艶というより阿呆っぽく見えるので心からやめてほしい。あの人の息子である事は絶対に悟られてはならないと固く心に決める。
母の反対に立ったのは南部の少女だ。濃紺の長髪をきっちりと結い上げて、あどけなさの残る顔で闘志を燃やしている。あの気の強さならオメガだろうと戦いに臆するような事はないのかも知れない。
呼吸を整えて、少女は両手を広げて構えを取る。その姿は堂に入っていた。
「開始!」
銅鑼が鳴るのとほとんど同時に動いたのは母の方だった。袍を翻して素早くその場に屈みこむと、両手を地面について「参りました」と宣言。
肩透かしを食らった少女は構えを解くまでに一瞬の間があった。しかしすぐに気を取り直すと母に向かって手を差し伸べる。
「ケイさんにそのようなお姿は似合いません。どうか顔を上げて下さい」
ケイというのは母の名だ。どういう訳かこのほんの数日の間に少女と交流を図っていたようで、少女から母に向ける眼差しには親しみが込められていた。
まばらな拍手が起こる。女同士の友情に数名の兵士が感動していた。今のはそんなに良い場面だっただろうか。単に片方が土下座しただけだと思うのだが。
何にせよ、これでトキの心配事は一つ減る事となった。オメガを相手に戦って勝利するだけで良いのなら、分はトキにある。
トキが演武台に呼ばれると、相手はトキの体格の良さに圧倒されてしまい舞台に上がる事さえせずに辞退してしまった。
これで候補者は八人にまで絞られた。残りは明日へと持ち越しかと思いきや、トキと南部の少女が名を呼ばれて演武台に上がるよう促された。
「まだやんのかよ」
負けん気だけは人一倍強いが、少女は候補者たちの中でも小柄な方だ。少女の目の高さはトキの胸の位置にあり、体重は半分もあるかどうか怪しいほど。
「豹の邑のミ族が長子、ミスイ。あなたには絶対に負けないわ!」
名乗りを上げて、少女ミスイは濃紺の瞳で勝ち気にトキを見据える。
こんなにも目の敵にされる覚えはないが、初日に彼女が忠告した理由はトキも少しずつ実感し始めていた。
石板を敷き詰めた演武台の中央、自分よりも体格でずっと勝る大男を相手に威勢よく吠えるミスイを見る兵士の視線は誰一人彼女への敬意を感じない。馬鹿にしているか、或いは関心が無いか、そうでなければいやらしい目線をくれて鼻の下を伸ばす愚か者か。いずれにせよまともに試合を観戦する気のある者は一人と見当たらない。
これは何もミスイに限った話ではなかった。オメガ同士が恐れおののきながら柔弱な拳を交える様に誰も価値を見出していないのだ。それが世間のオメガに対する評価。弱いオメガはアルファやベータに傅き恭順せねばならない、というのが共通の認識なのだ。
トキは迷った。ここでミスイの身を案じて勝負を辞すればミスイに怪我を負わせずに済む。舞台に上がるまではそれが最善だと思っていたが、いざミスイと対峙してみると、トキに引き下がられて「大男に気の毒に思われた」と恥を搔くのはミスイの方になると肌で感じた。
ミスイが辞退する事は絶対に無いという確信がある。彼女は候補者たちの中でも珍しく候補戦に意気込んでおり、そのやる気だけはトキに引けを取らない。この勝負は取っ組み合いの末にどちらかが「参った」と言うまで終わらないだろう。
アルファとオメガ。それぞれ生まれつき得意な事が違うというだけの話だ。だというのに何故、アルファの土俵でオメガが戦わされなければならないのか。どちらにとっても理不尽な試合は意味が無いと感じた。
棄権しよう。トキがそう決心した時だった。
「もう良い。二人とも義の士である事はこの場に居るだれもが認めよう。かたや倍はあろうかという大男を相手に勇ましく、かたやその勇士に応えるべく懊悩した。明日の『礼』の試験を受けるのに十分に値する。だがそれでは納得のいかぬ者もおるだろう。故、俺が相手となる」
誰もが呆気に取られる中、唯一動いていたのは仮面の男もとい赤髪の青年で、今しがた仰々しい口調でトキとミスイを認めるよう衆人に向けて弁を振るったのもまた赤髪の青年だった。そして、仮面をつけたままの青年は周囲からの視線を一身に浴びながら演武台の中央、トキとミスイと三つ巴になる形で並び、「来い」と言って構えを取った。
急展開に思考が追いつかない。誰と誰が戦うって?
「何だ、来ないのか? 俺に負けたからと言ってお主ら二人の合否が変わる事はない。安心せよ」
「……胸を、お借りします」
初めてあのミスイが気圧されているところを見た。武の心得がある者にしか分からぬ何かがあるのかミスイは全身を緊張させて青年と対峙する。
「そなたも構えるくらいの事はしろ」
不意に力を抜いた気安い雰囲気の声が飛んできて、仮面の下で赤髪の青年が笑っている顔が浮かぶ。実際に笑っていたかどうかは分からない。これはトキの単なる願望だ。
構えと言われても幼少から握って来たのは木を伐り倒すための斧だけで、拳は妹たちをいじめる近所の悪ガキたちを懲らしめるためだけに握った。獬には狩りを生業にしている者も居るがトキは弓のゆの字も知らなければ、武における作法というものも分からない。ひとまず見様見真似で青年と同じ姿勢を取ってみると、仮面の顔が「良し」というように首肯した。
「はあっ!!」
ミスイが気炎を揚げて青年に飛びかかる。青年はトキに向かって腕を突き出し手首から先をクイッと曲げてみせる。かかってこいと煽っているようだ。
(ええい、なるようになれ!!)
勝手が分からないなりに右手で拳を作って青年の横から殴りにかかる。トキとミスイ、二人が同時に青年へ襲いかかったが、トキの拳が青年に触れるその刹那ぐるんと視界が反転し、何が起きたのかを理解する間もなく地面に背中から叩きつけられていた。
「い゛っ!?」
「っ……!」
見ればミスイも声にならない悲鳴を上げて地面で丸まっている。何と青年は二人を相手に取って同時にその場に転ばせてあっという間に倒してしまったらしい。あまりに呆気ない終わりに、ここまでの自分の葛藤は何だったのかという気になる。悔しいと思う暇さえなかった。
「ふむ。なかなかの拳であった。素人なりによくやったぞ獬の青年」
仮面の青年はトキが殴りかかった右腕を押さえ、まるで武の師匠に弟子が一発叩きこんだかのように褒め称えた。背中の痛みに耐えつつトキはどうにか膝をついて体を起こす。青年の右腕には震えが来ており、左手で強く握りしめても胸の前でカタカタと小さく振動していた。
俺の拳、当たってないよな……?
自分の右腕には何の感触も残っていない。痛いのは地面で打った背中だけだ。自分の体が空中で回転して落ちるまでの間、何が起きていたのか一切分からなかったトキにははっきりと自分の攻撃が当たったとも外したとも言い難く、ただ茫然と赤と黒の派手な仮面を見るしかない。仮面の奥に見える瞳と目が合うと、す、とさり気なく逸らされてしまう。
「なあ――」
「次の者、演武台へ」
官僚が告げるのに合わせて仮面の男が身を翻すと、彼に何を言いたかったのか分からなくなってしまった。
トキから目を逸らして去ろうとする彼に何かを言ってやらなくてはならない衝動に駆られたが、王宮の官僚に兵士が揃った公衆の前で身分も立場も分からぬ――少なくともトキよりは格上の――相手に迂闊な発言は控えるべきだという理性が働いた。ここでのトキの行動は全て『オメガの行動』とみなされる。トキが自分のバースを偽ってここに居る事の代償であり、トキの行動でオメガの評価が下がるような事にはしたくなかった。
ミスイの小さく呻くような声が聞こえて我に返る。自分のせいではないとはいえ、少女にいつまでも這いつくばらせている絵面はあまり良いとは言えない。トキがミスイの傍に寄って手を差し出すと、ミスイは一瞬ひどく傷ついたような顔をした後トキの手を掴んで立ち上がった。
「……あなた、あの方が全く恐ろしくなかったのね」
「え? 今何か言ったか?」
「……。いいえ、何も」
「そうか……?」
それ以上食い下がれるような空気でもなく大人しく演武台を降りる。
その後も『義』の試験は続き、最終的に四人にまで候補者が絞られた。最後の一人は棄権などの都合で枠が余ってしまったため、これまでの成績を鑑みてシカが目星をつけていた金髪の気弱な子が選ばれていた。
最初は三十人以上がいた候補者たちは初日に十五人まで減らされて、二日目である今日は四人にまで減った。そして明日の朝には更に半分以下にまで減る可能性を思うとその容赦の無さに言葉も出ない。最後は一人にまで絞られるという事がいよいよ現実味を帯びてきてぐっと緊張が高まる。
「それじゃあ母さん帰るわね」
「気を付けろよ。向こうはもう雪すごいだろうし」
「何年木の大邑に住んでると思ってるのよ。それよりもあなたの方が心配だわ」
「俺は男だし平気。それより、父さんとも仲直りしろよな」
「別に喧嘩はしてないのよー?」
『義』の試験で落とされた者たちも今夜一晩までは宿泊して構わないという事になっていたようだが、せっかちな母はもう王宮の外に宿を取ったという。都には母方の親戚が住んでおり、今回の候補戦の間で随分世話になったそうだ。そもそも母がこの候補戦に参加するきっかけは母の実家がある『狼』の邑の人間から候補戦の話を聞いたからだった。獬と狼は共同で綿花の畑を世話しているので交流がある。思いついたら即実行の母は狼の邑長に話をつけて、嫁入りする時に身に付けた晴れ着を持って都に上ってきた。上手くいけば獬と狼で少しずつ返礼品を分け合う算段だったようだ。
「先に帰ってあなたの吉報を待ってるわね」
「おう、待ってろよ。絶対俺が選ばれてやるから」
「やだもう! 男前に育ったんだから!」
バシバシと全力でトキの背中を叩いて母は宿舎を後にした。ひりひりする背中を擦りながら宿舎に入り自分の部屋に戻ろうとすると、階段を上がってすぐの廊下に南部の少女ミスイが関所の門番のように立っていた。
視線が合うと、ミスイはトキの方へと歩いてくる。
「単刀直入に聞くわ。あなた、バースを偽ってないわよね?」
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