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尻臀②

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「っざけんなよ!!」

 姉に正論を説かれてむしゃくしゃしていた気分が一瞬でくだらなく思えてくる程威勢の良い怒鳴り声だった。
 警官が汚い言葉を撒き散らしながら、路地に出ていたペールという筒型の大きなゴミ箱を警棒で思い切りぶっ叩く。蓋が飛んで中のゴミが漫画みたいに宙を舞い、ばっちり目撃していた京介の目の前で警官はゴミに目もくれず去っていく。
 警察は〈魔獣〉関連の仕事を丸っと全部魔法士に取られたので基本的に魔獣と魔法士のどちらも嫌う傾向にある。現場では協力が求められるので、京介が電車から見かけた犬の魔獣の事後処理にでも回されて荒れていたのだろう。
 どこからともなく現れた黒猫が、居酒屋で出たらしいゴミの中に頭を突っ込み鶏の骨らしき物を咥えて尻から出てきた。京介と目が合った黒猫の瞳は金色で、ぼんやりとウジと逆だなぁと思う。ウジは金髪黒目だ、ピンクも混じってるけど。
 黒猫は素早く逃げていき、後には散らかったゴミと蓋が飛んで横倒しになった青いペールと京介だけが取り残される。

「片付けろってかぁ?」

 んなもんやってられっかと居酒屋の店員にゴミが散らかってる事だけ教えて駅に向かった。居酒屋の入り口に防犯カメラがあったので、さっきの警官は何かしらお咎めを食らう事だろう。
「冬かぁ」とひとりごちてから、スーツを着たお勤め人たちを見て「無理だわぁ」と感じる。今更普通に働く気にはどうしてもなれない。
 煙草屋最寄りの駅に着く頃には午後三時を過ぎていた。駅中の少しお高い惣菜屋で弁当を適当に二人分見繕って三円払って袋を貰う。どうせ居るんだろうという気持ちで、昨日担いだ時に感じたウジの体重の軽さと風呂で見た薄っぺらさを思い出していた。

「――は?」

 煙草屋の正面を回り込んで、隣の五階建てのビルの間にある喫煙所に着くと、京介は買ってきた弁当を落っことした。
 あ~ん、と聞こえていく間抜けな声に体のどこかの血管が切れる音がした。

「何してんだよ」
「あへ?」

 横腹からはみ出した段々腹が見苦しい寸詰まりデブには見覚えがある。京介の記憶で三回ほど見たという事は常連か。男は仲良さそうにウジと両手を繋いで一物を咥えさせて気色悪い顔を晒していた。
 京介の声で振り返ったそいつの頭に拳を振り下ろす。

「燃えとけ」

 京介はスマホアプリ無しで使う魔法の方がよっぽど得意だ。アプリを使うのは加減を調節するためで、今の京介に手加減しなくてはという冷静さは皆無だった。

「あ、あづぅっ!?」

 まるで京介の手を介して夏の暑さがひとところに集められたかのように、男の頭頂部に激しい熱が渦を巻く。

「あ、熱い、あぢぢぢっ!!」

 ただでさえ薄かったバーコードがチリチリ燃えて悪臭をさせながら頭頂部をあっという間に涼しくさせていく。

「な、な、何するんだよ!?」

 すっかりつるつるになってから漸く熱から解放されて男は目を剥いた。

「消えろ、変態。でなきゃ通報する。未成年に金払ってその汚ぇちんこ咥えさせてたってなぁ」
「ひっ、ちがっ、未成年!? 未成年なの君!!」
「……違う」

 それまでボケっとしていたウジが男に年齢を問い詰められて初めて声を出す。
 まだ何事かを喚いていた男の尻を革靴で蹴り上げて去らせると、京介はウジの手首を掴まえ店の中に入る。

「お前、何してんの? 帰れって言ったよな俺」
「……」

 無表情のままどこか怯えたような顔つきだったウジが途端にむっつりとなって目を逸らす。

「何で大人の言う事聞かねぇんだよ」
「俺だって大人だもん」
「真っ当な大人ならあんな所でくせぇちんこ咥えて金せびったりしねぇんだよ」

 自分で自分の言葉が刺さる。あいたたた、と悪魔の京介が演技をして嘲笑っている。「真っ当な大人?」と。

「そんなに男がいいか? 抱かれてぇの?」

 頑なにこちらを見ようとしないのにムカついて、玄関ドアにウジの身体を押し付けて髪を掴んで無理矢理視線を合わせる。くっ、と苦痛に柳眉が歪む光景に、京介の腹で怒りと欲の混じり合った何かおぞましいものが蠢いた。
 ウジは答えない。痛い、と悲鳴も上げない。
 腹が立つ。

「ウジ」

 無視。そうされたら、京介はもうそのおぞましいものに身を任せるしかなくなるではないか。
 軽くて薄くて頼りない体を容易く回転させてドアに両手をつかせると左手で纏めて掴んでドアに縫い止める。

「京介!」

 ようやく焦りを覚えたらしいウジが聞いた事のないような声で京介の名前を叫んだ。
 緑の高校ジャージを下着といっしょくたに引き下ろし、尻の割れ目に京介のふにゃりとした一物を乗せる。

「っ、」
「お望み通りのものくれてやるよ」

 京介は自分のものをウジの尻の上に乗せたまま、手を前に回してウジのへたれたそれを握り込む。

「や……」
「お前尻でマスかいてんだったな。何人その尻に咥えてきた? 子供のくせに、このビッチがよ!」
「ぁ、あっ」

 ウジのペニスはあっと言う間に腫れて熱くなり、京介の手によって昇り詰めていく。浴室で聞いた時よりも更に控えめな、我慢しているようなウジの声に頭が痛いくらい興奮して、ウジの尻に乗せていたそれは重く硬く肥え太っていく。
 ウジはすぐに果てた。早漏だ。ぼたぼた垂れる精液を尻臀しりたぶに塗りつけて、京介の赤黒く勃起したペニスを挟み込む。

「あ、やぁっ」

 瞬間、ウジは腰を前に出して尻を遠ざけようとした。まるで初心のようなフリをした反応に募るのは罪悪感ではなく怒り。

「今更逃げんなよ。俺の事さんざ襲ったのはお前だろ」

 右手でウジの腰を掴み引き寄せて、柔らかい尻肉に挟んで素股の要領で腰を前後に揺らし始める。
 片手で尻臀を割って孔を晒すとウジの腰が震えた。入口の襞に最大になった雁首を引っかけ擦ると律儀にウジの腰が揺れる。「淫乱」と呟くと、ウジはそれを否定するように頭を振った。
 京介自身の先走りも助けてぬちぬちと淫靡な音が狭い玄関に反響する。そのうち腹立ちも薄れていき、ただ目の前の快楽を追うのに夢中になっていく。つるんと滑った亀頭が思わず孔を突いた。きゅっと窄まったそこは京介のペニスを拒絶する。
 ウジの腰から手を離し、自身を掴み直して孔にあてがう。入れてやれ。この淫乱なら、きっと飛ぶくらい気持ちよくしてくれる――。

「京介ぇ……っ」

 はっと我に返る。涙の気配。ずり落ちた高校ジャージが蟠った京介の買ってやった五百円のスリッパに、ポタポタッと涙の粒が落ちていった。

「くそがよ……!」

 自分が襲われる立場になったら泣いて難を逃れようとする。ずるい。ずるいと思うのに、ウジの涙で上擦り鼻水で呼吸が詰まった声を聞かされたら挿入する気持ちに歯止めが掛かる。それでも腰は欲の出口を求めてゆるゆると尻の割れ目に擦りつけている。
 さっさと出して終わろう。

「ウジ、手で尻使って俺の挟め。パイズリの要領つったら分かるか? ……心配すんな、入れねぇから」

 ウジは案外素直に両手を自分の尻に回した。泣いているくせに性感を覚えて硬さを取り戻していたウジのペニスを扱き、京介は尻臀の熱くて柔らかい脂肪に挟まれながら射精した。
 京介が果てた直後にウジも薄い精液を吐き出した。しばらくの間、玄関に二人分の荒い息遣いだけが響いていた。
 京介が体を離す。ウジがゆっくりと体を回す。俯いていた顔が上がると、涙の筋が頬に出来ていた。無表情の中に、小さく表れた恐怖のサイン。黒目に怯えを見つけて京介は自分のした事の下衆さを悟る。
 何も言葉が出てこない。悪かった? 謝れば済む? そんな訳ない。このまま警察に自首でもするか? ストレスを乗せた警棒でゴミ箱を打ち据えるような奴らに自首?
 様々な思いが駆け巡って動けないでいると、ウジが力を抜くようにして京介に凭れかかってくる。

「おい……ウジ?」

 ウジの細い手が京介の胸元を掴んでぎゅっと握る。

「待ってた」
「は?」
「京介を待ってた。俺、客取ってない。あいつが勝手に来たんだよ」

 ガツッと横から頬をぶっ叩かれた気分だった。
 混乱し、よく分からないまま自分の胸元を掴むウジの手を上から握りしめる。今更ウジの手が冷えている事に気付く。
 ウジは京介の手の中でもがき、手首を返して指を絡ませた。小太りの男と同じように手を握っていたのを思い出す。

「お前、手、繋いでたろ」
「俺が断ったから、押さえつけられてたの」
「は……」

 じゃあ、何か。俺はあの男と同じ事をウジに強いたという事か。
 目の前がくらりとして立っていられなくなって、尻丸出しのまま上がり框に座り込んだ。床板が冷たい。

「ごめん」

 尻もちをついた京介を見下ろしていたウジはすぐに自分も下半身丸出しのまましゃがみ込んで、京介の足の間に膝を突きながらまた胸に顔を押し付けてくる。

「怖かったよな」
「うん」
「警察に突き出してくれ」
「しない」
「……悪かった」
「いいよ」

 京介なら、いいよ――。
 ウジの頭を撫でる。手触りの悪いダメージ毛が今は寧ろちょうど良い。
 ウジが顔を押し付けている鳩尾の辺りが熱くなって、濡れた感覚とシャツが肌にひっつく感覚があった。

「京介」
「ん?」
「好きだよ」
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