上 下
945 / 970

思い込んでしまっていた

しおりを挟む
「…………ッ!!!!!!!」

「「「「っ!?」」」」

め、珍しいな。セルシアが拳を壁に叩きつけるなんて。

シュラじゃないから、あんまり大きな音は鳴らなかったけど……セルシアだからか、それはそれで逆に怖いと感じるな。

「…………すぅーーーーー……はぁーーーーーー…………ごめん。逃がし、た」

「いや、あれは仕方ないよ。俺らも、もっとあのコボルトが逃げるかもしれないっていう可能性を頭に入れておくべきだった」

これまで地下遺跡内で遭遇したモンスターたちは、最初は群れで遭遇していて、最終的に俺たちの中の一人と戦う状況になっても、逃げようとしなかった。

ダンジョンの中で生まれたモンスターが基本的に逃げようとしなかったのもあって、地下遺跡内に生息するモンスターも逃げないと思い込んでしまっていた。

「ラガス坊ちゃまの言う通りです。まさかセルシア様との戦いから逃げ、最後は自ら転移トラップを踏んでどこかに飛んでしまうとは」

「……あれって、完全にあそこに転移トラップがあるって解ってた動きだよな」

「そうね。迷いなくあの床を踏んだ……いえ、あの床で止まった。知っていなければ、解っていなければ出来ない選択肢…………ラガス坊ちゃま。アサルカコボルトを視た時、何か特殊なアビリティを有していましたか?」

特別なアビリティ、か…………まてよ、そういえばあいつ……鑑定のアビリティを、持っていたか?

「……絶対、とは言えない。でも、もしかしたら鑑定のアビリティを持っていたかもしれねぇ」

「っ!!! そっ……それは…………そう、でしたか」

基本的に名前を確認するつもりだったから、会得してるアビリティまで細かく確認してなかった……クソっ!

「悪い。もっとあいつが持ってるアビリティを確認しておくべきでした」

「いえ、ラガス坊ちゃまは悪くありません。結果として、全員あのアサルカコボルトが劣勢になったとしても、逃げることはないだろうと思っていたのですから」

「……そうか」

それは、そうかもしれない。

ただ、鑑定のアビリティを持ってるモンスターっていうのは、意外と数が少ないんだ。
だから、狼竜眼で確認した段階で、もっと警戒しておくべきだった。

「それでも、悪かったな、セルシア」

「うぅん。ラガス、は……悪くない、よ。倒せなかった……貫け、なかった……私が、悪い」

…………ここで、上か下かどちらか解らないけど、不用意に探しに行こうとしない辺り、セルシアもセルシアで成長してるんだな。

「とりあえず、あぁいう個体もいるってのを頭に入れとかないとな」

「そうですね。しかし、建物からダンジョンに変化している場所に生息しているからか、それともダンジョンにはあぁいった個体が時折現れるのか……」

「気になるところではあるな」

前者の可能性が高い気がするけど……って、それはそれで気になるんだけど、それよりも一個問題が残ってしまったな。

あのアサルカコボルト、勘だけどセルシアと戦った時よりも強くなるだろうな。
それに、あの性格だ……ただ強くなるだけじゃなくて、嫌な方向に強くなりそうだ。

…………マジで、セルシアが悪いんじゃない。
なんなら、後方であからさまにセルシアを相手に所々でバカにする様な笑みを浮かべてたアサルカコボルトを見てた俺らが気付かなきゃいけなかった。

あぁいうのは偶にいるけど、あそこまで露骨で……対応するのも上手い個体は、初めて見た。

「……しゃあないよな」

「? 大丈夫っすか、ラガスさん」

「あぁ、大丈夫だよ」

モンスターを逃がしてしまうってのは、そこまで珍しい話じゃない。
珍しい話ではないんだけど…………だからといって、伝えない訳にはいかないよな~~~~。

とりあえず、戻ったら伝えておくか。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる

朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。 彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。

悪役令嬢は蚊帳の外です。

豆狸
ファンタジー
「グローリア。ここにいるシャンデは隣国ツヴァイリングの王女だ。隣国国王の愛妾殿の娘として生まれたが、王妃によって攫われ我がシュティーア王国の貧民街に捨てられた。侯爵令嬢でなくなった貴様には、これまでのシャンデに対する暴言への不敬罪が……」 「いえ、違います」

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...