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何を思い、殺したのか

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「…………」

「ラガス坊ちゃまが一番に目覚めてるなんて、珍しい事もあるものですね」

なんとなく目が覚めてしまって、二度寝する気が起きず焚き木を眺めてると、おそらく毎日一番に起きてるであろうメリルが後ろから声を掛けてきた。

「……確かに、珍しいかもな」

「えぇ、本当に珍しいですよ……何か、悩み事でもあるのですか?」

「悩み……ん~~~~。別に、悩みではないかな」

「そうですか」

相変わらず俺が焚き木を眺めていると、何も言わずに紅茶を淹れ始めた。

「どうぞ」

「ありがと」

……うん、美味い。
それに……こう、心に風がスーっと入ってくるというか、吹き抜けるというか……悪くない感覚。

「落ち着きましたか?」

「元々落ち着いてはいるよ。ただ、楽な感じになったかな」

「それは良かったです……考えていることは、先日戦ったイレックスコボルトに関してですか?」

「……ふふ、バレてたか」

「私はラガス坊ちゃまの専属メイドですからね」

そんな誇らしげな表情で言われると、あっさり見抜かれたことに対してイラつくどころか、寧ろ嬉しく感じる。

「流石だな。別にどうでも良いことではあるんだけど、あのイレックスコボルトは……結局、下剋上されてたんじゃなくて、別の理由で同族たちを殺したんじゃないかって思って」

「下剋上以外の理由、ですか…………そういえば、戦闘が始まる前、巨大リザードとの戦闘を終えたイレックスコボルトには悲しみや怒りといった表情が感じられませんでしたね」

「そうだ、それが気になってたんだよ」

メリルと同じ事を考えてた。

コボルトやその上位種たちの死体を俺たちが発見した時……おそらく、イレックスコボルトが殺してから、あまり時間が経っていなかった。

斥候専門じゃないから、死体の状態から何時間前に殺されたとか正確な時間は解らないけど、多分……三時間も経ってないんじゃないかな。

「モンスターにも多少なりとも悲しいという感情はあるだろ」

「ないとは言えませんね。イレックスコボルトとしては、同族たちを大切に扱っていたかもしれませんが、他のコボルトたちは、大切に扱われていると思っていなかった。寧ろ雑に扱われていたと感じる、なんてこともあるでしょう」

「いやなすれ違いだな。怒りに関しては、単純に下剋上なんてされれば、なんなんだあいつらはって怒りが爆発してもおかしくない。でも、遭遇した時のイレックスコボルトの顔からは……そのどちらも感じなかった」

俺たちはカウンセラーじゃない。
つか、モンスターは人間よりも表情だけで感情を判断するのが難しい。

だから結局のところ、あの時イレックスコボルトがどういった感情を持っていたのか、正確なところは解らない。

でも、メリルも同じように感じたってことは、多分合ってるだろう。

「……偶々、同族たちが付いてきた。結果としてレックスの名を持つ王になりはしたけど、元々王になることに、同族を束ねることに興味がなかったからこそ、何も思わず鬱陶しいと感じ始めた同族を殺した……といった可能性はどうでしょうか」

「それは…………いや、興味がないからこそ、たとえ同族であっても、何も思わず殺せる、か」

興味がないからこそ、関係無いと思っている相手だからこそ……殺せるのか。

「殺せることに関してはなんとなく解ったけど、でも……食べるか?」

「イレックスコボルトはモンスター。モンスターに私たちの常識は通じないでしょう」

……それもその通りだな。

人間同士で殺し合いは起こっても、人間を食べる人間は…………とりあえず、常識ではないよな。
でも、自然界で生息してるモンスターなら、同族でも食料になる、か……それか、過去に同族を食べた経験があるからこそ、イレックスという名を持つ上位種に進化した?

「………………はぁ~~~。常識が通じないからこそ、考察し応えがあるな」

「ですね。では、そろそろ朝食の準備を始めます」

メリルが朝食の準備を始めてから十数分後、匂いはテントの中まで届いてない筈だが……シュラが、その数分後にセルシアが起きてきた。
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