万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai

文字の大きさ
上 下
914 / 982

誰が、何故

しおりを挟む

◇◆◇◆◇◆◇◆


 それは突然の知らせだった。


「なあ。俺、明後日村出るわ」
「は? 何言ってんの?」


 この異世界に転生してから、8年。
ずっと一緒に過ごして来た、まさとさんが村を出ると言った。
 たしかに、アルソン村の様な田舎では15歳になると成人扱いされる。
 実際、王国で定められた年齢は17歳だから、制限はつくけど。

 高校生だった僕は、死んだ。
 あの時は、周囲に居た人達も斬りつけられていたから、もしかしたら他にも犠牲者は出ていたのかもしれない。
 産まれて直ぐは理解出来なかったけど、目が見える様になってからは、異世界だと気付いた。
 ファンタジー映画に出てきそうな妖精が飛んでいたり、不思議と文字が読めたり。
 学校で流行ってた“異世界転生”って言うのは、こういう事なんだろうなと。

 ただ、運は僕に味方していた。
 隣に住む一家に、同じ転生者が居たんだ!
しかも日本人の。
 どれだけ救われたか。年齢にそぐわない行動や言動も、常識や文化の違いに戸惑う自分も。全部まさとさんは、僕より先に体験していて、僕が困らない様に助けてくれた。
 
 彼は直ぐに僕の憧れになった。
 だから、言葉が上手く発声出来ない時も、感謝や好意を伝えたくて、必至で声を出した。
 そうしているうちに、僕等は親よりも一緒の時間を過ごす様になったんだ。

 笑ったら右にだけ出来るエクボ。
困った様に眉毛を下げて笑う姿。
落ち着いたトーンで寄り添ってくれる声。
雪みたいに真っ白で、全然日焼けしない肌。
サラサラと絹糸の様に、頬に落ちてくる琥珀色の髪。
シャンパン色にキラキラ光る、おっとりした瞳。
手を繋ぐ度に、ほっそりした指が折れないかドキドキした。
 全部全部、魅力的で。気付けば、僕は彼の虜だった。
 人前では「ルーカス兄」と、兄の様に慕い。2人だけの時は「まさとさん」と、僕の甘ったるい気持ちを込めて、何度も呼んだ。

 両親や村長は、再三王都の学校へ行かないかと勧めてきたけど、断り続けた。
 だって村を出たら、まさとさんに会えない。
きっと彼はずっと村に居る。
 知識が豊富で、優秀な彼を人々の目から隠すのは大変だったけど、大丈夫。
 僕が目立ち続ければ良い。
誰も彼の凄さに気付かない。
 まさとさんがどんどん自信をなくしていく姿は、気の毒だったけど、同時に安心した。
ーー何も出来ない。
そう思わせれば、外になんか出て行かない。
この村には、僕より魅力的な奴なんか居ない。
 だから、まさとさんは絶対に僕を選ぶ。

 そうなるはずだった。
なのに、なのにーーーー


「何でっ! 何で急にっ」
「何でって、この前15になっただろ?
だから村を出て行くんだ」
「別にココで暮らせば良いじゃん!」
「えー、だって田舎だし。
それに去年だって、薪割りオヤジのとこの息子が旅に出たろ。
そんなもんだって」
「ムリ。絶対嫌だ。
だいたい、まさとさんがどうやってココ以外で暮らすの。
そんなに外が見たいなら、僕が連れてってあげる。だから待って」


 床に寝そべって、テキトーに返事をしながら本を読む姿に腹が立って、乱暴に本を取り上げた。
 ちゃんと僕を見ろ!


「おい、何すんだよ。ったく。
あのなぁ。お前を待ってたら、あと7年も辛坊しなくちゃならねーんだぞ?
待てるかよ」
「じゃあ2年!
僕が10歳になるまで待って」
「はあ? 10歳で親元を離れたら危ないだろ。おばさんが悲しむから、やめなさい」
「…んで、なんでっ!
まさとさんは、僕と離れて平気なの?
僕を捨てるの!?」


 ダメだ。こんな言い方しても、説得出来るわけないのに。
 もっと彼が苦手に思ってる事を指摘しなきゃ。じゃないと。


かける
「えっ」
「いいか。お前はムカつくぐらい良く出来たヤツだ。
俺がなるはずだった、転生チートも全部持ってきやがって。
……だから、ちょっとは周りも見た方がいい。お前はすごいんだから。
俺ばっかりに執着しないで。な?」
「チートなら僕と一緒にいた方が良いじゃん。お金だって稼ぐ。まさとさんに贅沢させるよ。何もしなくて良い。隣にいてくれたら、それでーーー」


 それで僕は幸せになれるのに。


「ごめんな。
明後日は盛大に見送ってもらう事になってんだ。お前もしっかり見送ってくれよ?」





 うそつき。嘘つき嘘つき嘘つき!!!




「おはよう、テオドール」
「ミル……」
「あの人、今日出て行くんですってね。
今あちこち挨拶に回ってたわ」
「そう」
「ひどいクマだわ。寝てないの?」
「……」

 
 あの日から、毎晩まさとさんと一緒に寝て、ずっと起きて見張ってた。
こっそり夜中に出て行くんじゃないかと思って。


「まあ、まだ時間もあるし、仮眠でもしたら? あとこれ、パパから。いつでも婿にきて良いからな、だって」


 渡されたのは、この辺では滅多に手に入らない焼き菓子の詰め合わせ。
 まさとさん、甘い物好きだから喜ぶだろうな。
 そうだ。一緒に食べよう。呼んで来なくちゃ。


「何処へ行くの?」
「別に関係ないだろ」
「ダメよ。挨拶回りを邪魔しちゃ。
それに大事な話もあるの。来月の農作物の割当よ」
「そんなの村長に言ってくれ」
「村長なら、もうすぐ此処へ来るわ」
「は?」
「テオドールの家で会議する事になってるの。私は内容が分からないから、パパの手紙を渡して返事をもらうだけだけど。
貴方は必要よ。精霊についての話らしいから、テオドールが居なきゃ話にならないでしょ?」
「……くそっ」


 断ったら、アルソン村は窮地に立たされる。そうなれば、まさとさんの両親が困ってしまう。


「じゃあ、よろしくね」


 早く、まさとさんに会わなきゃ。
 最悪、魔法を使ってでも阻止する。
彼が村に居ないなら、一切村の為に力を使わないと宣言しよう。
 そうすれば、村の大人だけでなく、村長自らも動くはずだ。



 やっと終わった。
出立時刻まで、あと1時間。
急がないとっ!


「おばさんっ! ルーカス兄はっ」
「あらいらっしゃい。
ごめんなさいねぇ。あの子ったら、急にお別れするのが寂しくなっちゃったみたいで。
2時間くらい前に出てったのよ」
「………ぇ」
「まったく、ご近所に謝りに行かなきゃいけないのは、私なのに。困った子よねぇ」





「うそつき」


しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...