上 下
913 / 965

異常

しおりを挟む
「……………っ、ここは……」

「起きましたか、ラガス坊ちゃま」

目を覚ますと、さっきまでイレックスコボルトと戦っていた場所とは違う場所に移動していた。

「あぁ……移動したんだな」

「はい。血の匂いなども考えれば、休息には不向きな場所ですので」

「それもそうだな……で、なんで移動する時に起こしてくれなかったんだ?」

目が覚めたら別の場所に移動してるってことは、誰かが俺を背負ったまま移動してくれたってことだよな。
別に起こしてくれたら自分で動くってのに。

「一度声は掛けましたよ」

「そうなのか?」

「はい。ですが、相当疲労が溜まっていたのか、起きませんでしたのでシュラが背負い、短剣が飾られていた部屋があったので、そこに入りました」

声は掛けてくれたのか……全然気づかなかったな。

「ラガスさん、起きたんなら飯食べるっすか?」

「そうだな……シュラ、背負ってくれてありがとな」

「いやいや、別に大したことしてないっすよ。イレックスコボルトが本気になった時、何も出来なかったんでそれぐらいはいくらでもやるっすよ」

「私も、シュラと同意見です。ですので、料理が出来上がるまで何もせずゆっくりしててください」

「分かった。そうさせてもらうよ」

二人のお言葉に甘えて、料理が出来上がるまでのんびり待つか。

「……ごめん、ね。ラガス」

「ん? 何がだ、セルシア」

「私が、あの時、しっかり……あいつの、心臓を、貫けて、たら……」

「仕方ないって。俺も、あの一撃で終わると思ってたんだ。あのイレックスコボルトってやつが異常だったんだよ」

慰める為に適当に言った訳ではない。
斬撃刃ならともかく、刺突であれば間違いなく反応する前に貫けると思ってた。

というか、あのコボルトは本当に色々とおかしかった。

「心臓じゃなくても、間違いなくセルシアの雷閃で体を貫かれてた。その後、シュラの鬼火を纏った大切断で両腕も上手く使えない状態になってた筈だ。後、メリルが傷口から毒をぶち込んだっていうのに、訳解らない方法で復活したからな」

「おそらくですが、私の毒は体内の……熱? で浄化されてしまいましたね」

「結局、セルシアが与えた傷も、俺が両腕に与えた傷も治ってたっすよね? あのコボルト、再生のアビリティでも持ってたんすかね」

再生、再生か……おそらく、再生だと傷は治せても、毒はなんとか出来ないんじゃなかったか?

毒で腕が落ちたとかなら、腐食した部分から再生するってことが出来ると思うが……まぁ、そこは今考えても仕方ないか。

「解らない。もしかしたら、自身の生命力を回復力に変換してたのかもしれない」

「自身の生命力を…………そういえば、アルガ王国の学園と国際試合? っていうのをやった時、試合でそういう事が出来る学生と戦ったっすね」

そういえば、そんな学生がいたようないなかったような……そういった戦闘に関する事なら、人間に出来てモンスターに出来ないことはない、か……いや、逆に常に野性の中で生きているからこそ、そういう事はモンスターの方が出来る個体が多そうだな。

「いきなり身体能力が上がったのも、そういう理由か…………そういえば、俺がイレックスコボルトを倒した時、あいつの体には殆ど切傷がなかったように見えたんだが」

「見間違いではありませんよ。なので、おそらく生命力を回復、身体強化に使用したとみて間違いないかと」

「そうか……咄嗟に出来るようになったのか、それとも元から出来たのかは知らないが……本当に、恐ろしいモンスターだったな」

仮に元から出来ていたなら……もしかしたら、ルーフェイスと戦う時の為に使わないで残しておいたかもしれないな。

あれだけの戦闘力があるなら…………ルーフェイスといえど、緊張感の抜けない戦いになった筈だ。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...