837 / 986
前と、同じ?
しおりを挟む(別荘の留守番なんて、そう何日も出来るものではないな。ハリソン様の従者の腰が治ってくれて良かった)
宰相まで上り詰めたハリソンの古くからの部下であるセドリックは独り言ちた。
ハリソンに頭が上がらないのは昔からだが、ノーマンに何の罪も無いことを知っているだけにセドリックの気は滅入っていた。
休みを貰ったが、雨の日に家の中にいても暗く、余計にどんよりしてきたので、セドリックはゆるゆると当てのない散歩に出掛けた。
ふらりと入った公園は、屋根付きのベンチやパラソル付きのテーブルセットなどが所々に置いてあって、こんな雨の日でも照りつける暑い日でも過ごしやすいようになっていた。
小振りなテーブルセットに腰を下ろしたセドリックは、斜め向かいに若くて可愛らしい女の子が3人いることに気付いた。
若くして平民落ちした元子爵令息のセドリックは青春時代の全てを労働と隣国との諍いに費やしてなんとか騎士爵を掴んだが、40も半ばになろうかという今まで恋人に恵まれたことは無かった。
恋とも言えない程の慕情を感じた娘はいたが、セドリックにはどうすることも出来なかった。
後に再び彼女と出会えたが、隠居した貴族の後妻になっていた。
ジャクリーンは隣国との境近くの村の食事処の娘だった。
彼女の両親はジャクリーンを表に出したがらなかったが、長引く諍いで駐屯する兵士は増員していて、どうしても手が足りずジャクリーンも店を手伝っていた。
たちの悪い連中の話はセドリックも耳にしていた。
だが、ある夜、セドリックを見張りに立ててジャクリーンを襲ったのは上司だったハリソンだった。
何もかも終わってから全てを知って崩れ落ちるセドリックに、ハリソンは「お前も共犯だからな」と言った。
平民落ちしたセドリックを拾ってくれたハリソンには逆らえず、セドリックはそのままずっとハリソンの犬だった。
そしてその隣国との諍いで武功を上げたセドリックとハリソンは爵位を賜った。
セドリックは結局騎士爵止まりだったが、ハリソンは元の男爵から子爵になり、侯爵家に婿入りして宰相にまでなった。
その原動力が復讐であることをセドリックは知っていた。
求心力を失いつつあった前国王と、当時は王太子だったレモネルは、起死回生の手段として“辺境伯の子供たち”を使った。
横領や領地での圧政、不当な増税、密輸、それらに阿る者、見逃す者、全てが摘発された。
セドリックの子爵家は密輸グループに追随していたことで取り潰しとなり、王都追放で一家は離散して13だったセドリックは理不尽な思いを堪えながら、住み込みで港の荷運び労働をしていた。
ハリソンの公爵家は男爵落ちで留まれていたが、ハリソン自身が学園での王太子の婚約破棄騒動に巻き込まれていた。
婚約者のオランディーヌ嬢がいるレモネル王太子との親密な関係を装って高位の令息たちを翻弄した男爵令嬢サティに、ハリソンは惹かれていた。
オランディーヌ嬢を誹り、レモネル王太子の失脚を画策したハリソンは、王都追放を命じられたのだ。
なんとしてでも返り咲くことを決意したハリソンは、同じ恨みを持つ仲間を増やしていった。
港で出会ったセドリックとハリソンは兵士に志願して武功を立て、王都に舞い戻ることを誓い合ったのだった。
(ハリソン様に恩義は感じているが、ジャクリーンのことを思うと……ん?あの子が着けているペンダントは…ジャクリーンに娘がいると聞いて居ても立ってもいられずに贈ってしまった物と似て…いや、メイベルに贈ったのと同じ物だ。あの子のブレスレットも、あの子の髪飾りも…!こんな偶然があるか?まさか…)
“辺境伯の子供たち”を撲滅したいハリソンは、マイラー・ネルソンの屋敷が“表”の施設であることを突き止めて、行商人を装ったセドリックに偵察に行かせた。
その先でセドリックは期せずしてジャクリーンと出会い、拾い聞きした会話からメイベルという娘がいることを知ったのだった。
視力がとても良いセドリックは、3人組の女の子たちが身に着けているアクセサリーに見覚えがあった。
見知らぬ娘にジャクリーンを重ねて選び抜いたのだから見違えることはなかった。
(待ち合わせか?あの男の子たちか。1人は保護者か?どういうグループなんだ?)
セドリックは6人の後を追って、馴染みの無いカフェに入った。
近付こうとしたが入り口近くの1人用の席に通されたセドリックは、よく分からないメニューを適当に選んで食べた。
6人は盛り上がっていてデザートまで頼んでいるようだったので、間が持たなくなったセドリックは店を出て6人を待って、後を尾行した。
(バラバラのペースで歩いているが、どうやら同じ所に向かっているみたいだな。え?…この先は確かドルトレッド伯爵の…もしかしてあの男の子たちのどちらかがフレッドなのか?…だとしたらあの金髪の小柄なほうだな)
ゆっくり歩いていた最後の女の子が屋敷に入るまで見送ったセドリックは、5人しか屋敷に入っていないことに気付かないまま、踵を返した。
逆に自分が尾行されていることにも気付かずに。
宰相まで上り詰めたハリソンの古くからの部下であるセドリックは独り言ちた。
ハリソンに頭が上がらないのは昔からだが、ノーマンに何の罪も無いことを知っているだけにセドリックの気は滅入っていた。
休みを貰ったが、雨の日に家の中にいても暗く、余計にどんよりしてきたので、セドリックはゆるゆると当てのない散歩に出掛けた。
ふらりと入った公園は、屋根付きのベンチやパラソル付きのテーブルセットなどが所々に置いてあって、こんな雨の日でも照りつける暑い日でも過ごしやすいようになっていた。
小振りなテーブルセットに腰を下ろしたセドリックは、斜め向かいに若くて可愛らしい女の子が3人いることに気付いた。
若くして平民落ちした元子爵令息のセドリックは青春時代の全てを労働と隣国との諍いに費やしてなんとか騎士爵を掴んだが、40も半ばになろうかという今まで恋人に恵まれたことは無かった。
恋とも言えない程の慕情を感じた娘はいたが、セドリックにはどうすることも出来なかった。
後に再び彼女と出会えたが、隠居した貴族の後妻になっていた。
ジャクリーンは隣国との境近くの村の食事処の娘だった。
彼女の両親はジャクリーンを表に出したがらなかったが、長引く諍いで駐屯する兵士は増員していて、どうしても手が足りずジャクリーンも店を手伝っていた。
たちの悪い連中の話はセドリックも耳にしていた。
だが、ある夜、セドリックを見張りに立ててジャクリーンを襲ったのは上司だったハリソンだった。
何もかも終わってから全てを知って崩れ落ちるセドリックに、ハリソンは「お前も共犯だからな」と言った。
平民落ちしたセドリックを拾ってくれたハリソンには逆らえず、セドリックはそのままずっとハリソンの犬だった。
そしてその隣国との諍いで武功を上げたセドリックとハリソンは爵位を賜った。
セドリックは結局騎士爵止まりだったが、ハリソンは元の男爵から子爵になり、侯爵家に婿入りして宰相にまでなった。
その原動力が復讐であることをセドリックは知っていた。
求心力を失いつつあった前国王と、当時は王太子だったレモネルは、起死回生の手段として“辺境伯の子供たち”を使った。
横領や領地での圧政、不当な増税、密輸、それらに阿る者、見逃す者、全てが摘発された。
セドリックの子爵家は密輸グループに追随していたことで取り潰しとなり、王都追放で一家は離散して13だったセドリックは理不尽な思いを堪えながら、住み込みで港の荷運び労働をしていた。
ハリソンの公爵家は男爵落ちで留まれていたが、ハリソン自身が学園での王太子の婚約破棄騒動に巻き込まれていた。
婚約者のオランディーヌ嬢がいるレモネル王太子との親密な関係を装って高位の令息たちを翻弄した男爵令嬢サティに、ハリソンは惹かれていた。
オランディーヌ嬢を誹り、レモネル王太子の失脚を画策したハリソンは、王都追放を命じられたのだ。
なんとしてでも返り咲くことを決意したハリソンは、同じ恨みを持つ仲間を増やしていった。
港で出会ったセドリックとハリソンは兵士に志願して武功を立て、王都に舞い戻ることを誓い合ったのだった。
(ハリソン様に恩義は感じているが、ジャクリーンのことを思うと……ん?あの子が着けているペンダントは…ジャクリーンに娘がいると聞いて居ても立ってもいられずに贈ってしまった物と似て…いや、メイベルに贈ったのと同じ物だ。あの子のブレスレットも、あの子の髪飾りも…!こんな偶然があるか?まさか…)
“辺境伯の子供たち”を撲滅したいハリソンは、マイラー・ネルソンの屋敷が“表”の施設であることを突き止めて、行商人を装ったセドリックに偵察に行かせた。
その先でセドリックは期せずしてジャクリーンと出会い、拾い聞きした会話からメイベルという娘がいることを知ったのだった。
視力がとても良いセドリックは、3人組の女の子たちが身に着けているアクセサリーに見覚えがあった。
見知らぬ娘にジャクリーンを重ねて選び抜いたのだから見違えることはなかった。
(待ち合わせか?あの男の子たちか。1人は保護者か?どういうグループなんだ?)
セドリックは6人の後を追って、馴染みの無いカフェに入った。
近付こうとしたが入り口近くの1人用の席に通されたセドリックは、よく分からないメニューを適当に選んで食べた。
6人は盛り上がっていてデザートまで頼んでいるようだったので、間が持たなくなったセドリックは店を出て6人を待って、後を尾行した。
(バラバラのペースで歩いているが、どうやら同じ所に向かっているみたいだな。え?…この先は確かドルトレッド伯爵の…もしかしてあの男の子たちのどちらかがフレッドなのか?…だとしたらあの金髪の小柄なほうだな)
ゆっくり歩いていた最後の女の子が屋敷に入るまで見送ったセドリックは、5人しか屋敷に入っていないことに気付かないまま、踵を返した。
逆に自分が尾行されていることにも気付かずに。
24
お気に入りに追加
3,498
あなたにおすすめの小説

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
異世界に転移したからモンスターと気ままに暮らします
ねこねこ大好き
ファンタジー
新庄麗夜は身長160cmと小柄な高校生、クラスメイトから酷いいじめを受けている。
彼は修学旅行の時、突然クラスメイト全員と異世界へ召喚される。
転移した先で王に開口一番、魔軍と戦い人類を救ってくれとお願いされる。
召喚された勇者は強力なギフト(ユニークスキル)を持っているから大丈夫とのこと。
言葉通り、クラスメイトは、獲得経験値×10万や魔力無限、レベル100から、無限製造スキルなど
チートが山盛りだった。
対して麗夜のユニークスキルはただ一つ、「モンスターと会話できる」
それ以外はステータス補正も無い最弱状態。
クラスメイトには笑われ、王からも役立たずと見なされ追放されてしまう。
酷いものだと思いながら日銭を稼ごうとモンスターを狩ろうとする。
「ことばわかる?」
言葉の分かるスキルにより、麗夜とモンスターは一瞬で意気投合する。
「モンスターのほうが優しいし、こうなったらモンスターと一緒に暮らそう! どうせ役立たずだし!」
そうして麗夜はモンスターたちと気ままな生活を送る。
それが成長チートや生産チート、魔力チートなどあらゆるチートも凌駕するチートかも分からずに。
これはモンスターと会話できる。そんなチートを得た少年の気ままな日常である。
------------------------------
第12回ファンタジー小説大賞に応募しております!
よろしければ投票ボタンを押していただけると嬉しいです!
→結果は8位! 最終選考まで進めました!
皆さま応援ありがとうございます!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!
モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。
突然の事故で命を落とした主人公。
すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。
それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。
「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。
転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。
しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。
そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。
※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる