上 下
575 / 974

ドンマイ

しおりを挟む
なんでこいつがここにいるんだ? 
いや、別にいてもおかしくはないんだけど……会釈だけして去ろう。

「ちょっと待ちなさいよ!!」

「……なんだよ、イーリス・リザード」

ちっ! 俺になんか用があるのか?
単にイラつくから絡みに来たのか?

俺の前の前には俺がセルシアのパートナーでることが気に入らないフレイヤ女学院の一年生、イーリス・リザードと、三年生の……団体戦で俺と戦ったフレイヤ女学院のトップ、レーシア・ラージュさん。

「久しぶりね、ラガス君」

「どうも、こんにちは。二人で一緒に買い物ですか?」

「いや、そういう訳ではないんだ」

二人で一緒に買い物ではない……なら、何故二人で王都を歩いてるんだ?
別に食事とか他に理由はあるかもしれないけど、イーリスの表情を見る限り、俺に用がある……のか?

「イーリスが君に用があってね」

「……一人で来るには勇気がいるから、ラージュさんを頼った。そういうことですか?」

「あなたに会うのに勇気なんて必要ないに決まってるでしょ!!」

あっそうですか。
相変わらず俺に対してはキャンキャン吠えるな。

別にこいつに吠えられてもって感じだし……二人も全くイラついてないっぽいな。
もしかして憐れんでるのか?

「イーリス。拗れる前に用件を伝えた方が良いぞ」

「うっ……分かりました」

ラージュさんに諭され、イーリスは懐から一つの手紙を取り出した。

「これ、お父様からあんたによ」

「お父様って……もしかしてリザード公爵からか?」

「他に誰がいると思ってるのよ」

……どれだけ俺にツンツンすれば気が済むんだこいつは……もういいや。

「この場で読みなさい」

「良いのか? こういうのって周囲に誰もいないのを確認して読むもんだと思うんだが」

「どうやら、それがリザード公爵様からの指示らしい」

「そうなんですね……分かりました」

封を開け、とりあえず手紙を読む。

貴族らしい面倒な前置きはあまりなく、要件はかなりざっくりと解りやすかった。

(……随分と太っ腹だな。でも、これだと冬休みの大半を使う様な……特に今のところ予定は殆どないから良いんだけどさ)

「なるほど」

「ラガス坊ちゃま、面倒な頼み事でしたか?」

「メリル……お前も随分と遠慮ないよな」

「表情から察するに、面倒と思っていると予想出来てしまったので」

「……別に面倒ではないよ。ただ、かなり時間を使う頼み事だなと思ってな」

簡単に言ってしまえば、リザード公爵専用の魔靴を造って欲しいという依頼。

ここ最近、セルシアのお父さん……バルンク様から何度も自慢され、対抗するために一足欲しいとのこと。
しかし普通の魔靴で良いわけがなく、魔靴を使う材料が指定されている。

そして指定された素材が手に入る場所も記されている。

因みに……最後に娘であるイーリスとも仲良くしてほしいと書かれていたが、これに関しては了承しかねる。

「それでも良い仕事だ。普通に造っても黒曜金貨一枚。指定の素材を使えば、プラス黒曜金貨二枚だから、合計三枚になる」

「それはそれは……中々に太っ腹ですね」

指定の素材を使わなくても黒曜金貨一枚……これだけ見たら案外楽な作業と思うかもしれないけど、これだけ金を払うんだから半端な物じゃ許さないってメッセージでもあるよな。

恐ろしい恐ろしい……んで、素材を取りに行く際にはイーリスも同行するらしい……そこだけは面倒だな。
でも、こいつからすれば元々俺と一緒に行動するとか最悪だろうし、今回に限っては被害者か……ドンマイ。

「なによ、その生暖かい目は」

「お前は冬休み、俺と一緒に行動してとある街に行かないといけないらしいぞ」

「……はっ!!??」

おいおい、公爵家の令嬢様がそんな変な驚き顔を街中で晒しても良いのか?

「……ラガス君、その手紙の一部分だけ見せてもらっても良いかな」

「はい。この通り書かれてあります」

手紙を折って、一部分だけ放心状態になっているイーリスの代わりに、俺が先程口にした内容が事実であるのことを見せた。

「しっかりとイーリスも同行するように書かれているね」

「でしょう。という訳だ、ドンマイ」

とりあえず、放心状態のイーリスに適当な慰めの言葉をかけ、二人と別れた。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました

最後のカードは、

豆狸
ファンタジー
『離縁』『真実の愛』『仮面の歌姫』『最愛の母(故人)』『裏切り』──私が手に入れた人生のカードは、いつの間にか『復讐』という役を形作っていました。

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます

ユユ
ファンタジー
“美少女だね” “可愛いね” “天使みたい” 知ってる。そう言われ続けてきたから。 だけど… “なんだコレは。 こんなモノを私は妻にしなければならないのか” 召喚(誘拐)された世界では平凡だった。 私は言われた言葉を忘れたりはしない。 * さらっとファンタジー系程度 * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

処理中です...