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ドンマイ

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なんでこいつがここにいるんだ? 
いや、別にいてもおかしくはないんだけど……会釈だけして去ろう。

「ちょっと待ちなさいよ!!」

「……なんだよ、イーリス・リザード」

ちっ! 俺になんか用があるのか?
単にイラつくから絡みに来たのか?

俺の前の前には俺がセルシアのパートナーでることが気に入らないフレイヤ女学院の一年生、イーリス・リザードと、三年生の……団体戦で俺と戦ったフレイヤ女学院のトップ、レーシア・ラージュさん。

「久しぶりね、ラガス君」

「どうも、こんにちは。二人で一緒に買い物ですか?」

「いや、そういう訳ではないんだ」

二人で一緒に買い物ではない……なら、何故二人で王都を歩いてるんだ?
別に食事とか他に理由はあるかもしれないけど、イーリスの表情を見る限り、俺に用がある……のか?

「イーリスが君に用があってね」

「……一人で来るには勇気がいるから、ラージュさんを頼った。そういうことですか?」

「あなたに会うのに勇気なんて必要ないに決まってるでしょ!!」

あっそうですか。
相変わらず俺に対してはキャンキャン吠えるな。

別にこいつに吠えられてもって感じだし……二人も全くイラついてないっぽいな。
もしかして憐れんでるのか?

「イーリス。拗れる前に用件を伝えた方が良いぞ」

「うっ……分かりました」

ラージュさんに諭され、イーリスは懐から一つの手紙を取り出した。

「これ、お父様からあんたによ」

「お父様って……もしかしてリザード公爵からか?」

「他に誰がいると思ってるのよ」

……どれだけ俺にツンツンすれば気が済むんだこいつは……もういいや。

「この場で読みなさい」

「良いのか? こういうのって周囲に誰もいないのを確認して読むもんだと思うんだが」

「どうやら、それがリザード公爵様からの指示らしい」

「そうなんですね……分かりました」

封を開け、とりあえず手紙を読む。

貴族らしい面倒な前置きはあまりなく、要件はかなりざっくりと解りやすかった。

(……随分と太っ腹だな。でも、これだと冬休みの大半を使う様な……特に今のところ予定は殆どないから良いんだけどさ)

「なるほど」

「ラガス坊ちゃま、面倒な頼み事でしたか?」

「メリル……お前も随分と遠慮ないよな」

「表情から察するに、面倒と思っていると予想出来てしまったので」

「……別に面倒ではないよ。ただ、かなり時間を使う頼み事だなと思ってな」

簡単に言ってしまえば、リザード公爵専用の魔靴を造って欲しいという依頼。

ここ最近、セルシアのお父さん……バルンク様から何度も自慢され、対抗するために一足欲しいとのこと。
しかし普通の魔靴で良いわけがなく、魔靴を使う材料が指定されている。

そして指定された素材が手に入る場所も記されている。

因みに……最後に娘であるイーリスとも仲良くしてほしいと書かれていたが、これに関しては了承しかねる。

「それでも良い仕事だ。普通に造っても黒曜金貨一枚。指定の素材を使えば、プラス黒曜金貨二枚だから、合計三枚になる」

「それはそれは……中々に太っ腹ですね」

指定の素材を使わなくても黒曜金貨一枚……これだけ見たら案外楽な作業と思うかもしれないけど、これだけ金を払うんだから半端な物じゃ許さないってメッセージでもあるよな。

恐ろしい恐ろしい……んで、素材を取りに行く際にはイーリスも同行するらしい……そこだけは面倒だな。
でも、こいつからすれば元々俺と一緒に行動するとか最悪だろうし、今回に限っては被害者か……ドンマイ。

「なによ、その生暖かい目は」

「お前は冬休み、俺と一緒に行動してとある街に行かないといけないらしいぞ」

「……はっ!!??」

おいおい、公爵家の令嬢様がそんな変な驚き顔を街中で晒しても良いのか?

「……ラガス君、その手紙の一部分だけ見せてもらっても良いかな」

「はい。この通り書かれてあります」

手紙を折って、一部分だけ放心状態になっているイーリスの代わりに、俺が先程口にした内容が事実であるのことを見せた。

「しっかりとイーリスも同行するように書かれているね」

「でしょう。という訳だ、ドンマイ」

とりあえず、放心状態のイーリスに適当な慰めの言葉をかけ、二人と別れた。
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