上 下
423 / 965

ギリギリ伸ばさなかった

しおりを挟む
「こちらに国王様がお待ちです」

ようやくアルガ王国の国王様……イギラス国王が待っている部屋にやって来た。

中に入ると、ソファーに一人の男が座っていた。
この人がイギラス国王か……うちの国の国王様と比べれば、少し線が細いな。

でも、魔力の総量はこっちの方が多い気がする。
もしかしたら魔法に特化した人なのかもしれないな。

「君たちがラガス君とセルシアさんだね。さぁ、座ってくれ」

言われるがままにソファーに腰を下ろす。

メリルたちはソファーの後ろに立ち、いつでも動けるようにしていた。
ただ、向こうも万が一の可能性は想定してたんだろうな。

後ろに立っている二人の騎士がヤバい。
アルガ王国に入ってから同行した騎士も強かったが、その比ではない。

おそらくこの国トップレベルだろうな。
まっ、それでもフェリスさんに敵うとは思えないけど。

「まずは一言、言わせてほしい……申し訳ない、息子の我儘なせいで君たちには迷惑を掛けた」

……思ってもないことを言ってる、ってわけじゃなさそうだな。
心の底から俺たちに悪いことをしたと思ってるんだろう。

良かった。さすがに国王様はまともな人だったみたいだな。

「丁度夏休みが始まる段階でした。ちょっとした旅行だと思えば悪い気分ではありません」

「……ラガスと同意見です」

セルシアさん、ちょっと簡潔に纏め過ぎでは?
無表情なのはいつも通りだけど、不機嫌オーラが俺には見える。

「そう言ってくれると嬉しいよ。ただ、謝罪をするだけで今回の件を済まそうとは思っていない。ラガス君とセルシアさんが望む物を必ず用意しよう」

……ふむ、目の前の国王は話が解るやつみたいだったな。
希望通りの言葉が出てきてくれて良かったよ。

ここで俺たちに詫びの品を用意しないなら、ぶん殴……りはしないが、髪の毛は全て抜ける。それ以外の毛は生えまくる呪弾をぶち込むところだった。

「……私は、雷の細剣が欲しいです。詫びの品というならば、最低ランク七の物を」

セルシアの言葉を聞いた二人の騎士の表情が揺れた。
青筋が浮かぶほどキレてるって感じではないが、少々ダメージを食らったって表情だな。

セルシアは最低ランク七といった。
ここでアルガ王国がランク七の細剣を用意すれば、自分たちは最低限の品しか用意できませんと自分たちの無能さを露呈することになる。

なので、実質アルガ王国はランク八か九の一品を用意しなければならない。
普通ならさすがに要望が大き過ぎると思われる内容だが、自国の王子が隣国の公爵令嬢に迷惑を掛けたのだ。

それぐらいの品を用意出来なければ、自分たちの格を下げる結果になる。

「うむ、分かった。セルシアさんに相応しい一品を用意しよう。ラガス君はどのような者をお望みかな」

「……空間魔法のスキル結晶、ですね」

「「「ッ!!!!!」」」

はっはっは!! やっぱりそういう表情になるよな。
無茶なことを言ってるのは解ってる。

だが、やっぱり欲しい。
実質セルシアが欲する細剣より価値は上かもしれないけど、欲しいな。

そんで後ろの二人……そんな圧を俺に飛ばしても良いのか?

「あなたたち、ラガスさんにその様な気配を飛ばすとは……敵対したい、ということですか?」

「「ッ!!!」」

フェリスさんから圧を飛ばされ、騎士二人は帯剣している剣に手が伸びかけた。

「止めるんだ、二人共」

「「申し訳ありませんでした」」

「私にではない、ラガス君に頭を下げるんだ。彼は己が欲しい物を素直に答えただけだ」

「「申し訳ありませんでした、ラガス殿」」

「構いませんよ」

抜剣してたらアウトだったかもしれないが、二人とも思い留まってくれた。
てか、抜剣してたら先にフェリスさんが動いてただろうな。

「空間魔法のスキル結晶、それがラガス君が希望の物ということでいいかい」

「えぇ、それが俺の希望の品です」

「……分かった。出来る限り直ぐに用意させよう」

どちらも直ぐに用意できるかもしれない、集める……細剣に関しては造る必要があるかもしれない。
それを考えると、今すぐに用意するのは不可能か……まっ、それぐらいは見逃して当然か。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...