上 下
413 / 965

魔法使い殺し

しおりを挟む
SIDE 近衛騎士

「ロウレット嬢のパートナーのラガス・リゼード……やっぱり見た目はなんというか、普通だったよな」

「そうね。でも、だからこそ侮れない空気を纏ってるって感じね」

オルアとサリナはラガスの実力を全く疑っていない。
だが、疑っていないからこそ、見た目との差にギャップを感じていた。

「侮れないというのは非常に深く解る。属性魔法が使えないからこそ得た手段なのかもしれないが、その身体能力と魔弾の威力は恐ろしい」

近衛騎士ではあるが、どちらかといえば魔法の方が得意なヤガスから見て、ラガスの身体能力の高さと魔弾を自由自在に操れる技術と威力の高さは心底恐ろしいと感じる。

「はっはっは!! あの速度と腕力で殴られたら、魔法使いはひとたまりもないだろうな。一流の武道家にも引けを取らないんじゃないか?」

「そうでしょう。魔法使いからすれば、生粋の魔法使い殺しですよ。私やフィーラの様な武器も使える魔法タイプであれば対処出来るとは思いますが、学生レベルの魔法使いでは試合開始の合図とともに一瞬で距離を詰められ、腹に一撃入れられて終わりですよ」

「それじゃあ、あれかい。一年生のトーナメントでラガス君と最初に戦ったリザード家の氷の令嬢と戦ってる時は手加減してたってことかい?」

サリナの言葉にヤガスではなく、今回の護衛のリーダーであるドレッグが答えた。

「ラガス殿はおそらく、全ての試合を通して手加減していた筈だ」

「……いや、ラガス・リゼードが強く、学生離れした実力を持つのは認めるが、さすがにそれは盛り過ぎじゃないか」

「ならオルア、お前はリングで戦っていたラガス殿の表情が絶対に勝ちたいという意思が伝わってくるほど必死な表情に見えたのか?」

「うっ……あんまりそんな表情じゃ、なかったな」

リングからそれなりに離れた位置から観ていても、大体の表情は解る。
大会に出場する生徒たちは全員が負けられない、勝ち進みたいという思いをお持ちながら戦いに臨む。

そんな中、ラガスだけは勿論試合に勝ちたいという思いはあるが、他の生徒と比べてその意思が弱かった。

「おそらく……私の想像でしかないが、ラガス殿は学園の方からあまり速く終わらせないでほしいと頼まれたいたはず」

「……なくはない話ですね。ラガスさんほどの実力者が本気で戦えば、試合が十秒も掛からず終わってしまうかもしれません」

「フィーラの言う通りだ。ラガス殿が本気で……極端な話、相手を殺してでも勝つ気で挑めば全ての試合が数秒で終わっていたかもしれない」

「パートナーであるロウレット嬢が相手でも、ですか」

大会の試合は全て観ていたので、五人はセルシアが戦う様子も観ていた。
決勝戦ではラガスに敗れたが、良い勝負をしていたと記憶している。

「……おそらくな」

ドレッグの見解は正しく、ラガスはセルシアとの試合でも本気を出していなかった。
しかし本気を出さずとも、ラガスは余裕の勝利を収めた。

「はぁ~~、それほどの実力を持ってるなら是非とも近衛騎士になってほしいもんだな」

「オルアの言う通りね。現時点で規格外な実力を持っているのだから、最年少で近衛騎士になってもおかしくない筈よ」

「その可能性は大いにあるだろう。ただ、残念ながらラガス殿が目指す道は長男のカロウス殿とは近い、ハンターという自由を求める道を目指している。おそらく近衛騎士になることはない」

「自由を目指す道か……なるほどな。確かにそういった奴は騎士や近衛騎士には向いてないな」

「……ラガス殿ほどの実力があれば、騎士の称号を手に入れることは容易だと思うが」

騎士という称号、爵位を手に入れるには条件がある。
強さという一点に関しては、既にラガスはその条件を満たしている。

「ラガス君なら現時点でも騎士の称号を手に居られるでしょうけど、彼はあんまりそういうのに興味は無いでしょ」

「それもそうか。パートナーが公爵家の令嬢様なんだ。その辺りを心配する必要はないか」

おバカやドアホは気にせず絡んでちょっかいを出そうとするが、そうでない者は公爵家の令嬢という立場に怯えるのが普通だった。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...