上 下
393 / 950

早まるな

しおりを挟む
「はぁ、はぁ、はぁ……悪いな、付き合ってもらって」

「別に構わねぇよ。ちょっとはスッキリしたか?」

「あぁ、それなりにな。にしても……まだまだお前には追いつかなさそうだな」

「はっはっは!! これでも幼い頃から体術は毎日鍛えてきたからな。まだまだ負けねぇよ」

とは言っても、このまま俺が鍛錬を続けてもいずれは抜かされるかもな。
それほどリーベには格闘のセンスと才能を感じる……まっ、負ける気はないけどな!!!

「……なぁ、もしかして学校を辞めようとかちょっとも考えてないよな」

「ッ!!! ……」

この反応……ちょっとは考えてるみたいだな。
大失恋をした後、全てがどうにでも良くなったのかもしれないが……流石に思っただけで、踏み留まったか。

「それは止めといた方が良いぞ」

「分かってる、直ぐに頭から消した。それに……流石に父さんにぶっ飛ばされる」

「……だろうな」

ちょっと過激な気がしなくもないけど、侯爵家の令息が女を懸けた決闘に結果的に負けて学校を去ったら、マジで笑い者になる。

リーベ的には少々学校に居ずらいって思ってるのかもしれないが、結果的にそうなるのはアザルトさんだ。
リーベが辞める必要はこれっぽちもない。

「俺たちまだ一年生だぜ。卒業するまでに新しい恋をするかもしれないだろ」

「……直ぐ次に移ろうとは思えないがな」

「それはそうかもしれないけど……恋ってのはどこで、どのタイミングで見つかるか分からないものだろ。アザルトさんの件だって、確か一目惚れだったんだろ」

「そ、そうだな……あぁ、そうだった」

ヤバい、過去の恋愛に触れるのはアウトだな。

「と、とりあえず卒業するまでに恋人ができるかもしれない。その可能性はゼロじゃないだろ。あと、どうせハンターにはなるつもりなんだろ」

「……そうだな。今更騎士やどこかの家に仕えようという気にはならない」

「だろ、それならハンター科の生徒とそれなりに仲良くなっておけば、将来どこかでその縁が生きるかもしれない。それにな……ハンターになってからそれなりに良い生活を送るには、今から金を貯めておいた方が良いぞ」

「そ、そうなのか?」

おっと、どうやらちょっとハンターへの認識が甘いみたいだな。

「ハンターにはランクがあるのは知ってるだろ」

「あぁ、それは勿論知ってるぞ。ランクによって受けられる依頼があるのも知ってるが」

「それは良かった。基本的に卒業すれば一番下からのスタートだ。戦闘能力の高さによって飛んで昇給することは可能だけど、ある一定ラインからはしっかりと依頼を受け続けてギルドの信頼を得て、昇給する必要がある。俺は親が二人とも元ハンターだから知ってるが、そこそこ金がないと今使ってるベッドで寝ると無理だからな」

「……世間でいう一般的なベッドは学園の物より、そこまで品質が悪いの、か」

「そりゃ王都のベストフォーに入る学校のベッドだ。そこら辺の宿屋が質で勝てる訳ないだろ」

ベッドだけじゃなくて、料理の質も当然違う。
俺はこの世界の飯は圧倒的に不味い料理じゃなければ大抵は美味く感じる……でも、貴族が食べるような料理ばかり胃袋に入れてきた奴からすれば最初は戸惑うだろうな……いずれ慣れるとは思うけどな。

「だから、なるべく学生のうちに金を溜める。後は……野営時を快適に過ごす魔道具を持っていた方が良いだろうな」

「野営、か……そうだな。俺も何度か経験はあるが、自分の力だけで質の良い魔道具を揃えるとなると、それなりに時間が掛かるな」

「だろ。だからしっかりと学園を卒業するまで残って、その間にコツコツ金を溜めて道具を買って資金を溜めた方が良い。これからも魔弾の訓練を続ければ、低ランクのモンスターはそれだけで倒せる。ハンターでなくとも素材や魔核は換金出来るからな」

「……ふふ、的確なアドバイスに感謝する。お前はあれだな……偶に人生二週目かと思ってしまう」

「…………何言ってんだよ、そんな訳ないっての」

おいおい、鋭いな。
まっ、言うても生きた年数を足しても三十に届かないけどな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

パーティー会場で婚約破棄するなんて、物語の中だけだと思います

みこと
ファンタジー
「マルティーナ!貴様はルシア・エレーロ男爵令嬢に悪質な虐めをしていたな。そのような者は俺の妃として相応しくない。よって貴様との婚約の破棄そして、ルシアとの婚約をここに宣言する!!」 ここ、魔術学院の創立記念パーティーの最中、壇上から声高らかに宣言したのは、ベルナルド・アルガンデ。ここ、アルガンデ王国の王太子だ。 何故かふわふわピンク髪の女性がベルナルド王太子にぶら下がって、大きな胸を押し付けている。 私、マルティーナはフローレス侯爵家の次女。残念ながらこのベルナルド王太子の婚約者である。 パーティー会場で婚約破棄って、物語の中だけだと思っていたらこのザマです。 設定はゆるいです。色々とご容赦お願い致しますm(*_ _)m

他人の人生押し付けられたけど自由に生きます

鳥類
ファンタジー
『辛い人生なんて冗談じゃ無いわ! 楽に生きたいの!』 開いた扉の向こうから聞こえた怒声、訳のわからないままに奪われた私のカード、そして押し付けられた黒いカード…。 よくわからないまま試練の多い人生を押し付けられた私が、うすらぼんやり残る前世の記憶とともに、それなりに努力しながら生きていく話。 ※注意事項※ 幼児虐待表現があります。ご不快に感じる方は開くのをおやめください。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...