上 下
362 / 965

最初で最後のチャンス

しおりを挟む
「お疲れ様、ラガス」

「あぁ、有難う……全体的に見ればそこまで予想外のイベントは無かったけど、ずっと緊張しっぱなしだったよ」

夕食を食べ終え、すっかり日が沈んだ時間にベランダでのんびり空を眺めていると、セルシアが今日の出来事を労ってくれた。

何と言うか……この笑顔を見ると本当に心が癒される。

イーリスがブスだとは言わない。
というか全体的に見ればトップレベルの顔面偏差値を誇るだろう……でもそういう話じゃないんだよな。

あいつの笑顔は大半の同年代に虜にして癒せるかもしれないけど、あいつの本性というか俺に対する恨みの感情? それを知っている俺からすれば「今からお前をぶっ潰す」もしくは「いつか必ず氷漬けにしてやるからな」って間接的に言われている様にしか思えない。

「メイドさんと、戦ったんだっけ」

「そうだよ。若干俺に敵意を持ってたよ……殺意は持ってなかったけど、イーリスと親しい人だったらしいからな……試合でボッコボコにした俺が気に食わなかったんだよ」

「……割り切れない感情、というもの?」

「そんな感じの感情だろうな。仮にも公爵家で働いているメイドさんだ。そういった私情をぶつけてはならないって事ぐらいは解ってる筈だ」

逆にそれが解らなかったらリザード公爵も雇いはしないだろ。

ただ、俺が報酬として白金貨一枚と炎と氷の双剣、グロリアスに魅力を感じたから応じた。
仮に応じなかったら無茶をして俺に挑んでくることはなかっただろう。

「大会は終わったのに、問題は尽きない、ね」

「はっはっは、そうみたいだな。一応イーリスとの婚約問題は今日で終わったが……まだリーベの方の婚約問題が残っている」

訓練を一緒に始めてからリーベは順調に強くなっている。
元が良いのもあり、自分の体を思い通りに扱うのに慣れてきたって感じだ……しっかりて切り札もある。

ただ、あれは本当に最後の最後にしか使えない切り札だ。

もう少しリスクなしで使える切り札が必要だ。
後数日後に届くと言っていたし……一週間もあればそれなりに扱えるようになるか。

「三日後に、冒険者学校に行く、そうだよね」

「そうだ。色々説明事項が書かれた紙と契約書を持っていく……そしてライド君にその契約書にサインをさせるのが当日の流れだ」

「……契約書にサイン、すると思う?」

「するだろうな。てか、ラライド君がアザルトさんと結ばれるのは千載一遇のチャンス。この機会を逃したらアザルトさんと結ばれるチャンスは二度と訪れない」

ハンターとして桁外れの功績を残せば強大な権力を得て、真正面からアザルトさんを迎えに行くつもりかもしれないけど、正直無理無理、絶対に無理な話だ。

相手は長男ではないとはいえ、侯爵家の子息だ。
その時点で平民のライド君とは差があり過ぎる。

そして桁外れの功績を得るにしても、実力とそれを得るまでの時間が問題だ。

桁外れの功績……それは内容によって様々だが、シルバーランク以上の実力が必要なのは絶対。

あの三人から自分達より優秀だと認識されてるってことは相当強いんだろうけど、貴族も認める鉱石を得られるかどうか……可能性は低いだろう。

それに、リーベがアザルトさんと結婚して夫婦になれば、もう絶対に奪うことは出来ない。
いや、出来なくはないのかもしれないけど……そんなことしたら世間からの批判が尋常ではないのは確実。

いくら真正面から行ったとしても、それは普通にアウトだ。

だからライド君はこの契約に応じるしかない。

「リーベも凄い、よね。このまま時が過ぎれば、ほぼ確実に、アザルトさんと結婚、出来る」

「だろうな……でも、リーベの心の中にある漢の部分がそのまま結婚するのは許せないんだろうな」

将来自分とアザルトさんとの関係を絶対に妨害してくる存在を、徹底的に叩き潰しておきたいって思いもあるかもしれない。

それか……自分の方がアザルトさんを守るだけの力があると証明したいのか……まっ、俺はリーベじゃないからそこらへんの本心は解らないけどな。

とりあえず三日後、俺もリーベと一緒に学園へ向かう……とりあえず変装はしておいた方が良さそうだな。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...