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第148話 何故付けないのか

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「アスト、これは私からの礼だ」

街から出る前に、アストが泊っている宿へとやって来たアリステアは、アストに一つの指輪を渡した。

「……ありがとうございます」

明らかに、人目で高価な指輪だと解る見た目をしており、その質も確認出来る。

アストからすれば、まずなんの礼なのかと尋ねたい。
そして理由を聞いたとしても、それほどの事はしてませんと答えてしまう。

ただ……そんな自分の行動と、アリステアがそれでもと言いながら渡そうとする姿が、容易に想像出来てしまう。
なので、アストは有難く……素直に受け取ることにした。

「その指輪は、あなたの助けになる筈だ」

「気を遣って頂き、ありがとうございます」

「…………もし、気が向いたら、またこの街に訪れてほしい。また……アストの作るカクテルが呑みたい」

「っ……えぇ。いつか、また訪れます」

また、あなたが作るカクテルが呑みたい。
バーテンダーにとって、これほど胸を打たれる褒め言葉はなかった。




「……そういえば、どういう効果が付与されてたんだ?」

アストは鑑定の効果が付与されたモノクルを取り出し、アリステアから礼の品だと言って渡された。

「…………………………れ、礼の、品?」

指輪を鑑定した結果、プレゼントされた指輪のランクは七。天輪の指輪だと判明。
効果は脚力の大幅強化と、一定時間の間、傷などを負った際に再生し続けるというもの。

使い捨てのマジックアイテムではなく、インターバルが必要ではあるものの、再生の効果は何度も使用可能。

(いやいやいや…………自分でこういう事を、言うのはあれだけど……こういのは、親族や伴侶に渡すものでは?)

Aランクモンスターの討伐に参加してほしいという指名依頼に関して、アストはしっかりと報酬を貰っていた。
白金貨以上の金額を貰っていたため、それだけでも十分だった。

しかし、騎士たちの命を預かる団長という立場であるアリステアからすれば、もう一体のAランクモンスターと遭遇してしまったことに関しては、完全に自分たち側のやらかし。
そんな状況でありながらも果敢に戦ってくれ、命を賭してリブルアーランドドラゴンを討伐してくれたからこそ、多くの騎士たちが亡くならずに済んだ。

仮に、今回の討伐に参加した騎士たちの大半が亡くなれば、天輪の指輪の売却値段では全く足りない人材確保と育成時間が必要になる。
寧ろアリステアからすれば、もっと良い物があればとすら思っていた。

「…………今更返すことなんて、出来ないしな」

魂が抜けそうなほど驚いたものの、今更返すなど無礼な真似は出来ない。
それが解らないアストではなく、諦めてアイテムバッグの中にしまった。

(とはいえ、正直これからダンジョンを探索するのを考えると、本当に有難いマジックアイテムだ)

一度ダンジョンの探索を開始すれば、基本的に最低でも五日は探索し続ける。
十日以上探索し続けることも珍しくない。

天輪の指輪の再生能力に関するインターバルは一日もあれば十分元通りになるため、切り札としても十分役目を果たせる。
そんな通常効果も優れている指輪を何故直ぐに身に付けないのかというと……下手に目立ってしまうからである。

Aランクモンスターを討伐する立役者となってしまった現在、その辺りを気にしても意味はないと思うかもしれないが、それでも限度というものがある。
現在、アストはCランクの冒険者である。

まだ十八歳という年齢を考慮すれば、中々のスピード出世である。
それ相応の装備品を身に付けていてもおかしくない。
実際に現在街から街へ移動中のアストが装備している物は、どれも最低ランク三の物ばかり。

モンスターや盗賊に襲われることも考慮し、服に関しても材質に拘っている。
ただ……見た目的には、どれもあまり高価そうには見えない。

しかし!!!!! ……アリステアがアストにプレゼントした天輪の指輪は、もう見た目からして高級感が漂ってしまっている。
アストがあまり王都指折り鍛冶師に造ってもらったグリフォンの素材がメインである風刀を帯刀してないのも……多少勘が鋭い者であれば「あの刀……良い切れ味してそうだな」と気付かれてしまうからである。

それもあって、アストは万が一最悪の危機を想定して名刀やら優れた戦斧やら、高品質なマジックアイテムを有してはいるものの、基本的には携帯せずにアイテムバッグの中にしまってある。

基本的にアストは年上の冒険者に気に入られることが多いが、それは冒険者としてある程度成功したと言える……主に二十代後半から三十代の冒険者たち。

その他の冒険者たちからすれば、基本的に嫉妬の対象に入ってしまい、アスト本人も
それを理解している。

(……一度滞在したことがある街だからこそ、あまり絡まれることはない……と期待したな)

そんな淡い希望を抱きながら、アストは街から街まで爆走し続けた。
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