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第143話 どんな立場でも、変わらない
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「コスモ、ポリタン……」
「私からのサービスです」
サービスだからお代はいらないと伝えられたアリステア。
もう、作られてしまったものは仕方ないと、、アリステアはアストにありがとうと口にし、コスモポリタンを呑んだ。
「…………美味しい。ただ、鮮やかな見た目に反して、それなりに重さを感じる」
「重さを感じますが、アルコールに耐性がある人ほど呑みやすいと感じるため、呑み過ぎ厳禁な一杯でもあります」
「そうなのか…………ふふ、美味しいな」
何故、このカクテルをサービスしてくれたのかは解らない。
それでも……今のアリステアには、その気遣いが染みた。
「あの時……カミカゼを使用した後、完全に倒れてしまうまで、ほんの少しだけ意識があります」
「…………そうか」
「アリステアさんが、悩んでいるのは解ります。その悩みを……解ってあげられる、下手に共感することは出来ません。ただ、私は暗黒剣技を使うアリステアさんを見て……カッコいいと、そして華麗だと……感じました」
カッコ良く、華麗。
悪い気はしないが、さすがにリップサービスが過ぎると思ったアリステアだったが、カクテルから視線をアストに移すと……そこには、バーテンダーとしてではなく、冒険者としての顔を浮かべ、少し照れていた。
それを見て、リップサービスではなく、本心なのだと気付いたアリステア。
「見方によるとしか言えませんが。騎士……騎士団長という像を、民衆や同僚がどう見ているか。そんなある意味重荷とも言えるものを背負いながらも、暗黒剣技を使い、あのオーガを討伐したアリステアさんの姿は……本当に、カッコ良く、華麗でした」
「あれは……君が、命を懸けてでも土竜を倒そうとする姿を見て、私の悩みなど直ぐに捨てるべきだと……そう思っただけだ」
「それでも、強敵を倒し、仲間を……民を守る為に暗黒剣技を使い、あのオーガを討伐するアリステアさんの姿には、憧れるものを感じました」
「…………そうか」
自分でも解っていたことではある。
暗黒剣技というスキルそのものが悪なのではない。
使い手によって、評価が変化するものであると。
(理想で、自分の力を縛ってしまっては……守れる者も、守れなくなってしまう、か………………ふふ。どうせなら、またあの頃の様に戻るのも悪くないか)
現在、騎士団長という立場まで上り詰めてしまったアリステアは、現場で活動する時間よりも、書類仕事を行っている時間の方が長い。
アリステアにとって、かつて憧れていた人と同じ立場に上り詰めたこと自体は嬉しかった。
ただ……知らなかった立場になってから、解ることがある。
「ふふ……ふっふっふ……それも、悪くないな」
「何が、悪くないのですか?」
「騎士像として、暗黒剣技を使うのは、心証が良くない。そういった理由で騎士団長から降ろされたとしても、最前線に戻れることを考えれば、それも悪くないと思ってな」
「……上の方々が何を考えているのかは解りませんが、早々に降ろされるなのですか?」
「私は……味方もそれなりにいるが、敵もそれなりにいる。実家の事を考えれば、騎士の爵位を剝奪されることはないとは思う。しかし、騎士団長という立場から降ろされても、なんら不思議ではない」
アストはやはり世の中、クズはどこにでもいるなと思いながらも、当然うっかり口を滑らせることはなかった。
「しかし、ただの騎士に戻れば、昔の様に最前線でモンスターや盗賊たちと戦える……騎士を目指した理由を考えれば、それはそれで悪くない」
「………………アリステアさんがそう決めたのであれば、私が言うことは何もありません。ただ、今の騎士団でアリステアさんが降格し……次期騎士団長候補? の方が、騎士団長になった場合……色々とやり辛い雰囲気になってしまう懸念点があるかと」
「ふむ……そう、だな。確かに、アストの言う通りかもしれない」
憧れの人物である前騎士団長の事を思い出し、もじ自分が時期騎士団長候補……前線で動いている騎士の立場になって考えられたアリステア。
その結果……とんでもないアイデアが浮かんだ。
「それなら、アストと同じく、冒険者になってみるのもありか」
「……………………え?」
アストは洗浄が終わり、水を拭いていたグラスをうっかり落しそうになった。
「私は、民を守りたい。とはいえ、そういった活動だけでは自身の生活をどうにか出来ない事を考えると、いっそ騎士を辞職して冒険者として活動するのも悪くないと思わないか」
「え、えっと…………そ、それは……どう、なのでしょうか」
冒険者ギルドからすれば、色々と厄介な爆弾ではあれど、それでもAランクモンスターを単独で討伐出来る戦闘力を持つ強者が、冒険者ギルドという組織に加入してくれることは、ありがたいことこの上ない。
アリステアに憧れを抱いている冒険者たちも、騎士団長という立場に就いているアリステアにというよりも、女性でありながら本当に強く凛々しいアリステアに憧れているため、まず抵抗なく受け入れられることが予想される。
「ふふ。君でも、そんな顔をするんだな」
戸惑いの表情を隠せないアストが面白かったのか、アリステアは……アリステア個人としての笑みを隠さず浮かべていた。
(…………本当に、華麗な方だ)
コスモポリタンのカクテル言葉は、華麗。
アストは苦笑いを浮かべながらも、再度暗黒剣技を使い、戦凶鬼を討伐するアリステアの姿と……今自分の目の前で笑みを浮かべる彼女の姿を見て、自身が伝えた言葉に噓はなかったと思った。
「私からのサービスです」
サービスだからお代はいらないと伝えられたアリステア。
もう、作られてしまったものは仕方ないと、、アリステアはアストにありがとうと口にし、コスモポリタンを呑んだ。
「…………美味しい。ただ、鮮やかな見た目に反して、それなりに重さを感じる」
「重さを感じますが、アルコールに耐性がある人ほど呑みやすいと感じるため、呑み過ぎ厳禁な一杯でもあります」
「そうなのか…………ふふ、美味しいな」
何故、このカクテルをサービスしてくれたのかは解らない。
それでも……今のアリステアには、その気遣いが染みた。
「あの時……カミカゼを使用した後、完全に倒れてしまうまで、ほんの少しだけ意識があります」
「…………そうか」
「アリステアさんが、悩んでいるのは解ります。その悩みを……解ってあげられる、下手に共感することは出来ません。ただ、私は暗黒剣技を使うアリステアさんを見て……カッコいいと、そして華麗だと……感じました」
カッコ良く、華麗。
悪い気はしないが、さすがにリップサービスが過ぎると思ったアリステアだったが、カクテルから視線をアストに移すと……そこには、バーテンダーとしてではなく、冒険者としての顔を浮かべ、少し照れていた。
それを見て、リップサービスではなく、本心なのだと気付いたアリステア。
「見方によるとしか言えませんが。騎士……騎士団長という像を、民衆や同僚がどう見ているか。そんなある意味重荷とも言えるものを背負いながらも、暗黒剣技を使い、あのオーガを討伐したアリステアさんの姿は……本当に、カッコ良く、華麗でした」
「あれは……君が、命を懸けてでも土竜を倒そうとする姿を見て、私の悩みなど直ぐに捨てるべきだと……そう思っただけだ」
「それでも、強敵を倒し、仲間を……民を守る為に暗黒剣技を使い、あのオーガを討伐するアリステアさんの姿には、憧れるものを感じました」
「…………そうか」
自分でも解っていたことではある。
暗黒剣技というスキルそのものが悪なのではない。
使い手によって、評価が変化するものであると。
(理想で、自分の力を縛ってしまっては……守れる者も、守れなくなってしまう、か………………ふふ。どうせなら、またあの頃の様に戻るのも悪くないか)
現在、騎士団長という立場まで上り詰めてしまったアリステアは、現場で活動する時間よりも、書類仕事を行っている時間の方が長い。
アリステアにとって、かつて憧れていた人と同じ立場に上り詰めたこと自体は嬉しかった。
ただ……知らなかった立場になってから、解ることがある。
「ふふ……ふっふっふ……それも、悪くないな」
「何が、悪くないのですか?」
「騎士像として、暗黒剣技を使うのは、心証が良くない。そういった理由で騎士団長から降ろされたとしても、最前線に戻れることを考えれば、それも悪くないと思ってな」
「……上の方々が何を考えているのかは解りませんが、早々に降ろされるなのですか?」
「私は……味方もそれなりにいるが、敵もそれなりにいる。実家の事を考えれば、騎士の爵位を剝奪されることはないとは思う。しかし、騎士団長という立場から降ろされても、なんら不思議ではない」
アストはやはり世の中、クズはどこにでもいるなと思いながらも、当然うっかり口を滑らせることはなかった。
「しかし、ただの騎士に戻れば、昔の様に最前線でモンスターや盗賊たちと戦える……騎士を目指した理由を考えれば、それはそれで悪くない」
「………………アリステアさんがそう決めたのであれば、私が言うことは何もありません。ただ、今の騎士団でアリステアさんが降格し……次期騎士団長候補? の方が、騎士団長になった場合……色々とやり辛い雰囲気になってしまう懸念点があるかと」
「ふむ……そう、だな。確かに、アストの言う通りかもしれない」
憧れの人物である前騎士団長の事を思い出し、もじ自分が時期騎士団長候補……前線で動いている騎士の立場になって考えられたアリステア。
その結果……とんでもないアイデアが浮かんだ。
「それなら、アストと同じく、冒険者になってみるのもありか」
「……………………え?」
アストは洗浄が終わり、水を拭いていたグラスをうっかり落しそうになった。
「私は、民を守りたい。とはいえ、そういった活動だけでは自身の生活をどうにか出来ない事を考えると、いっそ騎士を辞職して冒険者として活動するのも悪くないと思わないか」
「え、えっと…………そ、それは……どう、なのでしょうか」
冒険者ギルドからすれば、色々と厄介な爆弾ではあれど、それでもAランクモンスターを単独で討伐出来る戦闘力を持つ強者が、冒険者ギルドという組織に加入してくれることは、ありがたいことこの上ない。
アリステアに憧れを抱いている冒険者たちも、騎士団長という立場に就いているアリステアにというよりも、女性でありながら本当に強く凛々しいアリステアに憧れているため、まず抵抗なく受け入れられることが予想される。
「ふふ。君でも、そんな顔をするんだな」
戸惑いの表情を隠せないアストが面白かったのか、アリステアは……アリステア個人としての笑みを隠さず浮かべていた。
(…………本当に、華麗な方だ)
コスモポリタンのカクテル言葉は、華麗。
アストは苦笑いを浮かべながらも、再度暗黒剣技を使い、戦凶鬼を討伐するアリステアの姿と……今自分の目の前で笑みを浮かべる彼女の姿を見て、自身が伝えた言葉に噓はなかったと思った。
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