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第130話 まだ、止まれない
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「ふぅーーーーー……ッ!!!!!!」
騎士団からの正式な依頼を受けたアストは、その後何かしらの依頼を受けることはなく、適当に森を探索……するのではなく、冒険者ギルドの訓練場で訓練を行っていた。
ここ最近は実戦を行うことはあっても、訓練を行うことは久しぶりであった。
「あれ……誰だ?」
「えっと…………あれじゃないか。パーラさんたちが言ってた、アストさんって人」
「凄いわね。あんた、あんなに速く長く動き続けられる?」
「…………チッ!! 無理だよ、クソが」
離れた場所でルーキーたちが集まり、パーティーの垣根関係無しに訓練を行っていた。
そんなルーキーたちの視線の先には、数分以上高速でロングソードを振り続ける一人の先輩がいた。
一部の先輩たちが会話の中で彼の名を口に出すことがあり、女性冒険者の先輩達は彼と交流がなくとも、既に認めている空気感を出していた。
「あれで確か、二十歳を越えてないんでしょ。どんな修羅場を越えて来たのかしら」
「そういえば、あの人のお陰で騎士団の人たちが助かったって聞いたような」
一人の言葉に、それは大袈裟だろと言いかける者がいたが、改めてアストの動きを見て……グッと飲み込んだ。
訓練と実戦は違う。
そんなありきたりなら正しくはある言葉でアストをバカにしようとするも、彼らは間違いなくアストがただロングソードを振るっているだけではんく、何かを斬り裂いている……そんなイメージが見えていた。
まるで実戦さながらの動き。
まだ辿り着けないスピード、スタミナの差を見せ付けられては、悪態の一つも出てこない。
「はぁ、はぁ、はぁ…………少し、休むか」
地面に腰を下ろし、アイテムバッグからマジックアイテムの水筒を取り出す。
水筒に入っている水は自動的にぬるま湯が丁度良い冷たさに調整され、見た目以上に入れられる効果が付与されている。
「ぷはぁーーーーーー…………よし」
アリステアたちと共に行動するのは、明日から。
それまでに実戦を行うか、それとも訓練を行うか……どちらが正しいのか、アストには解らなかった。
そのため、深く考えるのを止めて直感に従った。
「あの」
「ん?」
「よ、良かったら、その……稽古を付けてくれませんか」
知らない冒険者、ルーキーが声を掛けてきた。
そのルーキーは自ら声を掛けて来たのに、顔にほんの少し怯えがあった。
(…………そうか、イラつきが出てたんだな)
ここはミーティアではなく、冒険者ギルドの訓練場。
アストという人間として、特に感情を抑えて行動する必要はない。
だが、冒険者として……後輩たちにとっては、良い先輩でいたい。
それはそういった欲求があるわけではなく、基本的に自分が取られて嫌な態度を取りたくないから。
「あぁ、良いよ。それじゃあ、軽く戦ろうか」
「よ、よろしくお願いします!」
明日から重要な依頼が始まる。
自ら望んで受けると決めた依頼が始まる……そんな先日に何をやってるのか。
そう思わなくない部分はあるが、それでも心がガチガチの状態でいるのは良くないと思った。
だからこそ、見知らぬ同業者からの申し出を受けた。
「ふっ!! はッ!!!」
「……力はあるな。でも、前に出過ぎだ」
「おわっ!!?? ぐっ、ぁあああっ!!!」
「踏ん張れる力はあるな。ただ、今より強くなりたいなら、崩れない体を……バランスを手に入れろ」
受けて攻めて、躱して受けて攻めて攻めて……その間に稽古を申し込んできた青年の足りない箇所を伝え続けた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「とりあえず、水分補給だな」
「わ、分かりました」
青年のスタミナが切れ、一旦終了。
(す、凄い……俺と、一歳か二歳ぐらいしか変わらない筈なのに、全く当たらなかった)
アストは打撲になるような怪我を負わせなかったが、それでも青年は敢えて自分にそういった怪我を負わせなかったのだと、本能的に理解していた。
「アストさんは、全く疲れてないん、ですか?」
「そうだな」
「……やっぱり体力も必要ですよね」
「………………モンスターを殺す。その点に限れば、絶対に必要ではないと思うぞ」
「えっ……そ、そうなんですか?」
「お前、パーティーは組んでるか?」
「はい。一応四人組のパーティーで活動してます」
本日は休日であり、青年はパーティーの財布などを任されておらず、ザ・戦闘要員であるため、もっと強くなる為に訓練場に来ていた。
「パーティーメンバーに、助けられたと思ったことはあるか」
「えぇ、ありますね」
「その感覚通り、互いに足りない部分を補って戦うのがパーティーだ。それが上手く重ね合えば……モンスターの急所を斬るか刺して、数十秒以内に戦いが終わることもある」
アストの言葉に、青年はこれまでの冒険者経験から、その体験を思い出す。
「そういう時も……ありますね。それなら、移動するだけの体力以外は、いらないと?」
「……もし、お前がこれからも上を目指し続ける為に冒険者活動を続けるなら、大きな大きな壁にぶつかった際に走れる体力がいる」
自分より、自分たちより弱い雑魚を潰しながら生き続けるのであれば、青年の言う通り移動力だけがあれば十分。
だが、冒険者人生は、そう甘くない。
上を目指すことなど等に諦めた冒険者であっても、最悪なイレギュラーは訪れる。
上を目指し続けている、もしくはそれを諦めていない冒険者であれば、必然的にぶつかる壁……遭遇するイレギュラーの数が多くなる。
「アストさんも……まだまだ、上を目指してるんですね」
「…………そうだな」
冒険者としては、これ以上先に進むつもりはない。
ただ、バーテンダーとしてはこれから先もミーティアに訪れたお客様たちに最高の一杯を届ける為に、歩みを止めるつもりはない。
だからこそ……今回の依頼で、死ぬわけにはいかない。
騎士団からの正式な依頼を受けたアストは、その後何かしらの依頼を受けることはなく、適当に森を探索……するのではなく、冒険者ギルドの訓練場で訓練を行っていた。
ここ最近は実戦を行うことはあっても、訓練を行うことは久しぶりであった。
「あれ……誰だ?」
「えっと…………あれじゃないか。パーラさんたちが言ってた、アストさんって人」
「凄いわね。あんた、あんなに速く長く動き続けられる?」
「…………チッ!! 無理だよ、クソが」
離れた場所でルーキーたちが集まり、パーティーの垣根関係無しに訓練を行っていた。
そんなルーキーたちの視線の先には、数分以上高速でロングソードを振り続ける一人の先輩がいた。
一部の先輩たちが会話の中で彼の名を口に出すことがあり、女性冒険者の先輩達は彼と交流がなくとも、既に認めている空気感を出していた。
「あれで確か、二十歳を越えてないんでしょ。どんな修羅場を越えて来たのかしら」
「そういえば、あの人のお陰で騎士団の人たちが助かったって聞いたような」
一人の言葉に、それは大袈裟だろと言いかける者がいたが、改めてアストの動きを見て……グッと飲み込んだ。
訓練と実戦は違う。
そんなありきたりなら正しくはある言葉でアストをバカにしようとするも、彼らは間違いなくアストがただロングソードを振るっているだけではんく、何かを斬り裂いている……そんなイメージが見えていた。
まるで実戦さながらの動き。
まだ辿り着けないスピード、スタミナの差を見せ付けられては、悪態の一つも出てこない。
「はぁ、はぁ、はぁ…………少し、休むか」
地面に腰を下ろし、アイテムバッグからマジックアイテムの水筒を取り出す。
水筒に入っている水は自動的にぬるま湯が丁度良い冷たさに調整され、見た目以上に入れられる効果が付与されている。
「ぷはぁーーーーーー…………よし」
アリステアたちと共に行動するのは、明日から。
それまでに実戦を行うか、それとも訓練を行うか……どちらが正しいのか、アストには解らなかった。
そのため、深く考えるのを止めて直感に従った。
「あの」
「ん?」
「よ、良かったら、その……稽古を付けてくれませんか」
知らない冒険者、ルーキーが声を掛けてきた。
そのルーキーは自ら声を掛けて来たのに、顔にほんの少し怯えがあった。
(…………そうか、イラつきが出てたんだな)
ここはミーティアではなく、冒険者ギルドの訓練場。
アストという人間として、特に感情を抑えて行動する必要はない。
だが、冒険者として……後輩たちにとっては、良い先輩でいたい。
それはそういった欲求があるわけではなく、基本的に自分が取られて嫌な態度を取りたくないから。
「あぁ、良いよ。それじゃあ、軽く戦ろうか」
「よ、よろしくお願いします!」
明日から重要な依頼が始まる。
自ら望んで受けると決めた依頼が始まる……そんな先日に何をやってるのか。
そう思わなくない部分はあるが、それでも心がガチガチの状態でいるのは良くないと思った。
だからこそ、見知らぬ同業者からの申し出を受けた。
「ふっ!! はッ!!!」
「……力はあるな。でも、前に出過ぎだ」
「おわっ!!?? ぐっ、ぁあああっ!!!」
「踏ん張れる力はあるな。ただ、今より強くなりたいなら、崩れない体を……バランスを手に入れろ」
受けて攻めて、躱して受けて攻めて攻めて……その間に稽古を申し込んできた青年の足りない箇所を伝え続けた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「とりあえず、水分補給だな」
「わ、分かりました」
青年のスタミナが切れ、一旦終了。
(す、凄い……俺と、一歳か二歳ぐらいしか変わらない筈なのに、全く当たらなかった)
アストは打撲になるような怪我を負わせなかったが、それでも青年は敢えて自分にそういった怪我を負わせなかったのだと、本能的に理解していた。
「アストさんは、全く疲れてないん、ですか?」
「そうだな」
「……やっぱり体力も必要ですよね」
「………………モンスターを殺す。その点に限れば、絶対に必要ではないと思うぞ」
「えっ……そ、そうなんですか?」
「お前、パーティーは組んでるか?」
「はい。一応四人組のパーティーで活動してます」
本日は休日であり、青年はパーティーの財布などを任されておらず、ザ・戦闘要員であるため、もっと強くなる為に訓練場に来ていた。
「パーティーメンバーに、助けられたと思ったことはあるか」
「えぇ、ありますね」
「その感覚通り、互いに足りない部分を補って戦うのがパーティーだ。それが上手く重ね合えば……モンスターの急所を斬るか刺して、数十秒以内に戦いが終わることもある」
アストの言葉に、青年はこれまでの冒険者経験から、その体験を思い出す。
「そういう時も……ありますね。それなら、移動するだけの体力以外は、いらないと?」
「……もし、お前がこれからも上を目指し続ける為に冒険者活動を続けるなら、大きな大きな壁にぶつかった際に走れる体力がいる」
自分より、自分たちより弱い雑魚を潰しながら生き続けるのであれば、青年の言う通り移動力だけがあれば十分。
だが、冒険者人生は、そう甘くない。
上を目指すことなど等に諦めた冒険者であっても、最悪なイレギュラーは訪れる。
上を目指し続けている、もしくはそれを諦めていない冒険者であれば、必然的にぶつかる壁……遭遇するイレギュラーの数が多くなる。
「アストさんも……まだまだ、上を目指してるんですね」
「…………そうだな」
冒険者としては、これ以上先に進むつもりはない。
ただ、バーテンダーとしてはこれから先もミーティアに訪れたお客様たちに最高の一杯を届ける為に、歩みを止めるつもりはない。
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