異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

文字の大きさ
上 下
118 / 167

第119話 優先すべきもの

しおりを挟む
「……結局、昨日は店を開けなかったな」

パーラたちと呑んで食った翌朝、アストは非常に酒臭い状態で起きた。

バーテンダーでありながら、酒豪でもあるアストは多少エールを呑んだ程度で腕が鈍ることはない。
故に、酒場で飯を食べてエールを呑んでから店を開くことは珍しくない。

しかし、先日は予想以上にパーラたちとの食事が長引いてしまい、エールも想定以上の量を呑んでしまったため、店を開かなかった。

(それじゃあ、今日の夜は開かないとな)

予想以上の量を呑んでしまったアストだが、それでも二日酔いにはなっておらず、朝食を食べ終えた後は意気揚々と冒険者ギルドへと向かった。

(ん? 昨日より視線を向けられてる様な…………ちゃちゃっと適当に選ぶか)

クエストボードの前まで行くと、決して美味しい依頼とは言えないが、報酬金額は一応適正額ではある採集依頼を発見し、確保。

(やっぱり、女性の冒険者や騎士が多いこの街では、ソロで行動している冒険者は
珍しいってことか?)

アストの考え通り、確かにこの街では男性冒険者でソロ活動をしている者は珍しい。

しかし、先日よりも向けられる視線の数が多いのは……先日、酒場でアストがパーラたちに語った内容が関係していた。

多くの女性たちが憧れる女性騎士団長に対して近づこうとする野郎たちに関して、解りやすくある程度納得出来る内容を話していた。
それでいて、アスト自身は女性騎士団長に対して、そういった思いを一切持っていないことから、同じ酒場にで食事をしていた女性冒険者たちから一目置かれるようになった。

ただ、それでも関りを持ったことがない男性に対して不用意に声を掛ける者はこの場におらず、先日楽しげに話していたパーラたちは二日酔い状態で冒険者ギルドには来ていなかった。



(注目されるっていうのは、何度体験しても慣れないものだな~~)

前世では他人と関わることが楽しいタイプだが、特別目立つ学生でもなかった。

だからこそ、今世で冒険者ギルドなどで初めて多くの視線を向けられた時は、根性で平静を装うことが出来たが、それでも心臓は破裂するんじゃないかと思う程バクバクと鼓動していた。

「まぁ、ここではあまり多くの視線を向けられないけど……それはそれで怖いって話なんだよな」

既に採集依頼を達成するため、森に入っているアスト。

モンスターとエンカウントすれば、基本的にそのまま戦闘がスタート。
狡猾さがあるモンスターであれば自身の気配を消し、奇襲を仕掛けてくる。

十八歳の時点でそれなりに戦闘経験があるアストだが、森や密林、その他のモンスターが生息している地帯では、常に一定の警戒心を持ち続けていなければ不安になる。

とはいえ……それでも若くしてCランクまで駆け上がった有望株の若手冒険者。
昼食から約一時間後には目的の果実をゲットすることに成功。

「これだけあれば、俺が食べる分も十分だな」

結局果実を狙うモンスターと交戦することになったが、無事依頼達成に必要な数の果実を手に入れた。

「そういえば……結構歩いてしまったな」

実ってはいたが、既にモンスターに食べられた後、という事が何度かあり、予定よりも奥まで来てしまった。

「……………………はぁ~~~。行くだけ行ってみるか」

アストの耳に、戦闘音と悲鳴が微かに届いた。

後で話しを聞いた時、後悔するかもしれない、目覚めが悪くなる。
こういうところが自分の、冒険者として良くないところなのだろうと思いながらも、今更過ぎるため反省するつもりはない。

そして一分ほど音と声が聞こえた場所に向かって進むと、そこには甲冑を身に纏う女性たちと多くのオーガたちがいた。

(もしかしなくても、あれがパーラたちが話していた女性騎士が所属している騎士団の者たちか)

劣勢……と言うほど押されている訳ではない。
ただ、オーガ側にはBランクモンスターであるジェネラルとグラディエーターがいた。

一方、女性騎士たちの方にもリーダーと呼べる存在はいれど、噂の女性が憧れる女性騎士団長らしき人物は見当たらない。

(前に出るだけが、仕事ではないのが辛いところか)

何はともあれ、負傷者がいてこのまま戦闘が長引けば死者が出るかもしれない、

アストは普段使っているロングソードをしまい、グリフォンの素材をメインに作られた刀……風刀を取り出し、まだオーガたちにバレてない隙をついて風の斬撃を飛ばした。

「グガっ!!??」

複数の斬撃刃が飛ばされ、一体が運良くそのまま出血多量で死亡。
他にも数体、ダメージを与えることに成功。

「勝手ながら、助太刀します」

既に攻撃してしまっているが、一応断りを入れる。

「っ!! 助かる!!!!」

男、そして冒険者は。
プライドが高い者であれば「手助けなど不要だ!!!」と折角の助っ人に対して叫び散らかしてもおかしくない。

しかし、部下たちの身を預かる隊長を任されている女性騎士はプライドを優先するのではなく、部下たちの命を優先した。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

処理中です...