異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

文字の大きさ
上 下
117 / 167

第117話 戦乙女

しおりを挟む
「……え、マジでなんでか知らないの?」

「言っただろ。俺は適当に旅をしてたら、この街に着いたんだ。この街に関して、特に調べてはいなかった」

「そ、そっか。それなら……別におかしくないのか?」

パーラたちにとっては当たり前過ぎる常識となっていたが、初めてこの街を訪れた
同業者の驚き顔は何度か見てきた。

冒険者であれば、事前に情報を得ていたとしても、実際の光景に驚くことが多い。

「この街には、ある騎士団がいるんだ」

「もしかしなくても、女性中心で構成された騎士団、なのか?」

「察しが良いな。その騎士団では、代々女性が騎士団長として活動している」

「先代の騎士団長もそれはそれは強かったですが、ここ数年で新しく団長になった方も強く、魅力的な方です」

「女性が惚れる、女性騎士?」

「なるほど…………なんとなく、イメージは浮かぶな」

伊達に旅はしておらず、女性冒険者との交流はそれなりにあり……稀に女性騎士と対面することもあり、女性が惚れるカッコイイ、凛々しい女性像をある程度イメージ出来る。

「その女性団長に憧れて、女性の戦闘者がこの街には多くいるんだな」

「そういう事!!! 前の騎士団長もそうなんだけど、今の騎士団長も冒険者で言うところのAランク冒険者並みの力があるんだよ!!!」

「ほぅ~~~~、そいつは本当に凄いな」

過去にほんの数名、Aランク冒険者とであったことがあるアスト。
そのお陰で、より騎士団長をイメージしやすくなった。

「でしょでしょ!! あと、何が凄いって言うと、その人はまだ二十代前半なんだよ!!!!」

「…………マジの戦乙女、ってところか」

アストは天才という言葉があまり好きではなかった。

なので、パーラの説明を聞いた時、「マジの怪物か」と口にしそうになったが、四人の話を聞く限り、現在の騎士団長は女性が惚れる魅力を持つ女性。

ここで馬鹿正直に怪物だと表現すれば、目の前の四人だけではなく……同じ酒場で呑んでいる多くの同業者たちから敵視されてしまう。

バーテンダーとしての経験が活きた瞬間だった。

「そうそう!! 本当にそういう感じなの!!!!」

「しっかし、そこまで全てを持ってるなら、その騎士団長さんに言い寄ろうとする男が現れるもんじゃないのか?」

次の瞬間、パーラたち四人も含め、その他の女性冒険者たちの空気がピリっとひりつく。

「……そうなんだよね~~。まだこの街で活動を始めて数年ぐらいしか経ってないんだけど、その間だけでも……何人ぐらいいたっけ?」

「直接申し込んだ愚か者は、約十名といったところか?」

「酒場や冒険者ギルドでそういった話をして、潰された方々が……五十人以上はいたでしょうか」

「無意味な事をする人が、いつもいる」

(……こ、こぇ~~~~~~~~~)

人気がある、人望がある者を何人か見てきた。
そういった者に対して敬意を越え、信仰心の様な感情を抱く者は少なくない。

「って感じで、確かに言い寄ってくる男自体はそこそこいるんだよね~~」

「そ、そうみたいだな」

周囲の女性冒険者たちが頷いているのを見れば、パーラたちが話を持っている訳ではないのが解る。

「…………それにしても、そいつらは面倒事背負いたいのか? 俺からすれば、申し訳ないがバカだと思ってしまうな」

「へぇ~~~? なんでそう思うの?」

自分たちの憧れについて知らなかった。

しかし、その憧れに近づこうとする野郎たちをバカだと言った。
当然……その真意が気になる。

「騎士団長っていうことは、貴族のご令嬢なんだろ。そんな立場ある人間とただ関わるのであればまだしも、婚約者や恋仲になろうなんて……そこに辿り着くまで、辿り着いてからも面倒事が待ってるだけだろ」

基本的には、平民の手が届く相手ではない。

貴族の令息であっても、相手が騎士団長という頂きに辿り着くほど強さと立場を持つ相手であれば、強さと立場……どちらか一つでも欠けていれば釣り合わない。

「近づこうとしても、その団長さんに敬意や信仰心を持つ人たちに阻まれる。その団長さんに対して心の底から惚れてるなら、無駄だと思えるかもしれない行動に時間を費やすならまだ解るが……ただ有名人だから、美人だからって理由で近づくのは言葉通り意味がない」

「…………あっはっは!!!! 良いね!! 良く解ってるじゃん、アスト!!」

強がっている様子は一切ない。

ただただ、本当に興味本位で団長に近づく者たちはバカだと思っている。
そう考えるアストをパーラは気に入った。

「ふふ、話しが解る男だ」

「そうですね。そこら辺の男性たちもあなたの様な思考力を身に付けてほしいところですわ」

「良い判断力」

他三人も、アストの考えを褒め称える。
それはそれで嬉しいのだが……野郎側としては、一応反論しておきたい部分があった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

(短編)いずれ追放される悪役令嬢に生まれ変わったけど、原作補正を頼りに生きます。

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約破棄からの追放される悪役令嬢に生まれ変わったと気づいて、シャーロットは王妃様の前で屁をこいた。なのに王子の婚約者になってしまう。どうやら強固な強制力が働いていて、どうあがいてもヒロインをいじめ、王子に婚約を破棄され追放……あれ、待てよ? だったら、私、その日まで不死身なのでは?

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

処理中です...