上 下
117 / 155

第117話 戦乙女

しおりを挟む
「……え、マジでなんでか知らないの?」

「言っただろ。俺は適当に旅をしてたら、この街に着いたんだ。この街に関して、特に調べてはいなかった」

「そ、そっか。それなら……別におかしくないのか?」

パーラたちにとっては当たり前過ぎる常識となっていたが、初めてこの街を訪れた
同業者の驚き顔は何度か見てきた。

冒険者であれば、事前に情報を得ていたとしても、実際の光景に驚くことが多い。

「この街には、ある騎士団がいるんだ」

「もしかしなくても、女性中心で構成された騎士団、なのか?」

「察しが良いな。その騎士団では、代々女性が騎士団長として活動している」

「先代の騎士団長もそれはそれは強かったですが、ここ数年で新しく団長になった方も強く、魅力的な方です」

「女性が惚れる、女性騎士?」

「なるほど…………なんとなく、イメージは浮かぶな」

伊達に旅はしておらず、女性冒険者との交流はそれなりにあり……稀に女性騎士と対面することもあり、女性が惚れるカッコイイ、凛々しい女性像をある程度イメージ出来る。

「その女性団長に憧れて、女性の戦闘者がこの街には多くいるんだな」

「そういう事!!! 前の騎士団長もそうなんだけど、今の騎士団長も冒険者で言うところのAランク冒険者並みの力があるんだよ!!!」

「ほぅ~~~~、そいつは本当に凄いな」

過去にほんの数名、Aランク冒険者とであったことがあるアスト。
そのお陰で、より騎士団長をイメージしやすくなった。

「でしょでしょ!! あと、何が凄いって言うと、その人はまだ二十代前半なんだよ!!!!」

「…………マジの戦乙女、ってところか」

アストは天才という言葉があまり好きではなかった。

なので、パーラの説明を聞いた時、「マジの怪物か」と口にしそうになったが、四人の話を聞く限り、現在の騎士団長は女性が惚れる魅力を持つ女性。

ここで馬鹿正直に怪物だと表現すれば、目の前の四人だけではなく……同じ酒場で呑んでいる多くの同業者たちから敵視されてしまう。

バーテンダーとしての経験が活きた瞬間だった。

「そうそう!! 本当にそういう感じなの!!!!」

「しっかし、そこまで全てを持ってるなら、その騎士団長さんに言い寄ろうとする男が現れるもんじゃないのか?」

次の瞬間、パーラたち四人も含め、その他の女性冒険者たちの空気がピリっとひりつく。

「……そうなんだよね~~。まだこの街で活動を始めて数年ぐらいしか経ってないんだけど、その間だけでも……何人ぐらいいたっけ?」

「直接申し込んだ愚か者は、約十名といったところか?」

「酒場や冒険者ギルドでそういった話をして、潰された方々が……五十人以上はいたでしょうか」

「無意味な事をする人が、いつもいる」

(……こ、こぇ~~~~~~~~~)

人気がある、人望がある者を何人か見てきた。
そういった者に対して敬意を越え、信仰心の様な感情を抱く者は少なくない。

「って感じで、確かに言い寄ってくる男自体はそこそこいるんだよね~~」

「そ、そうみたいだな」

周囲の女性冒険者たちが頷いているのを見れば、パーラたちが話を持っている訳ではないのが解る。

「…………それにしても、そいつらは面倒事背負いたいのか? 俺からすれば、申し訳ないがバカだと思ってしまうな」

「へぇ~~~? なんでそう思うの?」

自分たちの憧れについて知らなかった。

しかし、その憧れに近づこうとする野郎たちをバカだと言った。
当然……その真意が気になる。

「騎士団長っていうことは、貴族のご令嬢なんだろ。そんな立場ある人間とただ関わるのであればまだしも、婚約者や恋仲になろうなんて……そこに辿り着くまで、辿り着いてからも面倒事が待ってるだけだろ」

基本的には、平民の手が届く相手ではない。

貴族の令息であっても、相手が騎士団長という頂きに辿り着くほど強さと立場を持つ相手であれば、強さと立場……どちらか一つでも欠けていれば釣り合わない。

「近づこうとしても、その団長さんに敬意や信仰心を持つ人たちに阻まれる。その団長さんに対して心の底から惚れてるなら、無駄だと思えるかもしれない行動に時間を費やすならまだ解るが……ただ有名人だから、美人だからって理由で近づくのは言葉通り意味がない」

「…………あっはっは!!!! 良いね!! 良く解ってるじゃん、アスト!!」

強がっている様子は一切ない。

ただただ、本当に興味本位で団長に近づく者たちはバカだと思っている。
そう考えるアストをパーラは気に入った。

「ふふ、話しが解る男だ」

「そうですね。そこら辺の男性たちもあなたの様な思考力を身に付けてほしいところですわ」

「良い判断力」

他三人も、アストの考えを褒め称える。
それはそれで嬉しいのだが……野郎側としては、一応反論しておきたい部分があった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

処理中です...