107 / 148
第107話 番人なので
しおりを挟む
(っ!!!!???? い、いきなりなんだ!!!???)
「ところでマスター……ある嬢ちゃんと、喧嘩になったみたいだな」
「ある、嬢ちゃんと言いますと………………っ、ヴァレア・エルハールトさんのことですか」
何故、目の前の初老男性からアストの冒険者人生の中でトップクラスの圧が放たれたのか……納得がいった。
(ヴァレアが所属してるクランの……トップ連中と、関係のある人物なのだろうな)
冒険者とはまた違う圧である事を即座に把握したアスト。
その圧の違い、放たれる圧倒的な存在感から……一つの結論に至った。
「しらばっくれない様でなによりだ」
「しらばっくれるも何も、互いに合意の上で対決をしたまでですので。それに……その後、私は彼女からの依頼を受けました」
「ほ~~~~ん…………でもよ、マスター。世の中……そう甘くはないって事は、多分知ってるよな」
「…………」
ヴァレアは、ただの冒険者ではない。
それは実力的な意味ではなく、伯爵家の令嬢であることに加えて、王都……だけではなく、カルダール王国全体の中でもトップクラスに有名なクランに所属している冒険者は。
そんなクランの中でも有望株という認識を持たれている。
アストはそんなヴァレアを直接勝負ではないにしろ、彼女との勝負に勝った。
「……こういう時、口八丁に話題を逸らすか、それとも自分には自分なりの手札があると口にするのが一般的なのでしょう…………ですが、私はバーテンダーです」
言い終えると同時に、アストから覚悟が極まった圧が放たれた。
巡回の騎士が現場を目撃すれば、間違いなく実力者同士の喧嘩が始まると予想し、直ぐに応援を呼ぶ。
「バーテンダーとはバーの番人。そしてミーティアは俺の城。ここで暴れるのであれば……番人として、あなたを制圧します」
「ふ、ふっふっふ。小童が……生意気に言うじゃないか」
「お客様。あなたがどういった人物なのか、ある程度把握しています。だからこそ……宣言します。一方的に蹂躙出来ると思わない方が良いですよ」
虚勢、ではない。
全体的なスペックを見ても、アストが目の前の初老男性に勝てる部分は殆どない。
しかし……凶悪なモンスターとの戦闘時と同じく、命を懸けられるのであれば……一方的な戦況になることは、まずない。
(この若造……ふっふっふ、ふっふっふっふっふっふっふ。解ってはいたが、中々どうして面白いな)
初老の男も、アストが何かを隠している事に……その隠し事が、自分の首に刃を届かせる何かであることにも気付いていた。
「ふっふっふ、はっはっは!!!!!!!! いやぁ~~~~~、すまんすまん。ちょっと悪ふざけし過ぎたな」
「……全く、悪ふざけの度を越えていますよ、お客様……いえ、アルガド様」
「そこまで気付いていたか」
アルガドという名の男は、王都を拠点とする裏の組織のトップ……ギャングのボスである。
ただ、ギャングのボスとはいえ、ただ悪事万歳拍手喝采といった腐りきった存在ではなく、寧ろ義を重んじる組織のボスである。
「これまでの人生の中で、そういった人物に絡まれたことがあります。加えて、外見や存在感等から察するのに……アルガド様であると推察しました」
「一本取られた、というべきか。冷静な態度を取り続けていたのも、俺がただ圧を放っていただけだと解っていたんだな」
「正直なところ、驚かされたのは事実です。ただ、冒険者人生の中で格上の方々に試された経験が何度かありました。アルガド様が発する圧は、その方々が発していた圧と似ていましたので」
「なっはっは!!!! そこまで解ったうえで……問題無く対処出来るという態度を示したのだな」
あなた、本当は俺にどうこうする気はないんでしょ、という対応を取られてしまえば、アルガドとしてもそのつもりなので一本取られた形にはなる。
だが、アストは敢えてそこで戦るなら戦れるぞという姿勢を示した。
「伝えた通り、私はバーの番人ですので」
「バーの番人、か……そうだな。久しぶりにブルっときたよ。それだけ強いのに、冒険者としては今以上に上を目指すつもりはないんだろ」
「私の本業はバーテンダーで、冒険者は副業です。あまり嘗められたくはないという気持ちもあって、今の立場で登りましたが……これ以上は求める必要がありません。というより、求めることも出来ませんので」
「…………若いくせに、謙虚なマスターだな」
「世の中を上手く生きていくコツは、ある程度の謙虚さだと思っていますので」
そう言いながら、アストはオールドファッションド、グラスを用意し、中に氷を入れ……ウィスキーを四十五、アマレットというアーモンド風のリキュールを十五ほど注ぎ、ステアした一杯をアルガドの前に置いた。
「サービスです」
「おいおい、何か返さなきゃいけないのは俺の方だぞ」
「であれば、貸し一つということで、よろしくお願いいたします」
「……ふっふっふ。本当に、若造らしからぬ奴だ……ところで、こいつは……あれか」
「えぇ、ゴッドファーザーでございます」
琥珀色に輝くカクテルを見て、アルガドはアストに対して「本当に色々と上手い野郎だ」と思いながら味わった。
「ところでマスター……ある嬢ちゃんと、喧嘩になったみたいだな」
「ある、嬢ちゃんと言いますと………………っ、ヴァレア・エルハールトさんのことですか」
何故、目の前の初老男性からアストの冒険者人生の中でトップクラスの圧が放たれたのか……納得がいった。
(ヴァレアが所属してるクランの……トップ連中と、関係のある人物なのだろうな)
冒険者とはまた違う圧である事を即座に把握したアスト。
その圧の違い、放たれる圧倒的な存在感から……一つの結論に至った。
「しらばっくれない様でなによりだ」
「しらばっくれるも何も、互いに合意の上で対決をしたまでですので。それに……その後、私は彼女からの依頼を受けました」
「ほ~~~~ん…………でもよ、マスター。世の中……そう甘くはないって事は、多分知ってるよな」
「…………」
ヴァレアは、ただの冒険者ではない。
それは実力的な意味ではなく、伯爵家の令嬢であることに加えて、王都……だけではなく、カルダール王国全体の中でもトップクラスに有名なクランに所属している冒険者は。
そんなクランの中でも有望株という認識を持たれている。
アストはそんなヴァレアを直接勝負ではないにしろ、彼女との勝負に勝った。
「……こういう時、口八丁に話題を逸らすか、それとも自分には自分なりの手札があると口にするのが一般的なのでしょう…………ですが、私はバーテンダーです」
言い終えると同時に、アストから覚悟が極まった圧が放たれた。
巡回の騎士が現場を目撃すれば、間違いなく実力者同士の喧嘩が始まると予想し、直ぐに応援を呼ぶ。
「バーテンダーとはバーの番人。そしてミーティアは俺の城。ここで暴れるのであれば……番人として、あなたを制圧します」
「ふ、ふっふっふ。小童が……生意気に言うじゃないか」
「お客様。あなたがどういった人物なのか、ある程度把握しています。だからこそ……宣言します。一方的に蹂躙出来ると思わない方が良いですよ」
虚勢、ではない。
全体的なスペックを見ても、アストが目の前の初老男性に勝てる部分は殆どない。
しかし……凶悪なモンスターとの戦闘時と同じく、命を懸けられるのであれば……一方的な戦況になることは、まずない。
(この若造……ふっふっふ、ふっふっふっふっふっふっふ。解ってはいたが、中々どうして面白いな)
初老の男も、アストが何かを隠している事に……その隠し事が、自分の首に刃を届かせる何かであることにも気付いていた。
「ふっふっふ、はっはっは!!!!!!!! いやぁ~~~~~、すまんすまん。ちょっと悪ふざけし過ぎたな」
「……全く、悪ふざけの度を越えていますよ、お客様……いえ、アルガド様」
「そこまで気付いていたか」
アルガドという名の男は、王都を拠点とする裏の組織のトップ……ギャングのボスである。
ただ、ギャングのボスとはいえ、ただ悪事万歳拍手喝采といった腐りきった存在ではなく、寧ろ義を重んじる組織のボスである。
「これまでの人生の中で、そういった人物に絡まれたことがあります。加えて、外見や存在感等から察するのに……アルガド様であると推察しました」
「一本取られた、というべきか。冷静な態度を取り続けていたのも、俺がただ圧を放っていただけだと解っていたんだな」
「正直なところ、驚かされたのは事実です。ただ、冒険者人生の中で格上の方々に試された経験が何度かありました。アルガド様が発する圧は、その方々が発していた圧と似ていましたので」
「なっはっは!!!! そこまで解ったうえで……問題無く対処出来るという態度を示したのだな」
あなた、本当は俺にどうこうする気はないんでしょ、という対応を取られてしまえば、アルガドとしてもそのつもりなので一本取られた形にはなる。
だが、アストは敢えてそこで戦るなら戦れるぞという姿勢を示した。
「伝えた通り、私はバーの番人ですので」
「バーの番人、か……そうだな。久しぶりにブルっときたよ。それだけ強いのに、冒険者としては今以上に上を目指すつもりはないんだろ」
「私の本業はバーテンダーで、冒険者は副業です。あまり嘗められたくはないという気持ちもあって、今の立場で登りましたが……これ以上は求める必要がありません。というより、求めることも出来ませんので」
「…………若いくせに、謙虚なマスターだな」
「世の中を上手く生きていくコツは、ある程度の謙虚さだと思っていますので」
そう言いながら、アストはオールドファッションド、グラスを用意し、中に氷を入れ……ウィスキーを四十五、アマレットというアーモンド風のリキュールを十五ほど注ぎ、ステアした一杯をアルガドの前に置いた。
「サービスです」
「おいおい、何か返さなきゃいけないのは俺の方だぞ」
「であれば、貸し一つということで、よろしくお願いいたします」
「……ふっふっふ。本当に、若造らしからぬ奴だ……ところで、こいつは……あれか」
「えぇ、ゴッドファーザーでございます」
琥珀色に輝くカクテルを見て、アルガドはアストに対して「本当に色々と上手い野郎だ」と思いながら味わった。
273
お気に入りに追加
715
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
連帯責任って知ってる?
よもぎ
ファンタジー
第一王子は本来の婚約者とは別の令嬢を愛し、彼女と結ばれんとしてとある夜会で婚約破棄を宣言した。その宣言は大騒動となり、王子は王子宮へ謹慎の身となる。そんな彼に同じ乳母に育てられた、乳母の本来の娘が訪ねてきて――
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。
【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇
藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。
トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。
会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる