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第99話 退屈しない
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「……少し、お酒の匂いがするのだけど」
「昨日、店を開いていたから、そのせいかもしれませんね」
翌日、宿の食堂に降りて朝食を頼む二人。
先日……夕食時に、確かに二人とも酒を呑んだ。
しかし、しっかりと風呂に入り……残り過ぎない程度に量も調整していた。
故に、ヴァレアから酒の匂いは全くしない。
「…………はぁ~~~~~。亜空間にしまっているのだったわね」
「あぁ、その通りだ」
「……今日から探索というのは、覚えていたのかしら」
「勿論覚えている。安心してくれ、夜店を開いた翌日に仕事を行ったことは何度もある。それに、六時間も寝れば疲れを取るには十分だ」
前世でアスト(錬)はバイト先のバーで閉店まで働き、通っている大学の一限目に間に合わせる為に早起きすることは珍しくなかった。
忘れてたレポートをなんとか完成させる為に徹夜して作業することも珍しくなく、六時間も寝れば十分全快状態になれる。
「そ、そうなのね。それは何よりだけど…………移動式のバー屋台? で、儲けは出てるのかしら」
「気になりますか?」
「あなたは冒険者として活動しながらバーテンダーとしても活動してる稀有な存在よ。当然、そういった部分も気になるに決まってるでしょう」
「それもそうか。別にバーの儲けはそこまでない。利益は最低限に抑えている。赤字にはなってないが、そこまでもろ手を上げて黒字とは言えないかな」
「それじゃあ………………なるほど、そういう事ね」
既に貴族の世界から離れて何年も経っている。
しかし、政治……商売に関するあれこれの知識は、まだ残っていた。
「だから、わざわざ街から街へ移動してるのね」
「ご明察通りだ。訳あって、俺はそこまで利益を重視しなくてもやっていけるからな」
アストの場合、一度店に訪れた客はカクテルの美味さや安さだけではなく、同じく低価格で食べられる料理の虜になることが多い。
それもあって、アストが一つの街で長く店を開き続ければ……とりあえず恨みは買ってしまう。
「冒険者関連以外でも苦労してるのね」
「元々旅をしながらのスタイルが良いと思っていたから、そこまで苦労はしてないよ」
他愛もない会話をしながら朝食を食べ終え、二人は予定通り烈風竜を探しに向かう。
「そういえば、昨日の夜に客として訪れた冒険者に聞いたんだが、烈風竜はどうやら狩人の面もあるらしい」
「スピードを活かし、遠距離から迫りくると」
「超接近されて切り裂かれた、それともパクリと食べられたか……姿を確認出来た
冒険者も多くないとのことだ」
「……これまでの冒険の中でも、最大限の警戒をしながら探索する必要がありそうね」
それがドラゴンの戦い方なのかと思いはしたものの、ヴァレアは即座に侮りの気持ちを消した。
ドラゴンは……強い。
亜竜と呼ばれるワイバーン、地を這う亜竜と呼ばれるリザードですらCランクモンスター……ルーキーであれば基本的に確殺され、ある程度経験がある冒険者であっても、対応をミスすれば逃走すら出来ず……殺されてしまう。
強ければ倒し方に拘る必要はない。
それが絶対的な強者の特権とも言える。
「私としては、手の届く範囲に倒せば最高の素材になるドラゴンがいるのは非常に有難い……しかし、何故烈風竜ほどのドラゴンが、こういった場所にいると思う」
世間話であり、特別なたくらみはない。
ただ、ヴァレアはアストの事を認めていた。
副業と言いながらも、冒険者として成功していると言っても過言ではない。
そして本業のバーテンダーとしての仕事も継続的に行っている。
それだけでも普通ではないが、こうして色々と会話を重ね……諸々の意味も含めて、一般的な冒険者とは違うと感じた。
どこにでもいる貴族の令息たちよりも高い知性を持っており、隣に居て退屈しない男。
それがヴァレアのアストに対する評価だった。
「何故ここにいる、か…………ドラゴンという生物が何を考えて生きてるか解らないが、基本的に生きやすい場所を選んで生息域を変えているだろうな」
「生きやすい場所……」
「生物のピラミッドの頂点に君臨するドラゴンだが、それでも全てのドラゴンが他の生物全てに喧嘩上等なスタイルで挑めるわけではない」
これまでアストが出会ってきた者たちの中で、単騎でもBランクドラゴンと戦える……もしくは勝利を収められるであろう人物は、少なくとも五人以上いる。
可能性を秘めている者も含めれば、更に数は増える。
「とはいえ、それでもドラゴンとして生まれた生物としてのプライドがあるからか……狩り、勝利という体験を定期的に得ておきたい……のかもしれない」
「…………己が強者であると、実感したいという事ですね」
「俺の勝手な推測ですが、生き残り続ける為には、ある程度己に対するプライド、自信が必要です。それは人間に限らず、モンスターも生存本能がある以上、似たり寄ったりな部分はあるかと」
(種として、生きる者としての本能的な部分、か)
では、生存本能を無視する個体の特徴とは…………と、問う前に最初の襲撃者が訪れた。
「昨日、店を開いていたから、そのせいかもしれませんね」
翌日、宿の食堂に降りて朝食を頼む二人。
先日……夕食時に、確かに二人とも酒を呑んだ。
しかし、しっかりと風呂に入り……残り過ぎない程度に量も調整していた。
故に、ヴァレアから酒の匂いは全くしない。
「…………はぁ~~~~~。亜空間にしまっているのだったわね」
「あぁ、その通りだ」
「……今日から探索というのは、覚えていたのかしら」
「勿論覚えている。安心してくれ、夜店を開いた翌日に仕事を行ったことは何度もある。それに、六時間も寝れば疲れを取るには十分だ」
前世でアスト(錬)はバイト先のバーで閉店まで働き、通っている大学の一限目に間に合わせる為に早起きすることは珍しくなかった。
忘れてたレポートをなんとか完成させる為に徹夜して作業することも珍しくなく、六時間も寝れば十分全快状態になれる。
「そ、そうなのね。それは何よりだけど…………移動式のバー屋台? で、儲けは出てるのかしら」
「気になりますか?」
「あなたは冒険者として活動しながらバーテンダーとしても活動してる稀有な存在よ。当然、そういった部分も気になるに決まってるでしょう」
「それもそうか。別にバーの儲けはそこまでない。利益は最低限に抑えている。赤字にはなってないが、そこまでもろ手を上げて黒字とは言えないかな」
「それじゃあ………………なるほど、そういう事ね」
既に貴族の世界から離れて何年も経っている。
しかし、政治……商売に関するあれこれの知識は、まだ残っていた。
「だから、わざわざ街から街へ移動してるのね」
「ご明察通りだ。訳あって、俺はそこまで利益を重視しなくてもやっていけるからな」
アストの場合、一度店に訪れた客はカクテルの美味さや安さだけではなく、同じく低価格で食べられる料理の虜になることが多い。
それもあって、アストが一つの街で長く店を開き続ければ……とりあえず恨みは買ってしまう。
「冒険者関連以外でも苦労してるのね」
「元々旅をしながらのスタイルが良いと思っていたから、そこまで苦労はしてないよ」
他愛もない会話をしながら朝食を食べ終え、二人は予定通り烈風竜を探しに向かう。
「そういえば、昨日の夜に客として訪れた冒険者に聞いたんだが、烈風竜はどうやら狩人の面もあるらしい」
「スピードを活かし、遠距離から迫りくると」
「超接近されて切り裂かれた、それともパクリと食べられたか……姿を確認出来た
冒険者も多くないとのことだ」
「……これまでの冒険の中でも、最大限の警戒をしながら探索する必要がありそうね」
それがドラゴンの戦い方なのかと思いはしたものの、ヴァレアは即座に侮りの気持ちを消した。
ドラゴンは……強い。
亜竜と呼ばれるワイバーン、地を這う亜竜と呼ばれるリザードですらCランクモンスター……ルーキーであれば基本的に確殺され、ある程度経験がある冒険者であっても、対応をミスすれば逃走すら出来ず……殺されてしまう。
強ければ倒し方に拘る必要はない。
それが絶対的な強者の特権とも言える。
「私としては、手の届く範囲に倒せば最高の素材になるドラゴンがいるのは非常に有難い……しかし、何故烈風竜ほどのドラゴンが、こういった場所にいると思う」
世間話であり、特別なたくらみはない。
ただ、ヴァレアはアストの事を認めていた。
副業と言いながらも、冒険者として成功していると言っても過言ではない。
そして本業のバーテンダーとしての仕事も継続的に行っている。
それだけでも普通ではないが、こうして色々と会話を重ね……諸々の意味も含めて、一般的な冒険者とは違うと感じた。
どこにでもいる貴族の令息たちよりも高い知性を持っており、隣に居て退屈しない男。
それがヴァレアのアストに対する評価だった。
「何故ここにいる、か…………ドラゴンという生物が何を考えて生きてるか解らないが、基本的に生きやすい場所を選んで生息域を変えているだろうな」
「生きやすい場所……」
「生物のピラミッドの頂点に君臨するドラゴンだが、それでも全てのドラゴンが他の生物全てに喧嘩上等なスタイルで挑めるわけではない」
これまでアストが出会ってきた者たちの中で、単騎でもBランクドラゴンと戦える……もしくは勝利を収められるであろう人物は、少なくとも五人以上いる。
可能性を秘めている者も含めれば、更に数は増える。
「とはいえ、それでもドラゴンとして生まれた生物としてのプライドがあるからか……狩り、勝利という体験を定期的に得ておきたい……のかもしれない」
「…………己が強者であると、実感したいという事ですね」
「俺の勝手な推測ですが、生き残り続ける為には、ある程度己に対するプライド、自信が必要です。それは人間に限らず、モンスターも生存本能がある以上、似たり寄ったりな部分はあるかと」
(種として、生きる者としての本能的な部分、か)
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