異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

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第87話 勿論、タダ

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「ぶはっはっは!!!!! 小僧、やるじゃねぇか。普通じゃねぇとは思ってたが、小娘との勝負に勝つために走って走って走りまくるとはよ!!」

一仕事を終えて店にやって来たベルダーはグリフォンの素材、樽一杯の漆黒石を確認した後、どうやってこの短期間の間でこれらを用意したのか尋ねた。

「やっぱり、何かが懸かってる勝負となると、負けられない気持ちが湧き上がると言いますか」

「良いじゃねぇか。それが冒険者ってもんだろ」

アストは自分の力で、あるいは自分の力を間接的に通して手に入れたという証明書も提出。
ベルダーはその一部を呼んでいる時に爆笑。
やはり目の前の小僧には冒険者としての高い素質があると重いながら、特殊なショーケースにしまってある大斧と刀を取り出す。

「約束通り、こっちの大斧と刀をお前に売ってやる」

「ありがとうございます」

「頭は下げんでいい。元はと言えば、俺のミスでもある。だから、そうだな……勿論、こいつらは適正価格で買ってもらうが……どうだ、ここにある素材をメインに使って、一本刀を造ってやるよ」

「タダで、ということですか?」

「おうよ、当たり前だろ」

アストは特に必要ないという理由で、ほぼ万全状態の翼までそのまま渡した。
漆黒石も十分の三しかない余りも、全てベルダーにあげた。

ベルダーの鍛冶場、店にとって十分過ぎる利益ということもあり、親方としては一つ何かアストに礼を渡したかった。

「分かりました。是非、頂きます」

「っし、楽しみに待ってろ、小僧」

出来上がったら泊っている宿に報告を寄越すと伝えられ、アストは出来上がるまで王都に滞在することになった。

その間、折角の機会ということもあり、王都の冒険者ギルドの訓練場で訓練を行ったり、前回と同じく夕食後にバーを開いたりといった日々を送っていた。

当然ながらというべきか……夜中に屋台のバーが開いているという話は割と直ぐに広まり、再び王族を相手にすることもあった。

「店主、いつまで王都に居られるのかな?」

「実は、今とある鍛冶師に武器を造ってもらってまして。それが終われば、再びあちらこちらへと旅をしようかと」

「ふむ……そうか。では、出来れば店主よ。王都を出発する前に、一度だけ息子の相手をしてやってくれないか」

ここで言う息子、とはいったい誰の事なのか、解らないアストではない。

「勿論、周囲にそれらがバレないように手はずを整え、報酬も用意する」

「かしこまりました」

断れる立場ではないというのもあるが、アストとしては相手をする方がマティアスであれば、そこまで気負わなくても良いのは非常に有難い。


「よろしくお願いします!!!」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

二日後、国王陛下が用意した訓練場でマティアスと再会。

準備運動を終えた後、早速模擬戦を開始。
アストに対して敬意を抱いているマティアスだが、敬意を抱いている相手だからこそ、純粋に勝ちたいという思いがある。

「それでは、始め!!!」

戦闘メイドの掛け声と共に、模擬戦がスタート。

アストが木剣に対し、マティアスは木製の細剣。

「ッ!!!」

「っ、っと、っ」

歳が離れている、という事だけが理由ではなく、諸々含めてマティアスはアストの事が格上だと認めている。

だからこそ、初手から遠慮なしの突きが何度も繰り返される。

(細剣の類は、こういった突きが厄介なんだけど、マティアス様はやはり飛び抜けてるな……今はまだ及ばないけど、将来的にはカイン様に届くだろうな)

アストがこれまで出会って来た同世代の中で、技量に関しては確実に自分よりも勝っていると感じた人物の一人、カイン・ルナリアス。

イケメン青マッシュ令息に並ぶ腕、才があると感じ……無意識に笑みを零しながら攻撃を受け流し、攻めへと転じる。

「っ!!??」

アストの実力を決して嘗めていた訳ではない。
格上なのだと認めてはいたが、こうも簡単に戦況を覆され、防御一辺倒を強いられるとは思っておらず、マティアスの表情に焦りが浮かぶ。

「はぁ、はぁ、はぁ」

「では、少し休憩を挟みましょうか」

「は、はい」

結果、一度目の模擬戦はアストがマティアスの攻撃を全て受け切っての圧勝。

「アストさん、先程の戦いで、私の駄目なところは、どこだったでしょうか」

「えっとですね……」

チラッと戦闘メイドや、一応待機している護衛騎士たちに視線を送り……許可を貰ってからアドバイスを送る。

「先程の戦いは模擬戦でした。ただ、仮に本気で格上の相手に勝ちたいと望むのであれば、奇手を用意しておくのが一番かと」

「奇手、ですか」

「その通りです。勿論、立場的に好ましくない手段かと思われます。ただ、いつどこで必ず勝たなければならない場面が訪れるか分かりません。なので、いざという時に使い慣れておくのは大事かと」

アストのアドバイスに、マティアスは王族としてほんの少し思うところはあったが、格上に勝つというのはそういう事なのだと……素直に受け入れた。


そして数日後……再度、マティアスからもう一度だけ指導をしてほしい!!! といった頼みが舞い込んできたのではなく、また別の問題が訪れた。
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