上 下
86 / 167

第86話 個人的な礼

しおりを挟む
「店主。俺から、あなたに個人的な礼をしたい」

「個人的な礼、ですか」

「そうだ。あなたは自分の行動をあまり評価していない様だが、それでも勇気を出して得た結果であることに変わりはない」

アストが超謙虚であることを把握した上で、それでも自分はお前に礼がしたいのだと伝える。

そんなレブロの考えが解らないほどアストは鈍くなく、ピザに使う野菜を切りながら考え……そもそもな話、自分がコルバ鉱山に何をしに来たのかを思い出した。

「でしたら、樽一杯分の漆黒石を頂いても良いでしょうか」

「漆黒石か。分かった……しかし、一杯分で良いのか?」

「えぇ、樽一杯分で大丈夫です。ただ」

レブロに漆黒石を礼として渡す経緯を手紙に記してもらい、スルパーのギルドマスターのサインも頂きたいと頼んだ。

「では、明日の夕方までには手紙を届けよう」

「ありがとうございます」

必要な漆黒石が一気に手に入り、心の中でガッツポーズを取る。

その後、夕食も出来上がり、追加でカクテルを注文する二人は徐々にテンションが高くなっていき……互いの恥ずかしかった過去など、惜しむことなく話し始めた。

そんな光景を見て、アストはニコニコと笑顔を浮かべながら……二人の許容量ギリギリを見極め、切り上げさせた。


「アストさ~ん。お届け物ですよ~~」

「はい、ありがとうございます」

後日、レブロの宣言通り夕方前には樽一杯に入った漆黒石と、人肉大好きアイアンイーターの討伐をサポートしたからという内容証明書が到着。

「……さすがに明日から向かうか」

今回の採掘は、ただプライベートで訪れただけではなく、武器の購入を賭けた同業者との勝負。

その為、王都に到着してベルダーの店に到着するまで気は抜けない。
ただ……既に日が落ち始めており、今から街を出て出発するのはいくらなんでも危険過ぎる。

その日は仕事もせずぐっすり寝て休み、翌朝二度寝をグッと堪えて朝食を食べ、即出発。

「ぃよし! 走るぞ!!!!」

気合を入れてダッシュ。
猛ダッシュしたいところだが、ペース配分が考えられない程、焦りで埋め尽くされてはないかった。

そして王都に到着するまでの数日間……走って走って走って休憩して走って走って走って休憩してを繰り返し、同業者が聞けばバカだろとそうツッコみされる早さで王都に到着。

「ジースさん! ベルダーさん! いますか!!!」

王都に到着するや否や、通行人の邪魔にならない速さで歩き、ゴールにであるベルダーの店に着いた。

「あっ、アストさん。どうも……って、もしかしてその……も、もう親方が提示した条件を、クリアしたんですか?」

「はい。無事、条件をクリア出来ました」

店内に人がいないということもあり、アストはその場でグリフォンの素材の一部や樽一杯に入った漆黒石を取り出した。

「こ、こいつはグリフォンの魔石に、骨……ず、随分と綺麗な状態の翼……装飾は専門外ですけど、この状態なら非常に高く買い取られるかと。あれ、目玉はないんですか?」

「グリフォンを倒すときに、こう……結果として顔を潰してしまって」

「なるほど。随分ワイルドな倒し方ですね。それなら仕方ありませんが、何はともあれ、この勝負はアストさんの勝ちですね」

ベルダーが初めて色々と確認して勝敗が決まるのだが、ジースはまだ礼の小娘……ヴァレア・エルハールトが店に到着してないため、勝敗は決まったも同然だった。

「それにしても、とんでもない早さですね。何か特殊なマジックアイテムでも使用したんですか?」

「一応マジックアイテムは使いました。ただ、使ったのは体力強化と脚力強化のマジックアイテムだけです」

「それって……えっ、マジですか」

ジースは使用したマジックアイテムのラインナップを聞き、直ぐにもしやという考えが浮かんだ。

「はい、マジです」

そしてアストはその通りだと即答。

「…………その、アストさんはいったいどこまで移動したんですか?」

「コルバ鉱山があるスルパーに行きました」

「コルバ鉱山か。その間にBランクのモンスター、グリフォンを討伐した時間を入れて……ちなみに、グリフォンは何日で討伐されましたか?」

「頑張って一日で終わらせました」

「い、一日で、ですか」

最初からアストの事を、そこら辺の全く面白味もない冒険者とは一味違うと見抜いていたジース。

しかし、ベルダーが提示した条件をクリアした内容を聞く限り……自分の予想を大幅に超える大物だった事に驚きを隠せない。

「いやぁ~~~……なんと言いますか、お疲れ様です」

「どうも」

グリフォンを一日で討伐したが、ブレイブ・ブルを使ったとはいえ、アストは決してBランクモンスターを嘗めておらず、常に恐ろしさを抱いてる。

漆黒石に関しては結果として人肉大好きアイアンイーターの討伐サポートを行った事で間接的に樽一杯分を手に入れたが、あのまま採掘だけで手に入れようとしていれば……もう数日、五日以上掛かっていた可能性は十分にあった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...