異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

文字の大きさ
上 下
81 / 167

第81話 今じゃ、今じゃない

しおりを挟む
(まぁ、実際のところ難しいだろうなぁ……)

閉店後、宿に戻る途中……次期当主と酒呑み友達である男からの会話内容を思い出すアスト。

(あぁいう人のダチってことは、多分次期当主さんはそれなりに良い性格をしてると考えると……やっぱり、あの人が人肉大好きアイアンイーターに挑んで亡くなった知れば、悲しむだろうな)

知人が死ぬ。
冒険者の世界では、いつ誰が何処で死んでもおかしくないが、だからといって泣くなた者の友人や知人が悲しまないわけではない。

アストも過去にそれを経験したことがある。

(それでも……あの人には、あの人なりのプライドというか、ダチの為に……って心があるのも、間違いない)

何が正解とは言えない。

自分はバーテンダー……教師でなければ、神でもない。
絶対と言える答えを伝える必要はなく、そんな答えを簡単に思いつくこともない。

(……正解はなさそうだな)

どれだけ多くの者が考えたところで、絶対と言える答えが見つからない問題。
それだけ、心に関する問題には答えが出せない。

そういった部分まで理解出来るアストであっても……わざわざ、彼らが傷付かずに済むように、自分が人肉を好むアイアンイーターを討伐しよう、とはならない。

先程Cランクの男に伝えた通り、これからまだまだ多くの客たちと巡り会い、カクテルを……料理を提供し、他愛もない会話をしたい。

(別に貧乏な街ではないんだ。俺が気にする必要はないだろう)

そう……アストが気にしなければならない事は、もし人肉大好きアイアンイーターに漆黒石まで食い尽くされないか。
心配しなければならないのはそこである。


翌日、まだ体に疲れが僅かに残っているが、無視して朝からコルバ鉱山に直行。

「こういう時、ドワーフや土の精霊と仲が良いエルフやハーフエルフが羨ましいぜ」

ぶつくさと愚痴を吐きながら、適当なポイントで止まり、ツルハシを振り下ろす。

「ん?」

十数回振り下ろしたことで、僅かな輝きが眼に入り込む。

(鉱石……ではない、か?)

鉱石の中でも輝きを持つ鉱石も存在するが、これまで見てきた輝きと一致しない。

「ふんっ! よっ、ふん!!! …………今じゃない、って感じだな」

姿を現したのはエメラルド。

拳一つ分……より二回りほど小さくはあるが、それでも決して悪くないサイズであり、普段のアストであればちょっと良い店でご飯を食べようといった気分になるが……今じゃない感が強い。

「…………それじゃあ、駄目なんだよな~」

発見したエメラルドを売りさばき、手元に入った金で漆黒石を購入。
今現在、コルバ鉱山に入山する者が少なくなっている為、普段よりも割高になってはいるが……手に入れたエメラルドを全て売却し、手に入れた金を全て使えば、必要な分の漆黒石は購入出来る。

しかし、それはベルダーが定めたルールに反する。

(今日、明日探して見つからなかったら、良いポイントを見つけられそうな同業者でも雇うか)

一緒にパーティーを組む、雇う……どちらの形にせよ、分け前や報酬といった形で金を取られる。

基本的には一人で活動するのに問題無いアストだが、必要であれば金を惜しまない。

「っと……もしかしなくても、例のアイアンイーターが通った後、か…………倒せるもんなら、倒した方が良いんだろうなぁ」

人の手が介入した鉱山内は、基本的に人が通りやすいように……落盤しないように掘られている。

だが、アイアンイーターはそんな人間の事情など関係無く、縦横無尽に動き回るため、ところどころで道が途切れている場合が多い。

(…………Cランク冒険者として、一人前のランクと言われる域に達してる者としては情けないんだろうけど、やっぱりあれと同じと思うと……腰が引けるな)

やはり人肉大好きアイアンイーターとは出会いたくないと思いながら今日も今日とてツルハシを振るうが……結果、アストとしては惨敗。


(ただの鉄鉱石とかだけじゃなくて、割と良い感じの鉱石も採れるのに……なんで、漆黒石はこんなちょびっとしか)

用意していた樽の中には、まだ十分の二程度の漆黒石しか溜まっていなかった。

(明日も頑張って無理なら、マジで雇おう……雇われてくれるか解らないけど)

必要ない鉱石やエメラルドなどの宝石を売る為にギルドに寄るも、まだ雰囲気はお通夜状態。
人肉大好きアイアンイーターは討伐されておらず……最悪、誰かが食われたのかもしれない。

(ん? あれは……昨日の?)

適当に今晩食べる店を探していると、武器屋に入っていく先日の客を発見。

(メイン武器が折れたのかな)

同業者ではあるが、特に親しい関係ではなく、声を掛ける理由もなかった為、アストはそのままここだ! っと思える店を発見するまで歩き続けた。

だが、翌日……鉱山内で昼食を食べ終えてから約一時間後、嫌な音がアストの耳に入り込む。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

『完結済』ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...