異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai

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第77話 やはり冒険者だ

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(今日の仕事が終わったことを考えれば、別に構わないか)

現在、アストは多くの同業者たちからエールと料理をご馳走されていた。

普段のカクテル作り、料理作りに疲れを感じているわけではない。
ただ……他人に奢られ、ご馳走になる酒は……料理は、それはそれで美味いのだ。

「おぅおぅ、呑んでるか兄ちゃん!!!!」

「えぇ、勿論呑んでますよ。先輩たちの奢りですしね」

「はっはっは!! 良いぞ、じゃんじゃん呑んでくれ!!!」

アストに肩を組んで来た男は、初めてギルド内で声を掛けてきたポールアックスニキ。
彼もアストに酒や料理を奢っているうちの一人だった。

「そういえばよ、あのクソヤバいグリフォンをどうやって倒したんだよ」

既に出来上がっていることもあり、遠慮なくぶっこんで尋ねる。

「特に凄いことはしてませんよ。グリフォンの巣で標的が帰ってくるまで待って、帰ってくる気配を感じたら準備を始めて、グリフォンが到着した同時に攻撃を仕掛ける。真正面から戦った訳ではないので、精神が削られることなく短時間で倒せました」

策を弄した、真正面からは戦ってない。
冒険者ではなく、狩人として戦ったと言いたげな言葉だが……同業者たちの中で、それに関してあれこれ水を差そうとしてくる者は誰もいなかった。

そうやってあれこれ考えて策を用意したところで、容易に倒せる相手ではないと解っているから。

中には本当にアストが一人で倒したのかと、強い野心を持っている者たちは疑心の眼を向けていたが……宴の空気を壊すことはなく、ただ疑心の眼を向けているだけ。

多くのベテラン冒険者たちが上機嫌に祝い、アストに関わっていることもあり、もし彼の功績を疑おうものなら返り討ちにされるのが解り切っていた。

「謙虚な奴だな~~。あの怪物を一人でぶっ倒したんだろ。もうちょい偉ぶっても良いんだぜ」

「個人的には、先輩たちにそうやって褒めてもらえるだけで嬉しいので」

冒険者の中には中々いない、稀に見る好青年。

そんな印象を受けたベテラン達は……例に漏れず、アストが実は貴族の令息だと軽く疑った。

「まっ、どう思うかはそいつ次第か。アストは……騎士になったりすんのが目的なんか?」

どうしてもソロでBランクのモンスターを倒そうとしていた。
そんなアストの目的を知っていた為、ポールアックスニキは冒険者として功績立てて騎士になろうとしているのではと予想したが、本人はそれを笑って、速攻で否定した。

「いやいや、そんな目的は欠片もありませんよ」

「そうなんか? でも、一人でグリフォンを倒すのに拘ってたみてぇに見えたけど」

「えっとですね……成り行きで、他の冒険者と勝負する流れになったんですよ。なので、一人で倒すことに拘ってました」

「ほぅ、勝負か……勝負か……はっはっは!!! そんなら、仕方ねぇな!!!」

優男でザ・好青年な態度を取り続けるうちには、何かしらの勝負に勝ちたいという熱が宿っていた。

やはりこいつは冒険者だと思い、周囲の同業者たちを笑いながらその熱を称え、更にアルコールをぶち込んでいく。

結果……ベテラン、ルーキー関係無しに、ギルドの酒場で呑んでいた冒険者たちはぶっ潰れることになった。
ただ一人、アストを除いて。

「さて、行きますか」

全員が椅子に、テーブルに、床に倒れてへべれげになった後、アストはただ一人自分の足で宿へと向かい、爆睡。

そして翌日には次の目的地へと向かった。
勿論、強化効果が付与されたマジックアイテムを装備し、走ってである。

大量のエール? ドワーフたちの様にそんな物は美味い水だとは言わないが、それでも共に酔い潰れるまで呑もうとした相手には……もしかしてハーフドワーフじゃないのか? と疑われるほど、アルコール耐性が強い。

多少の頭痛は感じるものの、よほどの強敵との戦闘が起こらない限り、問題にはならない。

(次は漆黒石だが……普通に採掘して終わりたいものだ)

アストの経験上、あまり採掘目的で何処かに訪れた際、それだけで済んだ経験は殆どない。
どれも大事件と言える内容の何かに巻き込まれるほどではないが、用心するのに越したことはないと、これまでの経験から良く理解している。

「ん? あれは…………見捨てるのは、目覚めが悪くなるな」

道中、街に到着する前に盗賊に襲われている馬車を発見。
護衛の冒険者たちはいるものの、盗賊の数の方が多い。

(ここら辺で襲ってきたのはゴブリンとコボルトだけだっから、護衛代をケチったってところか)

なんて事を考えながら、トップスピードに乗ったまま駆け、盗賊を一人……そのまま蹴っ飛ばした。

「ぐぼァ!!??」

「っ!? 誰だてべ」

盗賊たちの質問に答えることはなく、護衛していた冒険者が呆気に取られるのも無視し、一人だけを残して盗賊たちの息の根を止めた。

「っし。おい、あなた達の中で死んだ人はいるか」

「いや、いない。あんたが、来てくれたお陰で、なんとかな」

「そうか。それじゃあ、こいつは尋問してアジトの情報を吐かせても良いし、面倒ならここで殺しても良い。転がってる奴らの装備もあんたらの好きにしてくれ。じゃあな」

「あ、ちょまっ!!!」

まだしっかりとお礼の言葉を伝えられていない冒険者たちのリーダーと商人の男性は待ってくれと声に出すが、通りすがりの猛者の背中は、あっという間に見えなくなってしまった。

そんなアストの背を見て、冒険者たちや商人たちは大なり小なり敬意の念を持つも……本人としては、たださっさと目的地に着きたいので、盗賊の装備品やアジト云々に口を出さなかっただけだった。
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