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第63話 確信に変わる

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「美味かったぜ、兄ちゃん。また来るぜ」

「ありがとうございます。是非、お待ちしています」

王都に着いてから三日後、アストの城であるミーティアには細々とではあるが、客は訪れていた。

加えて使う金の量が割と多く、利益はあまり重視してないメニューであっても、悪くない金額がアストの懐に入っていた。

(前の街でもそれなりに滞在してたけど、王都でもそれなりに滞在しても良いかな)

小さな笑みを浮かべながらグラスを拭いていると、また一人……新たな客が訪れた。

「やぁ、まだ店は開いているかな」

「っ、えぇ……勿論です。どうぞ、おかけになってください」

訪れた人物は……初老のような男性と、体格の良い三十代半ばの男性。
王都では始めて会う客だが、アストは初老の男性に見覚えがあった。

「……お客様、もしや以前、私の店に来店されたことが?」

「ふっふっふ、覚えていてくれたのか。こんなおっさんを覚えてくれているとは、嬉しいね」

(こ、この人……ぜ、絶対に楽しんでるだろ)

変装をしたとしても、隠せないものはある。
本人がそれを隠そうとしても、気付く者は気付いていしまう。

そしてアストは、それに気付けてしまう人間だった。

「……お客様、私が感じた答えが合っている、と思ってもよろしいでしょうか」

「はっはっは!! うむ、認めよう。店主の考えている通りだ」

初老の客がアストの考えたを認めたことに、同席している三十代半ばの男性を大きくため息を吐いた。

男性の正体は……カルダール王国の現国王、ラムスである。
加えて、今回マティアスの護衛にアストを推薦した人物でもある。

「店主が私を覚えている様に、私も店主の事を覚えていた」

「誠に光栄です」

「副業と言いながらも、割と冒険者のメンタルを有している店主には迷惑かもしれぬと思ったが、頼みたくなってな」

「それに関しても、光栄です」

お通しを作りながら、アストは苦笑いを零す。

強くなる為に、冒険者として活動する為に努力を積み重ねてきた日々が、確かにある。
そこにプライドがないかと言えば……嘘になる。
故に、冒険者としての実力等が認められたのは、素直に嬉しかった。

「お通しです」

「……ふふふ、相変わらず吞む前の前菜とは思えぬな」

本日アストが用意していたお通しは野菜スープ。
ただ各種野菜を煮込んだだけではなく、しっかりと味付けがされたスープであり、二人とも満足気な表情を浮かべる。

「さてさて、そろそろメニューを頼まねばな」

ラムスは前回訪れた時に注文したメニューを覚えており、今日は以前食べなかった、吞まなかった物……逆に以前食べて呑んで美味いと感じた物、両方を頼もうと考えていた。

そして数分後、アストは注文を受けたカクテルと料理を作り始めた。

「店主よ、護衛中は息子が本当に世話になったな」

「いえいえ、そんな事は」

「誰かと出会い、それをあれ程楽しそうに話すのは初めて見た」

そこまで言われてしまうと、アストとしてもそんな事はないと言えなかった。

「店主、これはおっさんの戯言だと思って聞き流してもらって構わない。ただ……私はお主に、子供たちの教育を頼みたい……そう思うほど、評価している」

「…………身に余るお言葉です。死ぬまで、身内に自慢できます」

教育を頼む、つまりラムスはアストを王子や王女たちの家庭教師にしたいと思うほど評価しているということになる。

この過大評価過ぎると思われる内容に対し、同じく変装をしている近衛騎士の男性は……マティアスの護衛を行った騎士や魔術師たちから報告を聞いており、平民に対して褒め言葉が過ぎますぞ、とは言えなかった。

「そう言ってくれると、私としても嬉しいものだ。とはいえ、店主のことだ。冒険者ギルドの上層部からも、同じ事を言われたことがあるのではないか?」

「そうですね……包み隠さず言いますと、現役の教育係や、とある街のマスターから直ぐにそういった立場に移らないかと誘われたことはあります」

解る者であれば、アストがどれだけ誰かに何かを教えるという事に適した人材であるか解かる。

アストはまだ二十を越えておらず、冒険者歴も……まだルーキー、若造であるのは間違いない。
しかし、その実力は生意気にもベテラン陣たちと比べても負けず劣らずの強さ。

教育係という立場に就けば、必ずしも安全とはいかない。
緊急時には戦力として現場に向かわなければならない……それでも、ギルドとしてはアストという人材であれば、長く教育者として若い者たちを導き続けることが出来るのではと、一部の者は考えていた。

(どう考えても、最初はルーキーたちから反発を食らうのは目に見えてるんだけどな~~~~)

冒険者ギルドという組織が、自分の実力等を認めてくれているのは嬉しくはある。
ただ、アストとしてはミーティアという店の店主という立場以外は、欲しいと思わなかった。
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