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第61話 そうはさせない

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(こいつら、ただの真っ黒な連中じゃないな)

アストは……なるべく、なるべく人の怒りや恨みを買わないように生きようと思っている。

ただ、結果として自分が望むように生きられるかは別の話であり、メリットとリスクの差を考えるよりも先に口が、体が動いてしまったこともある。
なので夜道に表ではなく裏の世界で生きている者たちから襲われたことは、何度かあった。

しかし、戦闘の……武芸の師である人物から、街中だからといって安全が保障されている訳ではないと教えられていたこともあり、全ての襲撃に対応することに成功していた。

そんな経験則から、いきなり襲撃を仕掛けてきた黒装束の者たちが、今まで自分を襲って来た裏の人間と比べて、数段は上の実力を有していることに気付いた。

(……恩を売るとかじゃないが、出来るならやるべきだろうな)

マティアスの護衛には騎士だけではなく魔術師もいる。
彼等の詠唱に紛れ、アストも詠唱を始めた。

「豪傑の英雄、不死身の英雄が血統、汝も英雄たれ」

「っ!?」

いきなり聞き慣れない詠唱を始めたアストに驚きの表情を向けるマティアス。

なんとなくそれを察しながらも、アストは説明せずに詠唱を続ける。
勿論、突き間を抜けて届くかもしれない攻撃に意識は集中させている。

「豪剣を振るい、戦場を駆け、その知略を持って勝利へとひた走る」

放っておいては、不味いかもしれない。
黒装束の者たちの中に、あいつを放っておけば危ないかもしれないと勘付いた者もいたが、護衛の騎士たちが彼等の自由を許すわけがない。

「天空まで光り輝く威光よ……全てを征せ。アレキサンダー」

詠唱を終えた直後、アストの体が光り輝き始めた。

「すぅーーー……ひれ伏せっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

聖光を纏い、ロングソードを杖として、両手を柄にかけ……非常に戦場に響く声を轟かせた。

「「「「「「「「「「っ!!!!????」」」」」」」」」」

ひれ伏せ……その言葉は言霊となり、黒装束の者たちは全員地面にひれ伏すことになった。

「今だ!! 捉えよ!!!!!!」

「「「「「っ!!!!」」」」」

捉えよ、という言葉が言霊となり、今度は騎士たちに影響を及ぼし……黒装束の者たちを捉える為の身体能力を向上させた。

(これ、は)

敵を捕縛する技術自体は有していた。
しかし、彼らの職業は騎士や魔法使い。

本職の斥候達と比べれば、特殊性の縄などで捉える技術は半人前も良いところだが……囲う最高と断言出来るスピードで完全拘束することに成功。

「隊長、全員捕縛に成功しました!」

「うむ、ご苦労だ……っ、アストよっ!!??」

襲撃者たちの強さから、いったい彼らが誰からの依頼で自分たちを襲撃してきたのか考え込むも、直ぐに何かしらの方法で自分たちを支援してくれたであろうアストの方に目を向けると……両膝を地面に付き、大量の汗を流していた。

「大丈夫か!!!!!」

「は、はい。大丈夫、ですので……安心してください。ただ、魔力や体力の消耗が激しい、技を使用した、だけですので」

魔力回復のポーションを飲みながら、安心させるために笑顔を見せるアスト。

(っ……この男を、騎士として迎えいられないのが、本当に惜しいな)

隊長である騎士も貴族界出身の男であり、百戦錬磨の一流たちには及ばず、ある程度心の奥底に抱いている感情を察することが出来る。

故に、目の前の冒険者が……利益云々関係無しに、自分たちを安心させようと……迷惑を掛けまいと笑顔を見せていることが解る。

「それより、捕縛は上手く、いきましたでしょうか」

「あぁ、勿論だ。君のお陰だな」

「それは、良かったです」

訓練された……思考が統一された裏の人間ほど、敵に情報を零さないためにも、捕らえられるなら死を選ぶ。

だが、ひれ伏せという強制命令を受けた彼らは地面に体がぎりぎりめり込まない程度の力で押さえつけられていた。
何かを発動するタイミングはなく、騎士たちによって縛られた。

加えて、今は魔術師たちがマジックアイテムなどを使用し、魔力を動かせないように追加で縛りを加えた。

「……え、えっと。余計な真似でしたでしょうか。咄嗟に、勝手に判断してしまって」

王族の馬車を狙う黒装束の者たち。
それだけで怪しさマックスであるため、できれば何人か捉えた方が良いのかと思っての行動だった。

「そんな事はない。寧ろ、私たちとしては非常に有難かった」

「そうですね。できれば、こういう輩たちは捉えてしっかりと情報を聞き出したい」

「でも、こういう奴らって殺されるって解ったら、速攻で自決するから厄介なんだよな~~~」

「一番危ないのですと、何かしらのマジックアイテムを使用し、盛大に自爆してこちらを巻き込もうとしますからね」

「こいつらの言う通りだ。アスト君……君の判断は、紛れもなく最良だった」

「そ、そうですか。そう言ってもらえると……嬉しいです」

結果として、誰も重傷を負うことなく、死ぬことなく危機を乗り越える事が出来た。

その事に関して一番喜んでいたのは……間違いなく、守られる側の人間であるマティアスだった。
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