43 / 167
第43話 本当にそれだけで構わない
しおりを挟む
「オオオオォォアアアアアアアア゛ア゛ア゛ッ!!!!!」
エイジグリズリーに足りなかったのは……経験。
野性を、本能を全開にして戦う人間がいるという事を知らなかった。
そうなった人間の身体能力が同変化するのか、知らなかった。
「ハァ、ハァ、ハァ、はぁ…………ふぅーーーー。討伐、完了」
最終的に手刀でエイジグリズリーの喉を貫くことで、死合いが終わった。
「ま、マスター。大丈夫ですか」
「えぇ、大丈夫ですよ、カイン様。使うと、かなり体力が消耗する技を使用しただけでのすので、問題はありません」
「そうでしたか……本当に良かった」
いったいどういった技なのか、冷静に最後のアストとエイジグリズリーの戦いを振り返れば、ある程度は理解出来る。
(まさか、マスターがあのような技を持っていたとは……本当に底知れない方だ)
この後、アストたちはひとまずエイジグリズリーの死体を回収し、森の浅い場所へと移動。
そしてある程度悪くない状態で全身が残っているエイジグリズリーの死体の解体を始めた。
まだそれなりに疲れが残っているアストも当然参加。
カインたちは休んでくれと伝えたが、この中でアストが一番解体慣れしているのも確かであった。
「よし、こんなところですね。では……素材をどう分配するか話し合う前に、食事にしましょう」
夕食にエイジグリズリーの肉を使うということに異論はなく、アストは亜空間から野菜や調味料を取り出し、料理を始めた。
「カイン、もしかしてこの人が、前に話してた……バーテンダー、なのか?」
「そうだよ。私が抱えていた心のモヤモヤを取り払ってくれた、素敵なバーテンダーさ」
学友が、友人が嘘を言っている様には思えない。
しかし……彼等にとっては、恐ろしく強いバーテンダー? という印象の方が強い。
「お待たせしました。さぁ、空いた腹を満たしてください」
それでも、野営とは思えない料理を目の前に出されては……僅かな疑問など完全に吹き飛んでしまう。
「う、うめぇ……マジでうめぇ」
彼等はカインと同じく、貴族の令息。
実家にいる時、学園に居る時も平民たちが簡単には食べられない高級な料理を食べてきた彼らが……モンスターがいる森の中で、思わず叫びたくなるほどの美味さを感じた。
(彼らの言う通り、本当に……美味い。噛みやすいのだが、程よく硬さもある。いや、部位によってか……それでも、この食べ終えても舌に……口の中に美味さが残る味……ふふ、エイジグリズリーがBランククラスまで成長していたことに、心の底から感謝しなければな)
結果として、いつも以上に疲労してしまったアストだが、Bランクにまで実力が成長したエイジグリズリーにはそれだけの価値があった。
そしてそんなエイジグリズリーの肉と、アストが調理した料理を食べ終えた後……ようやく素材の分配に関する話し合いが行われる。
「それでは、エイジグリズリーの素材分配について話し合いましょうか」
カインたちはしっかりと目的があって、街から離れた森を訪れていた。
しかし、エイジグリズリーとの遭遇は完全に想定外。
分配もなにも、戦闘内容からして自分たちが貰えるわけがないと思っていた。
「俺はエイジグリズリーの肉や内臓が欲しくて、一人でここまで来て探索してた。だから、できれば残りの肉や内臓が欲しい」
「…………え、えっと。カインから少し話を聞いてるんだが、あんたは……あ、アストさんは、冒険者でもあるんだよな」
アストは平民……村出身の冒険者であり、実は貴族の隠し子といった存在でもない。
基本的に権力的な意味での立場は彼等の方が上だが……彼等は見てしまった。
結果的に一人でエイジグリズリーを仕留めるアストの姿を。
決してアストは狙っていた訳ではないが、ブレイブ・ブルを使った状態で倒したこともあり、彼らは初対面のアストに敬意を持つようになった。
「はい、そうです。でも、冒険者は副業で、バーテンダーが本業なので」
エイジグリズリーの肉が欲しいと思ったのは私的な理由ではあるが、冒険者が副業で本業はバーテンダーというのは決して間違ってはいない。
「なので、肉や内臓を頂ければ問題ありません」
「マスター」
「カイン様、ここはミーティアではありませんので、是非気軽にアストと呼んでください」
「……解った。では、ここではアストと呼ばせてもらいます。素材に関してですが、さすがに肉や内臓以外の素材を全て受け取ることは出来ません」
自分たちの力で討伐したモンスター。
それは彼らが学園内で生活する上で、非常に重要な評価になる。
とはいえ、世の中には噓を見抜くマジックアイテムやスキルが存在する。
そういった理由も含めて、カインたちはエイジグリズリーの素材を受け取れない。
「では、魔石だけ頂きましょう。他の毛皮や爪、歯、骨などは皆さんの為に使ってください。今回戦ったエイジグリズリーは間違いなくBランクの領域まで成長していました。毛皮や骨など、武器や防具を造るのに良い素材になるかと」
目の前のバーテンダー兼冒険者の顔に……貴族の前だから、という見栄などは一切なかった。
エイジグリズリーに足りなかったのは……経験。
野性を、本能を全開にして戦う人間がいるという事を知らなかった。
そうなった人間の身体能力が同変化するのか、知らなかった。
「ハァ、ハァ、ハァ、はぁ…………ふぅーーーー。討伐、完了」
最終的に手刀でエイジグリズリーの喉を貫くことで、死合いが終わった。
「ま、マスター。大丈夫ですか」
「えぇ、大丈夫ですよ、カイン様。使うと、かなり体力が消耗する技を使用しただけでのすので、問題はありません」
「そうでしたか……本当に良かった」
いったいどういった技なのか、冷静に最後のアストとエイジグリズリーの戦いを振り返れば、ある程度は理解出来る。
(まさか、マスターがあのような技を持っていたとは……本当に底知れない方だ)
この後、アストたちはひとまずエイジグリズリーの死体を回収し、森の浅い場所へと移動。
そしてある程度悪くない状態で全身が残っているエイジグリズリーの死体の解体を始めた。
まだそれなりに疲れが残っているアストも当然参加。
カインたちは休んでくれと伝えたが、この中でアストが一番解体慣れしているのも確かであった。
「よし、こんなところですね。では……素材をどう分配するか話し合う前に、食事にしましょう」
夕食にエイジグリズリーの肉を使うということに異論はなく、アストは亜空間から野菜や調味料を取り出し、料理を始めた。
「カイン、もしかしてこの人が、前に話してた……バーテンダー、なのか?」
「そうだよ。私が抱えていた心のモヤモヤを取り払ってくれた、素敵なバーテンダーさ」
学友が、友人が嘘を言っている様には思えない。
しかし……彼等にとっては、恐ろしく強いバーテンダー? という印象の方が強い。
「お待たせしました。さぁ、空いた腹を満たしてください」
それでも、野営とは思えない料理を目の前に出されては……僅かな疑問など完全に吹き飛んでしまう。
「う、うめぇ……マジでうめぇ」
彼等はカインと同じく、貴族の令息。
実家にいる時、学園に居る時も平民たちが簡単には食べられない高級な料理を食べてきた彼らが……モンスターがいる森の中で、思わず叫びたくなるほどの美味さを感じた。
(彼らの言う通り、本当に……美味い。噛みやすいのだが、程よく硬さもある。いや、部位によってか……それでも、この食べ終えても舌に……口の中に美味さが残る味……ふふ、エイジグリズリーがBランククラスまで成長していたことに、心の底から感謝しなければな)
結果として、いつも以上に疲労してしまったアストだが、Bランクにまで実力が成長したエイジグリズリーにはそれだけの価値があった。
そしてそんなエイジグリズリーの肉と、アストが調理した料理を食べ終えた後……ようやく素材の分配に関する話し合いが行われる。
「それでは、エイジグリズリーの素材分配について話し合いましょうか」
カインたちはしっかりと目的があって、街から離れた森を訪れていた。
しかし、エイジグリズリーとの遭遇は完全に想定外。
分配もなにも、戦闘内容からして自分たちが貰えるわけがないと思っていた。
「俺はエイジグリズリーの肉や内臓が欲しくて、一人でここまで来て探索してた。だから、できれば残りの肉や内臓が欲しい」
「…………え、えっと。カインから少し話を聞いてるんだが、あんたは……あ、アストさんは、冒険者でもあるんだよな」
アストは平民……村出身の冒険者であり、実は貴族の隠し子といった存在でもない。
基本的に権力的な意味での立場は彼等の方が上だが……彼等は見てしまった。
結果的に一人でエイジグリズリーを仕留めるアストの姿を。
決してアストは狙っていた訳ではないが、ブレイブ・ブルを使った状態で倒したこともあり、彼らは初対面のアストに敬意を持つようになった。
「はい、そうです。でも、冒険者は副業で、バーテンダーが本業なので」
エイジグリズリーの肉が欲しいと思ったのは私的な理由ではあるが、冒険者が副業で本業はバーテンダーというのは決して間違ってはいない。
「なので、肉や内臓を頂ければ問題ありません」
「マスター」
「カイン様、ここはミーティアではありませんので、是非気軽にアストと呼んでください」
「……解った。では、ここではアストと呼ばせてもらいます。素材に関してですが、さすがに肉や内臓以外の素材を全て受け取ることは出来ません」
自分たちの力で討伐したモンスター。
それは彼らが学園内で生活する上で、非常に重要な評価になる。
とはいえ、世の中には噓を見抜くマジックアイテムやスキルが存在する。
そういった理由も含めて、カインたちはエイジグリズリーの素材を受け取れない。
「では、魔石だけ頂きましょう。他の毛皮や爪、歯、骨などは皆さんの為に使ってください。今回戦ったエイジグリズリーは間違いなくBランクの領域まで成長していました。毛皮や骨など、武器や防具を造るのに良い素材になるかと」
目の前のバーテンダー兼冒険者の顔に……貴族の前だから、という見栄などは一切なかった。
300
お気に入りに追加
716
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
修道院送り
章槻雅希
ファンタジー
第二王子とその取り巻きを篭絡したヘシカ。第二王子は彼女との真実の愛のために婚約者に婚約破棄を言い渡す。結果、第二王子は王位継承権を剥奪され幽閉、取り巻きは蟄居となった。そして、ヘシカは修道院に送られることになる。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿、自サイトにも掲載。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
逆行転生って胎児から!?
章槻雅希
ファンタジー
冤罪によって処刑されたログス公爵令嬢シャンセ。母の命と引き換えに生まれた彼女は冷遇され、その膨大な魔力を国のために有効に利用する目的で王太子の婚約者として王家に縛られていた。家族に冷遇され王家に酷使された彼女は言われるままに動くマリオネットと化していた。
そんな彼女を疎んだ王太子による冤罪で彼女は処刑されたのだが、気づけば時を遡っていた。
そう、胎児にまで。
別の連載ものを書いてる最中にふと思いついて書いた1時間クオリティ。
長編予定にしていたけど、プロローグ的な部分を書いているつもりで、これだけでも短編として成り立つかなと、一先ずショートショートで投稿。長編化するなら、後半の国王・王妃とのあれこれは無くなる予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる