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兄の物語[130]絶望するぐらいの体験

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「へぇ~~~~。魔力とかスキルを使ってねぇとはいえ、結構戦るもんだな」

「そうね。思ってた以上の実力だね~~~」

既にクライレットとダンの模擬戦が始まって数分が経過。

ペトラの無茶な真似はしないようにという言葉を意識しているのか、今のところ二人とも魔力とスキルを一切使用していなかった。

「なぁ、二人とも。これはどういう事なんだ?」

「ん? おぉ~~、カルディアにジェリスじゃねぇか」

「この間ぶりだな。それで、あの青年? は、クライレットと戦っているんだ?」

「あいつはダンって言って、ミシェルの弟なんだよ」

ミシェルの弟、ダン
それらの単語を聞いて、カルディアは直ぐに思い出した。

思い出したが……それでも、頭の中にある情報と合わなかった。

「あれが、ダンという謹慎中の冒険者か……クライレットの弟であるゼルートに至極真っ当な説教を受けたと聞いていたが……本当にあれが、そうなのか?」

「領主の下で、騎士の方々にしごかれてたらしいですからね~~」

「ふむ…………とはいえ、そんな短期間の間に変われるものか?」

カルディアの言う通り、ダンが騎士たちにしごかれるようになってから、まだ一年と少ししか経っていない。
ダンのことを元々知っている者たちから見れば、劇的ビフォーアフターと言っても過言ではなかった。

「あいつの弟に説教されたのが、よっぽど堪えんじゃねぇの? 俺は何やってんだって、自分に絶望するぐらいの体験だったんじゃねぇの?」

「なるほど……ある種、生まれ変わるほどの衝撃、体験だったという訳か」

「うちはそんなごちゃごちゃした難しいことは解らねぇけど、切っ掛け一つで変わる奴ってのはいるからな」

ジェリスの実体験……ではないが、知人の中に基本的に好戦的な者が多い獣人族であるが、非常に戦闘や狩りに対して消極的な者がいた。

だが、その者はあることが切っ掛けとなり、好戦的な性格になることはなかったが、戦闘や仮に対して消極的な姿勢から生きていくためには必要な事という姿勢で生きるようになった。

「そういえば、ゼルート君ってダン君より歳下だったよね……自分よりも歳下の子に至極真っ当な正論をぶつけたら……割と絶望するのかな?」

「絶望するんじゃねぇの? だって、ただ歳下ってだけじゃなくて、ゼルートはクソ強ぇんだろ。実力で敵わない上に、言葉でも思いっきり正論でぶん殴られたら……多分結構効くんじゃねぇの」

「ジェリス………今日は珍しく考えて発言するじゃないか」

「っ!! うっせ!!! 人が割と真剣に考えてたっつーのに!!!!」

「ふっふっふ、すまんすまん。だが、何故情報と食い違いがあるのか納得出来た。それで、どうしてクライレットとダンが魔力やスキルを使ってないとはいえ、本気で戦っているんだ?」

ダンという謹慎中の冒険者が、なぜ一年と少しと……決して長いとは言えない期間で、あそこまで情報を違う面構え、強さを手に入れたのかはある程度理解出来た。

だが、そのダンが先日、共にBランク昇格試験を受けたクライレットと戦っているのかは知れてない。

「あれだよ、ミシェルが俺たちのパーティーに入る事になったんだよ」

「ほ~~~……確かに、色々とピッタリではあるな。それで、その話が姉大好きな弟の耳に入った……という流れか?」

「大体そんな感じですね~~。でも、話しで聞いてたよりも礼儀正しいというか、こういう勝負を挑むこと自体、自分の我儘だと解ってるみたいな感じでしたね~~~」

「それな~~。ぶっちゃけ、勝負を吹っ掛けてくるなら、もうちょい喧嘩腰だと思ってたんだけどよ。割とそんなことなかったんだよな」

バルガスとフローラもカルディアと同じく、事前に得ていた情報との違いに少し驚きを感じた。

「つか、二人とも真剣じゃねぇし、魔力もスキルも使わねぇのかよ」

「二人は本気で喧嘩をしてるわけではない。本気で喧嘩するとしても、殺し合いの域に達するような戦いはダメに決まってるだろ」

「色々と本気になっちゃうとね~~……それはもう、勝負する意味がなくなっちゃうよ~~」

「「……………………あぁ、なるほど」」

二人は先日、昇格試験でのバジリスク戦の際、クライレットが一瞬だけ取り出した武器を思い出し、何故そこまでフローラが断言出来るのか納得した。
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