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兄の物語[128]家族だから

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クライレットたちのBランク昇格が決まった。

そんなめでたい日から数日後……予想通り、ある人物がクライレットの前に現れた。

「あんたが、クライレットか」

「……そうだね。僕がクライレットだよ」

その人物の名は、ダン。
クライレットたちのパーティーに加入した冒険者、ミシェルの弟である。

先日、ダンは共に訓練を行っていた現役の騎士から、姉であるミシェルが固定のパーティーを組んで活動を始めるという話を耳にした。

その話を聞いて、ダンの中に様々な気持ちが生まれた。
自分を置いていくのか、ミシェルが心の底から共に活動したいと思える者たちに出会えたことを祝わないと……なんで、自分には一言も相談してくれなかったのか。

様々な思いが溢れ出るも……最終的には、素直に祝わなければならないのかと思った。
ただ……加入するパーティーのリーダーの名前を聞き、思わず固まった。


「クライレット……クライレットって、あの」

「あぁ、そのクライレットだ。ゼルートのお兄さんだ。ここ最近、ドーウルスでかなり活躍してたからな。歳が近いってのもあって、色々ピッタリだよな」


あのゼルートの兄弟の男と組んで活動する。
冷静に事態を把握した瞬間、感情が爆発しかけた。

冒険者として、プロとしてやってはいけない事をしてしまった。
嫌いなあいつに説教され、両親に叱られ……本当に自分勝手な行動をしてしまったと、反省したダン。

故に、一定期間……冒険者としての活動から離れ、自分を見つめ直しながら精進した方が良いという提案を受け入れた。

ただ…………それでも、ダンはまだ子供である。
プロとして活動してる、働いているとはいえ……働き始めたからといって、直ぐに大人になれる訳ではない。

幸いにも、友人となった騎士からその話を聞かされた時、感情が爆発することはなかった。
それでも……どうにも出来ない感情が生まれた。

そこで、直ぐにパーティーのリーダーであるクライレットに対し、姉から離れろと……今後関わるんじゃねぇ!!! と言おうとしなかった。
これだけで、以前までのダンを知っている人物からすれば、成長してる様に思える。

「…………俺と、戦え」

「……一応、どうしてか訊いても良いかな」

なんとなく、解る。
それでもクライレットは、本人の口から理由を聞きたかった。

「姉が、家族の元を離れて活動するんだ……弟として、そいつが本当に戦えるのか、いざという時に姉さんを守れるのか知っておきたいだろ」

守られるだけの存在ではなく、本人もそんな事は望んでいない。

それは……ダンも解っている。
だが、家族という存在からすれば、五人の中で一番死んでほしくない存在は、当然ミシェルである。

ミシェルもそんなダンの気持ちが伝わってくるからこそ、バカな真似はしないでとは言えなかった。

「そうだね……僕にも、妹が二人いる。その気持ちは、なんとなく解るよ…………それじゃあ、戦ろうか」

「助かる」

どうしても、家族として心配に思う気持ちが消えない。
それは本音であり、大多数の者たちが同じような気持ちを持ってしまう。

それでも、ダンはこのクライレットに対して自分との戦いを要求した件は、私情だと理解している。

だからこそ、助かると答えた。

冒険者としてのプライド、外観云々の話は置いておき、クライレットにはダンからの申し出を受けないという選択肢もあった。
しかし、クライレットは受けた。

同じく姉妹を持つ身として、ダンからの申し出を断るという選択肢はなかった。

この後、クライレットたちは冒険者ギルドの訓練場に移動。
ダンが久しぶりに冒険者ギルドに訪れたことでざわつくも、クライレットたちもダン本人も無視。

訓練場へ一直線に向かい、二人は大量にある訓練用の木製武器の中でも、特に頑丈な物を選んだ。

「二人とも、常識の範囲内で頼むわよ」

「解ってるよ」

「あぁ……勿論だ」

ペトラのお願いに返答し、二人は構えた。
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