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兄の物語[122]忘れていた詳細

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「後は、階層数が多いダンジョンを攻略したいと思っています」

「ダンジョン攻略かぁ……階層数が多いってなると、三十層や四十層ぐらいか?」

「そうですね。それぐらいのダンジョンを、ジェリスと共に攻略したいと考えています」

ダンジョンの攻略。
それは冒険者たちにとって、ドラゴンスレイヤーの称号を手に入れるのと同等ほどの価値がある。

ドラゴンスレイヤーの称号は純粋な強さを示し、ダンジョンの攻略は攻略したダンジョンの階層数が多ければ多いほど、その冒険者の探索力を示す。

世間一般的にはドラゴンスレイヤーの称号を終始する者が多いが、ダンジョン探索の困難を知っている者であれば、竜殺しの称号よりもダンジョン攻略者の称号を持つ者を優遇する場合もある。

「二人で、かぁ…………カルディア。ダンジョン探索ってのは、力押しで出来るほど甘いもんじゃねぇぜ?」

ガンツも一応ダンジョン探索の経験があるため、その辛さは身を持って知っている。

どこからか、モンスターは無限に湧き上がる。
トラップはダンジョンが意思を持っているのかと疑いたくなる内容であり、いやらしい場所に設置されている。

加えて、ダンジョン内で自分たちの敵になるのは、モンスターやトラップだけではない。

「えぇ、それは解っています。なので、徐々にではありますが、今後はパーティーメンバーを増やすことも活動の一つとして動きます」

「そうだな。是非ともそうしてくれ。優秀な奴は既にパーティーを組んでるとは思うが、そうじゃない奴もいる」

正確に問題があるからパーティーを組めない奴もいる……という訳ではなく、Cランク以上の冒険者たちであっても、強くなったからといって絶対に死なないことはなく、仲間を失わずに済むと保証されることもない。

優秀なパーティーがある冒険で半壊してしまった。
珍しいことではあるが、それほど特別驚く内容でもない。

「クライレットは、どうするんだ?」

「…………僕たちはこれから先、元々目標であるAランクを目指し続けます」

Bランクに昇格した訳ではないが、試験内容であるバジリスクの討伐に成功した。
全員が腰を引くことなく満足のいく活躍をした。

昇格したのは間違いないという感覚があり……当然、それはそれで嬉しかった。
最終的な目標を考えれば、クライレットにとってBランク昇格というのは通過点でしかない。

それでも……仲間たちと様々な依頼を達成し、冒険を乗り越えてきたからという思いから、嬉しがこみ上げてくる。

「Aランクか。妥当と言えば妥当な目標だな」

一般的な冒険者が目指そうと思って目指せるラインは、Cランク。

一般的な冒険者の中でも、ある程度センスと才能があり、努力を怠らない者たちが辿り着けるのが、Bランク。

それより上は、限られた者たちが辿り着けない領域。
ある程度のセンスと才能、だけでは足りない。

ガンツから見て、クライレットにはその領域に辿り着ける要素が十分にあると感じていた。

(クライレットは申し分ない……他の三人は、絶対とは言えねぇが、それでも可能性はある。パーティー単位でAランクに到達するのも、不可能じゃねぇな)

全てを見通す神ではないため、可能性がある……不可能ではないといった事しか言えない。

「んじゃあ、クライレット自身の目標はなんだ?」

「……僕は、Aランクになってから、Aランク冒険者として冒険したと……悔いのない冒険者人生を送れたと、満足出来ることです」

「ほぅ? それは、引退する時の話、か?」

「まぁ、そうなりますね。まだそういった事を考えるのは早いと思うかもしれませんが、いつまでも父に任せておくわけにはいかないので」

その言葉を聞いて、ガンツとカルディア「そういえばこいつ、貴族の令息で次期当主だったな」と忘れていたクライレットの詳細を思い出した。

「そうか………………まっ、それならあれだな。Aランクになってからも当然、死ぬわけにはいかないな」

ゲインルート家には一応クライレット以外にも、ゼルートという令息がいるものの……彼の性格を知っているガンツとしては、万が一が起こってもゲインルート家的には大丈夫だよな……なんてことは欠片も思えなかった。
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