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兄の物語[118]リスクを背負えばそれなりに

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「「ルゥアアアアッ!!!!」」

(なんだか、いつも以上に、冷静に動ける、なッ!!!)

双頭の口から属性砲撃を放つだけではなく、スピードを活かして爪撃や咬み付いてまずは目の前の人間を殺そうとするも……これが中々当たらない。

当る前に後方の人間たちに邪魔されるケースもあるが、半分は単純にスカってカウンターを食らっていた。

(カルディアたちが信用できる光栄だからか、それとも将来……現時点で有望な若い連中に、カッコイイところを見せたいからか……なんでか知らないが、良く見えるな)

旋風を纏うロングソードが再度、オルトロスの前足を切り裂いた。

切断には至らないが、それでも既に十度以上の斬撃刃を食らっている。
加えて脚だけではなく、胴体部には後方から放たれた攻撃魔法、風矢が何度もぶつかり、ところどころから血が流れていた。

(……うん、やっぱ頼れる後輩たちが、後ろにいるからだな)

自分が上手く戦える理由を改めて理解し、ガンツは再度前足に斬撃を叩き込む。

「おっ」

「っ!!!??? ッ!!!!!!」

ガンツが放った斬撃は一度肉を切り裂いた箇所に丁度重なり、更に深く斬り裂くことに成功。
結果、骨を切断……とまではいかずとも、三分の一は確実に切断した。

当然、とんでもない激痛がオルトロスに走る。

魔物にもアドレナリンの様な存在を持っており、一時的に痛みを感じない状態になる。
ただ……今回の場合、スパッと脚を切断されたのではなく、骨を三分の一ほどまで斬り裂かれた。
切断されればそれはそれで激痛だが、結果として激痛が残り続ける攻撃となった。

「させませんわッ!!!!!!」

事前に準備をしていたペトラの嵐矢が二つ放たれ、広範囲の炎雷ブレスは中途半端にしか広がらず、視界が確保されたガンツは十分余裕をもって上空に跳べた。

「疾ッ!!!!!!」

「っ!!??」

オルトロスが反応する前に着地し、整った体勢から渾身の斬撃を放った。
すると、一撃で切断とはいかずとも、先程の斬撃と同じく脚の骨を半分ほど斬り裂くことに成功した。


「終わったわね」

「だな~~。あそこから逆転ってのは、まぁ無理だろうな」

少し離れた場所から観戦しているバルガスたち。

ある程度どういった戦況なのか見えているため、ガンツが二本の脚の骨にまで傷を付けたことを把握していた。

「いやぁ~~~、にしてもマジで強いな。ぶっちゃけ、ガンツさん一人でも殺らるんじゃねぇか? なぁ、クライレット」

「…………殺れるか殺れないかで言えば、殺せるだろうね」

「っ!? クライレット、あんた……それはちょっと過大評価なんじゃないの」

「おいおいお前、ガンツさんのあの戦いっぷりを観てそんな事が言えんのかよ……ちゃんと観えてんのか?」

「観てるに決まってんだろ!! ガンツさんが思ってた以上に戦える人だってのは解ったよ。けど、あんだけ上手く戦えてるのは、カルディアやミシェルたちのお陰でもあんでしょ」

「む……」

カルディアとミシェル、ついでにペトラの働きもあって、ガンツが上手く戦えている。
それを否定する言葉が、バルガスからは、パッと出てこなかった。

「ジェリス。僕は殺れるか殺れないかで言えば、殺せると答えたんだ。百パーセントと、一人で殺せるとは言ってないよ」

「……それ、何か違うの?」

「死ぬリスクを背負ってるか背負ってないか、そこが大きな違いだよ。カルディアたち優秀な後衛がいるから上手く戦えているというのもあるけど、その点に関してはまず百戦錬磨のガンツさんが上手く合わせられてるという点も含まれてる」

「つまり~、ガンツさんはソロなら……六割から七割ぐらいの確率で、一人でも殺れるってことだね」

「そういう事だね。勿論、どの程度のリスクを背負うか計算して戦うガンツさん次第ではあるけど」

クライレットは改めて、ドーウルスに来て良かったと感じた。
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