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兄の物語[117]職人の技?

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「おいおい、あの人……あんなに強かったのか?」

そんな先輩に対して失礼な言葉を零した人物は、先程バジリスクとの戦闘を終えたジェリスだった。

ジェリスはガンツがBランクの冒険者であること、だからこそ自分たちの監督役として同行していたことを知っていた。
そこら辺の冒険者と比べれば、それなりに強いということも解っていた。

だが、それでも一目で強者だと、自分よりも頭一つか二つ上の実力を持っているほどの強さを感じなかった。
故に……目の前の戦闘光景を観て、心底驚いていた。

「マジかぁ、凄ぇな。強いってのはなんとなく解ってたけどよ」

「そうだね~~。私もタンクとして参加した方が良いかと思ったけど、あの感じだと……参加したら邪魔になりそうだね」

バルガスも失礼なのは解っていたが、これまで自分が出会ってきた特徴のあるBランク冒険者たちと比べて、ガンツに圧倒的な強さがあるとは感じていなかった。

「…………深みを感じる、強さだね」

身体能力は決してクライレットたちに劣っていない。
ただ、有望な若手たちより大きく上回ってはおらず、将来追い抜かれることをガンツ自身も解っていた。

しかし、クライレットたちよりも大きく勝っている部分があった。
それは……戦闘経験の数。

それなら自分も負けてないと言いたいクライレットだが、ガンツと比べた場合、修羅場と言える戦況を潜り抜けてきた数が違った。
クライレットは決して臆病者ではないが、スタートダッシュが早く、魔物との戦闘を始めてから苦戦することは少なかった。

冒険者になる前、冒険者になってから激闘と言える激闘を乗り越えてきたが、その数はガンツと比べれば少ない。

「深み、か?」

「うん、そうだよ。ガンツさんの表情を見る限り……多分、あれが普通なんだと思う」

激闘の質はクライレットの方が高いかもしれない。
しかし、当時の激闘を体験した際、ガンツの実力がクライレットよりも劣っていれば、得た実戦的な意味での経験値はそう変わらない。

加えて、ガンツとクライレットたちの大きな点が他にもある。
それは……同業者と共に戦った数。

「カルディアと、ミシェルの動きに上手く合わせてる…………って言うより、そこまで気にはしてない?」

「気にしてないんじゃねぇかな。俺には、凄く自然体で戦ってる様に見えるぜ」

「……ガンツさんって、カルディアと一緒に戦ったことねぇ筈なんだけどな~~」

「ペトラはちょろっとだけあっけど、オルトロスみたいな超強い魔物じゃなかったからな。別に必死こいて息を合わせなくてもなんとかなったが…………って考えっと、やっぱりガンツさんがバチバチに凄ぇってことか」

「そうだと思うよ。多分だけど、ガンツさんは僕たちがこれまで共に戦ってきた同業者の数が圧倒的に違う」

一応、ガンツはパーティーを組んで活動している。
ただ、全員金に困っていないということもあり、バラバラで行動することは珍しくない。

Bランクに到達するまでにも、何度か意見の食い違いで解散、パーティーメンバーが魔物との戦闘で死んで流れで解散となり、ソロで活動していた時期もあった。

これまで多くの同業者たちと組んできた結果、組んできた者たちの戦闘スタイルや技量によって、ガンツは上手く合わせてきた……もしくは、合わせなければならなかった。
その経験が生き、結果として結びつき……それなりに付き合いのあるBランク冒険者や、Aランクの冒険者からすれば、才が開花したと口にする。

「だからこそ、一緒に戦った経験がない、数が少ない同業者と組んでも自分が戦いたいように戦って、変に制限することなく戦えてるってことだね」

「あぁ、その通りだよ…………冒険者に向かって言う言葉じゃないかもしれないけど、職人の技だと感じた」

確かに、冒険者に向けて使う言葉ではない。
とはいえ、他三人とも他にこれだという言葉は思い浮かばなかった。
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