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兄の物語[115]無視できない

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(良い調子ね。このままいけば……後五分以内に終わるかしら)

バジリスクとの戦闘が始まってから数分が経過。

豹人族であるジェリスが中心となり、クライレットたちはBランク魔物であるバジリスクを追い込んでいた。
勿論、やられてばかりではなく、バジリスクも反撃を行うのだが……バジリスクが一体だけで戦っているのに対し、クライレットたちは合計七人。

寄せ集めの七人という訳ではなく、それぞれが若手の中でも頭二つ三つ飛び抜けた実力を有している実力者たち。

そんな者たちが七人もいれば……こうなることは、至極当然だった……かもしれない。

(とはいえ、こんな気持ちを持ち続けてたら、いざという時に対応出来なく、なるわね)

ペトラの仕事は、後衛から風矢を放ち、バジリスクの動きを妨害すること。
主に狙う箇所は顔面であり、バジリスクからすれば、狙われれば直ぐに解り、対処出来る攻撃だが……そこばかり狙われてしまうと、一撃必殺である石化のブレスが放てなくなる。

同じく後衛のミシェルとカルディアも上手く攻めており、前衛メンバーに当たりそうな攻撃は、タンクのフローラがきっちりガードしていた。

そして、ジェリスとクライレット、バルバスたちの攻撃は着実にバジリスクにダメージを与えている。
それらの状況を振り返れば……完封出来ているのではないか。
つい、そう考えてしまうのも無理はない。

(このままいけば良い……そう思うけれど、Bランク魔物ともなれば、このままだとただ体力や魔力を消費させられて死ぬことぐらい、解る筈よね?)

バジリスクがどの程度の知能を有しているのかまでは解らない。

しかし、ペトラはこれまで追い詰められた魔物の強さを何度も目のあたりにしている。
人間ほどの思考力を有していなくとも、魔物にも本能という判断力がある。

「ッ!! ミシェル、カルディア!!」

風が……変った。

そういった表現しか出来ない。
このままいけば、自分たちの勝利……完全勝利に辿り着く。
そんな風向きが、急に変わった。

「任せて!!!」

「おうっ!!!」

ミシェルもこれまでAランク冒険者である両親と共に冒険してきた結果、何度も強い魔物が覚悟を決めて挑んでくる瞬間を見てきた。

カルディアも相方であるジェリスが突っ走るタイプの冒険者であるため、その性格が災いして何度も修羅場を体験してきた経験ゆえに、ペトラが自分たちに何を頼みたいのか即把握。

バジリスクはこのままでは自分が死んでしまうと悟った。
そう悟った結果……一先ず、前衛四人を無視して後衛の鬱陶しい攻撃は何度も飛ばしてくる三人を始末しようと考えた。
その過程である程度の傷を負うかもしれないが、鬱陶しい攻撃を行ってくる人間を潰せば、幾分戦い易くなるだろう……といった考えはクライレットたちに勝つのが目的であるならば、間違っていなかった。

「ッ!!??」

だが、敵が覚悟を決め、リスクのある行動を取ろうとした……その変化を悟ったのは、後方の三人だけではなかった。

前衛四人も気付いていたが、それぞれの役割を的確に果たしていた結果、バジリスクの進行方向にいるのはジェリスとフローラの二人だけ。
バジリスクが本気で移動しようとすれば、バルガスとクライレットの攻撃が絶対に届くという保証はなかった。

一瞬でそこまで把握したクライレットが取った行動は、遠距離からの斬撃刃を放つ……ではなく、アイテムバッグから奥の手中の奥の手である鳳竜を取り出し、渾身の殺気をバジリスクに向けて放った。

「「「「「「「ッッッッ!!!」」」」」」」

結果、鳳竜という決して無視できない攻撃力を持つ武器とクライレットの全力の殺意が合わさり……バジリスクだけではなく、ガンツも含めて味方全員が僅かに震えた。

「シャッッッッッ!!!!!!!!」

そんな中、最も早く自分の役割を思い出し、動き出したジェリスの鉤爪が……バジリスクの首に届いた。
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