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兄の物語[94]七光りではないと証明

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「あら、クライレットにペトラにバルガス、フローラ。やっぱり、あなた達も参加するのね」

十五分前に入室してきた冒険者は、四人の知り合いであり、現役Aランク冒険者を両親に持つミシェラだった。

「ミシェラ! 久しぶりね。元気にしてた?」

「えぇ、勿論。といっても、冒険者らしくそれなりに無茶はしてたけどね」

年齢を考慮すれば、ゼルートと出会った当時……その時点で優秀な魔法がメインの後衛職であることに変わりはなかった。

しかし、ミシェラはややクライレットと似ており、両親が共にAランク冒険者。
ミシェラには冒険者以外の道に進む選択肢もあったのだが、それでも両親と同じ冒険者という職業を選んだ。

となれば、やはり両親であるグレイスとコーネリアとしては、大事に大事に……全てを教え切れるまで、大事に育ててきた。
それは決して悪い事ではなく、子を持つ親であれば寧ろ当然の育て方と言えよう。

だが、どうしてもミシェラ……もう一人の子供であるダンには親の七光りというイメージが付きまとう。

順調に実力を伸ばしていたミシェラだが、それはAランクの両親と共に行動しているから、ソロ……他の冒険者と共に行動するのであれば、思った通りの成果を上げられないのではないか。
そういった他者の評価がどうしても付き纏う。

「僕たちと似た様な理由かな」

「ふふ、そうね。私なりに頑張って頑張って……ようやく、ここまでこれた」

「もしかしなくても、ミシェラもBランクの魔物を殺ってきたのか?」

「えぇ、そうよ。両親とじゃなく、他の歳の近い冒険者たちと一緒にね」

「歳の近い、ね……それ、結構大変じゃなかったの?」

自分たち程強く、若い冒険者はそうそういない。
そんなペトラの考えは……決して驕りではなく、純然たる事実。

クライレットたち四人だからこそ、誰かが重傷を負うことなくアインツワイバーンを討伐することが出来た。

「そうね。これまでも同世代の冒険者たちとは何度も一緒に魔物を倒してきたけど、Bランクの魔物と戦ったのは数えるほど……逃げるのならまだしも、討伐するとなると……本当に頭を酷使したわ」

ミシェラは後衛職。
前衛が、それとも後衛の者が指揮を執るといった明確な決まりはない。

だが、パーティーのリーダーとは別に、戦場で指揮を取るのは全体が見渡せる後衛職の者が取ることが多い。

ミシェラは先日顔見知りのパーティーと組んでBランクの魔物と戦った。
既にそのパーティーには指揮官と呼べる者はいた。
しかし、敵対する相手がBランク魔物という強敵になれば、随時的確な指揮を飛ばせるとは限らない。

その際、ミシェラは指揮補助を行いながら、魔法職としての腕だけではなく、指揮官としての力も発揮し……ギルドから課された依頼をクリアした。

「ペトラたちは……多分だけど、倒すよりも標的を倒すまでに面倒があった……とか?」

「ご明察よ、ミシェラ」

ミシェラから見て、先日共に行動した冒険者たちよりも、クライレットたちの方が一回りも二回りも強く視える。

だが、若く強い存在というのは、非常に面倒に好かれる。
それはミシェラも身を持って体験していた。

「面倒っつ~と…………あぁ~~~、あいつらか。俺たちが倒すから、お前たちは関わるんじゃねぇ!!! 的な事を言ってきた奴らか」

「そう、そいつらよ。あぁいうのって、本当に意味が解らない連中よね。そういう気持ちを持ってるなら、自分たちの方が早く討伐してやるって気持ちで動けば良いのに」

面倒な連中に絡まれることなど、もはや日常茶飯事。
気にしていても仕方ない……というのはペトラも解ってはいるが、やはり思い出すとそれはそれでイライラしてしまう。

その後も互いの近況について話し合っていると、集合時間五分前に最後の二人が入室。
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