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兄の物語[51]もっと頑張る

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「新しい細剣は待てなかったわね」

水漣華の採集に向かうクライレットたち一行。
そんな中、ペトラが残念そうにぽつりと呟いた。

「そりゃそうだろ。だって……二十日だったっけか? ちょっと長いよな~~~」

クライレットレベルの冒険者が奥の手として……いずれは常時扱う武器となれば、生半可な素材を使う訳にはいかない。

だからこそ、まずは鍛冶に使う素材から集めなければならない。
ドゴールの人脈を使えば他の鍛冶師よりも早く素材を集められるが……それでも、マッハな速さで集めるのはさすがに難しい。

「良い物を造るには、それだけ時間が掛かるからね~~~」

ハーフドワーフであるフローラからすれば、二十日ほどでクライレットの新しい細剣を造るのはやや良心的に思えた。

(報酬が大金だから? それもなくはないと思うけど、やっぱりクライレットを気に入ったからかな? 鍛冶師の人たちは、そういうところがあるもんね~~~……そのせいで、他の依頼者に迷惑が掛からないと良いけど)

本物の鍛冶師が持つ考え、心情などをそれなりに理解しているフローラ。
おそらく自分たちのリーダーが高名な鍛冶師に認められたと思うと……つい頬が緩んでしまう。

「そうよね……出来上がるまで待つのは、ね」

「んでだ? こう、万全を期して? 挑んでも良かったんじゃねぇのか」

「それはそれで悪くないのだけど、仕事をどれだけ早くこなせるかも冒険者にとって大事な力よ。指名依頼じゃないから急ぐ必要ないのだけど……Bランクの昇格に関わるとなれば、そうもいかないわ」

「……なんか、めんでぇな」

「面倒でも、上に行くためには色々と考えないといけないのよ」

ここ最近、バカが頭を使うようになり始めたと思ったペトラ。

しかしそう簡単に根っこは変っていなかった。

「…………」

「クライレット~、ちょっと顔が怖くなってるよ~~」

「っと、いけないね……少し緊張し過ぎていたようだ」

「? クライレットが緊張し過ぎるなんて珍しいね。変な夢でも見た?」

「そういうわけじゃないよ。ただ、気は抜けないと改めて思ってね」

クライレットたちが出発する際、Bランク魔物に襲われた重傷を負った冒険者たちが戻って来た。

Bランクの魔物であれば、クライレットたちはこれまでに何度も討伐している。
ドーウルスで活動を始めてからも討伐経験はあるが……どの戦いも楽勝とはいかなかった。

ドーウルスで活動していれば、Bランク魔物と遭遇するのはそこまで珍しくない。

「おいおいどうしたんだよ、クライレット!!!」

「バルガス……」

「俺らは、いつでも死ぬ気で戦う覚悟は出来てるぜ」

勢い良く肩を組み、相棒を安心させようと満面の笑みを浮かべながら自分たちの覚悟を語る。

「バルガスの言う通りですわ。クライレット、私たちは冒険者ですのよ」

「死ぬのは怖いけど、そんな事実にいちいちびくびくしてたら、こうやって真面目に上を目指したりしてないよね~~」

「……ごめん。あと、ありがとう」

仲間を失うのは怖い。
同世代の中では飛び抜けた実力を有しており、クールな頭も持ち合わせている。

だが、それでも恐怖心はある。
自分は……ゼルートほど何でも出来る存在ではないと解っている。

(それでも、父さんや母さんの息子として恥じない男として……ゼルートの兄だと胸を張って言える様に、前に向かうことは止めない)

自分をリーダーと慕ってくれている者たちの中にも、大きな向上心は刻まれている。

「っ!! お出ましだな」

「あれは……バトルホースね」

「こんなところでバトルホースに遭遇するのは珍しいね」

全員が武器を構える中、クライレットは一歩前に出て……そのまま駆け出した。

「ちょ、クライレット!?」

いきなり一人で飛び出してしまったクライレットにペトラが驚くも、バルガスとフローラがどうしようかと顔を見合わせている間に、バトルホースは瞬殺された。

「僕、もっとリーダーらしくなれる様に頑張るよ」

良い笑顔で仲間たちにそう告げるも……ペトラに頭をはたかれ、説教を食らう羽目になった。
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