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兄の物語[18]ただの自爆

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嫉妬ルーキーズがクライレットに勝負を挑んだ翌日、彼らは何も怯えることなく、いつも通り冒険者ギルドに向かって仕事を探す。

(ある程度ここら辺での活動も慣れてきた……依頼のレベルを上げても大丈夫だよね)

クライレットは……ゼルートほど気楽に活動は出来ない。
冒険者として活動していれば、どんな依頼でも絶対に達成出来る訳ではなく、失敗することは珍しくない。

だが、それでも失敗という記録は残る。
クライレットは完璧を目指しているわけではない。
そこまで自分が出来る人間とは思っておらず、それはそれで仕方ないと割り切っているが……本能がそれを拒否している。

とはいえ、実力的に絶対達成出来る依頼ばかりを受けていても、ギルドからの評価は上がらない。

「この依頼を受けようと思うんだけど、どうかな」

「サイクロプスの討伐依頼か……良いじゃねぇか!!! 燃えてくるぜ!!!」

「あんたねぇ……この前殆ど無傷でヒポグリフに勝ったからって、あんまり調子に乗るんじゃないわよ」

「うっ、解ってるっての!!!」

ぶっちゃけ、やれるなら超パワー寄りの身体能力を持つサイクロプスとパワーで勝負したかったバルガス。

「私もありだと思うよ」

「よし……それじゃ、決まりだね」

いつもより視線が集まる中、クライレットは普段と変わらない様子で列に並び、受注のやり取りを済ませる。

「クライレットさん、昨夜はありがとうございました」

「? 彼等との模擬戦に関してですか」

「えぇ、そうです。あぁいった部分を乗り越えな限り、上には登れませんので」

決して間違ってはいない。
クライレットとも嫉妬ルーキーズに間違ったことを伝えたとは思っていない。

だが、ギルド側がその対応で良いのかと、ほんの少し思ってしまった。

「彼らが……あれで使い物にならなくなったとしても?」

「クライレットさんから絡んだのであればまだしも、あれは完全に向こうが悪いですから。自分からダンジョンのトラップを踏んだも同然です」

「……そう言ってくださると、僕としてはありがたいです」

あなたは悪くない。
そう他人から言ってもらえると……ほんの少し、体が軽くなる。

わざわざ喧嘩を売られたとはいえ、勝った後に他人へ説教を行う。
勝者にはそれらの権限があるとも言えるが、それでも……勝者が敗者に何を語る? 倒し終えた後に、更に鞭で打つのか?

それは……本当にただの自己満足ではないか?

優秀な頭を持つからこそ、クライレットはつい考え過ぎてしまう。

「……どうやら、今日は私たちが何か言う必要はなさそうね」

「ふふ、今日は眉間に皺が寄ってなかったということかな」

「そうだね。特に難しそうな顔はしてなかったよ」

バルガスはそういう変化に鈍いので気付かないが、二人はクライレットが何かに思い悩めば、直ぐに気が付く。

だが、今日のクライレットの表情にはそういった悩みの色が浮かんでいなかった。


「…………おいおい、サイクロプス全然いねぇじゃねぇか」

四人が森に入ってから数時間が経過。
既に昼食を食べ終えており、腹は良い感じに満たされている。

「そう簡単に見つからないのも珍しくないでしょ」

「いや、サイクロプスだぜ? 割と見つかりやすい部類だろ」

既に何体かの魔物とは遭遇しており、戦闘を行っている。

しかし、目当ての巨人には中々遭遇しない。

「ん~~~、それなら走って探す?」

「おっ、良いじゃねぇか! 走ろうぜ!!」

「……私も別に良いけど、フローラ。あなた、その探索方法で良いの?」

四人の中で一番優れた健脚を持つのはエルフのペトラ。
その次にバルガスに、クライレット。
走るという一点に関しては、一番フローラが得意ではない。

「いつまでも、苦手な部分を放っておくわけにはいかないからね」

彼女たちは彼女たちで考える部分があり、その考えを解消する為には、常に動かなければならなかった。
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