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兄の物語[12]プレッシャーと誇り

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今度機会があれば、一緒に冒険しよう。
そう言われてグレイスたちと別れた後……四人の頭の中には、ゼルートに真っ向から怒り? 敵対心? を抱いているダンという人間が残っていた。

「……グレイスさんとコーネリアさんの息子さん、ヤバいね」

宿に戻る帰り道、耐え切れずにフローラがポロっと零した。

「そうね…………色んな意味でヤバいわね。普通、あんなびっくり過ぎる人間を相手に、ライバル視なんてしないわ」

「俺は中々男気があると思うけどな!!」

「勇気と蛮勇をはき違えてるんじゃないわよ。まだゼルート君が大きな功績を出してないとはいえ…………そういえば、その前にDランクの冒険者をタイマンで倒してたんじゃなかったかしら?」

「……そういえば、ゼルートからそんな話を聞いた記憶があるね」

面倒な先輩に絡まれ、ゼルートも容赦なく煽り、結果としてフルボッコにした。

オークキングと戦う前であっても、それなりのルーキーらしからぬ功績は上げていた。

「それはあれじゃないかな。ご両親と一緒に行動してるみたいだし、そこら辺の情報収集はまだ行ってなかったんじゃないかな?」

「それはあり得そうね……まだ幼さがあって、それなりに実力もあるってのを考えると、余計に越えるのを諦められなさそうね」

「良いじゃねぇか。越えようと挑戦するのは個人の自由だろ?」

「それを仕事中に発揮したのが、完全にアウトだったんだけどね」

「うっ…………それはまぁ、そうだな」

ゼルートという怪物を越えようとする精神……バルガスとしては、そこは褒めたい称えたい部分ではあるものの、その精神を仕事の中に持ち込んで問題を起こすのは褒められなかった。

それはさすがにやらかしに該当すると解らない程、バルガスも馬鹿ではない。

「……思ったんだけどさ、ゼルート君のお兄さんになるクライレットは、なんとも思われてないのかな?」

「クライレットが? どう考えても無関係じゃない。ただ中の良い兄弟ってだけよ?」

「私たちからすればそうなんだけど、ゼルート君に対して恨みを持っている人からすれば、そうじゃなくなる可能性はあると思う」

フローラの言葉に、今まで数回だけ経験した苦く面倒な思い出が蘇る。

「そういえば……数回だけ似た様なことあったわね。全部叩き潰したけど」

「喧嘩の話か?」

「……そうね。喧嘩になるわね。確かに幼いとはいえ、仕事中に私情を持ち込んでまで意識してたとなると……恨みは強そうね」

「ん~~~~………………僕としては、あまりその可能性は高くないと思うけどね」

これまでも経験がある為、絶対にあり得ないとは断言しない。
しかし、クライレットはダンがそこまでバカな行動を起こすとは思えなかった。

「どうしてかしら? 私も八割か九割ぐらいの確率であり得るとは思ってないけど、正直五分五分だと考えてるわ」

「それは、多分過去に仕事中に問題を起こす前の話になる。僕の両親は今は貴族だけど、元Aランク冒険者であることに変わりはない。それはダン君も同じだ」

境遇が似ているからこそ、感じるプレッシャーなどが理解出来る。

「詳しい事は分からないけど、ダン君は一度大きな失敗をしてしまった。もしかしたら……ゼルートたちがその場に居なければ、本当に誰かの命が失われていたかもしれない」

「……もう後がないってことを、十分に理解しているから馬鹿な真似は起こさない。ということかな?」

「簡単に言うとそういう事だね。両親が凄いというのは確かにプレッシャーになるけど、それと同時に誇りにもなる。彼が…………本当に屑人間ではない限り、二度とその誇りを汚さないように行動するようになると思うんだ」

そもそも屑でなければ、仕事中に私情を持ち込まないだろという意見もあるだろうが……冒険者は大雑把な者が多い。
その件に関しては護衛対象の命に関わる内容だったとしても、冒険者が私情を落ち込んで戦うことはそこまで珍しいことでもなかった。
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